おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】第百二十三回 銭っ子/水島新司(原作/花登 筺)

【うちの本棚】第百二十三回 銭っ子/水島新司(原作/花登 筺)「うちの本棚」、今回も水島新司の非野球漫画作品をご紹介します。花登 筺原作の『銭っ子』は、波瀾万丈のストーリーで一気に読ませる勢いのあるものでした。

本作は水島新司の「少年チャンピオン」に於ける最初の連載作品で、本作の後『いただきヤスベエ』、そして『ドカベン』が連載されている。


  • 原作の花登 筺は『細うで繁盛記』などのドラマの作者として知られ、商人もの、根性ものを得意とする作家として知られているわけだが、本作もタイトルで感じられる通り、銭、お金にまつわるストーリーとなっている。

    東京杉並の高級住宅地の中でも豪華な家に住む会社社長の子供として生まれ、なに不自由なく育っていた気弱な主人公は、突然の交通事故により両親を亡くし、妹とふたり残されることになる。そして父の兄弟である親類の家に引き取られることになるのだが、まだ中学生だというのに学校にも行かせてもらえず働かされ、奴隷のような扱いを受け、一端は妹と海に飛び込み死のうとさえするのだが、ガタロ船の船長に助けられ、地道にでも働いて生きてゆこうとする。しかし船長が怪我をしたときに、お金がないということだけで街の医者たちが診察してくれなかったことを目の当たりにして、金を稼ごうと、妹を残してひとり旅立っていく。物語はここから始まるといってもいい。

    しかしどうすればお金を稼ぐことができるのか、商売を始めるにしても元手がなければできないと知り途方に暮れる主人公の目に、ひとりのこじきが映った。
    「こじきなら元手がなくてもできる」と真似をしてみるのだが、うまくいかない。そしてそのこじきが声をかけてきた。

    こじきとはいえ豪華な家に住み、高級レストランにも出入りする(もちろんスーツに着替えて)その男。主人公によって銭神と呼ばれることになるその男によって、主人公は金儲けのノウハウを学んでいくことになる。

    当初本作の単行本は2巻までしか刊行されず、そのまま途絶するかと思われたのだが、5年ほどの間隔をあけて3巻以降が刊行され、無事ラストまで収録されることになった。秋田書店はその時期同じように途絶していた単行本の続巻をまとめて刊行していたと記憶する(つのだじろうの『虹をよぶ拳』や藤子不二雄の『わかとの』など)。

    個人的にあまり野球漫画を読まないため、水島作品に触れる機会は少なかったのだが、本作を始めとした野球もの以外の作品を読んでみると、そのエンタテインメント性がよく分かり、水島作品をもっと読んでみたくなった。野球作品から水島新司ファンになった方にもぜひ読んでいただきたい作品である。

    銭っ子 銭っ子 銭っ子

    初出/秋田書店・週刊少年チャンピオン(1970年14号~1971年32号)
    書誌/秋田書店・少年チャンピオンコミックス(全5巻)
    〃  ・秋田コミックセレクト(全3巻)

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • 【うちの本棚】第百二十四回 男どアホウ甲子園/水島新司(原作・佐々木守)
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百二十四回 男どアホウ甲子園/水島新司(原作・佐々木守)

  • 【うちの本棚】第百二十二回 いただきヤスベエ/水島新司(原作・牛 次郎)
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百二十二回 いただきヤスベエ/水島新司(原作・牛 次郎)

  • 【うちの本棚】第百二十一回 ゴキブリ旋風/水島新司
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百二十一回 ゴキブリ旋風/水島新司

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. “視える世界”を歩く 霊能者監修「視える人には見える展 -零-」体験レポ

      “視える世界”を歩く 霊能者監修「視える人には見える展 -零-」体験レポ

      人には見えない“何か”を視ることができる人たちの目には、どのような景色が写っているのでしょうか。そん…
    2. 夏の救世主!リュウジさんの「やけくそチャーハン」はレンジで2分の革命飯

      夏の救世主!リュウジさんの「やけくそチャーハン」はレンジで2分の革命飯

      毎日暑い日が続くと、火を使う料理が億劫になるもの。そんな時におすすめのレシピを、料理研究家のリュウジ…
    3. 愛犬の誕生日に“狂気のケーキ”を手作り ホラーすぎて家族が悲鳴

      愛犬の誕生日に“狂気のケーキ”を手作り ホラーすぎて家族が悲鳴

      あらゆる意味で一生忘れられない誕生日になりそうです。4歳のシーズー犬「てんぽ」ちゃんのため、飼い主さ…

    編集部おすすめ

    1. 「M3GAN/ミーガン 2.0」公式サイトは日本公開中止の告知のみの画面に

      映画「M3GAN/ミーガン 2.0」日本劇場公開が突如中止 理由は不明

      10月10日に日本での劇場公開が予定されていた、映画「M3GAN/ミーガン 2.0」の公開中止が発表されました。8月1日に映画の公式サイトと…
    2. 「RO」シリーズ最新作「Ragnarok Online 3」、フルゲームプレイトレイラーが初公開

      ROシリーズ最新作「Ragnarok Online 3」、フルゲームプレイトレイラーが初公開

      GRAVITYは7月31日、開発中の新作MMORPG「Ragnarok Online 3」のフルゲームプレイトレイラーを公式YouTubeに…
    3. 防衛省、観閲式など原則中止 厳しさ増す安全保障環境を理由に

      防衛省、観閲式など原則中止 厳しさ増す安全保障環境を理由に

      防衛省は7月30日、「今後の観閲式等について」と題した文書を公開。観閲式、観艦式、航空観閲式について、今後は開催しない方針を明らかにしました…
    4. 朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      アニメ「鋼の錬金術師」エドワード・エルリック役などで知られる声優・朴璐美さんが、7月27日に自身のX(旧Twitter)を更新。新幹線車内で…
    5. 男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      生理やPMS(月経前症候群)などの不調を我慢せず、自分に合った「もう一つの選択肢」を持てる社会を目指すツムラの取り組み「#OneMoreCh…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト