おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【傑作ゲーム探訪】バハムートラグーン

バハムートラグーン筆者の一番好きなテレビゲームは1996年のスーパーファミコンソフト『バハムートラグーン』です。この作品は、戦乱の中でもがき苦しむ若者達を描いた群像劇です。


  • 本稿では特に、以下の3人を取り上げます。

    ・ヨヨ王女・・・カーナ王国の先代国王(故人)の娘
    ・ビュウ・・・カーナ戦竜隊の隊長。ヨヨとは幼馴染
    ・ラッシュ・・・カーナ戦竜隊の隊員

    まずはヨヨ王女。或る時、ヨヨ王女は、夢から覚めた時、自らに課せられた苛酷な運命を知り、こう言いました。
    「…………。だから……わたしは夢からさめたくなかった。ずっと夢の中にいたかった。」
    夢を利用して現実から逃避しようしていたのです。

    また或る時は、ヨヨはこう言っています。
    「やめて!なにもしりたくない!……ビュウ。つれていって……。わたし……かえりたい。いっしょに……たのしかった……かえりたい……。」

    つまり子供の頃に帰りたいと言っているのです。これに対し、ヨヨのおばは、次のように諭しました。

    「ヨヨ……。ひきかえせないのです。私もゆるされるのなら時をさかのぼりかえりたい……。なにも知ることなく強かった娘のころに……。しかしそれはかなわぬ夢……。」

    ヨヨは、これから立ち向かう困難な試煉に対して、不安で一杯でした。そんなヨヨが、何の憂いもなくビュウと楽しく遊んだ幼少の頃を懐かしみ、昔は良かった、昔に帰りたい、と思ったのは無理からぬことでしょう。

    しかし、或る出来事をきっかけとして、ヨヨの心の中から懐古の情は一掃されます。そして、それと同時に懐古の情を抱く人物が入れ替わるのです。その出来事とは何か。それは、ヨヨに恋人ができたことです。ヨヨは、前述のおばの発言とそっくりな発言を、幼馴染であるビュウに告げます。

    「ビュウ…………。いままで、ありがとう……。でも……わたし……もうもどれないの。たのしかったあのころに……。」

    失恋を喫したビュウは、老騎士マテライトと次のような会話を交わします。

    マテライト「……ヨヨさまはパルパレオス(ヨヨの恋人の名前)にべったりじゃ。ワシのことなどかまってもくれん……。ちいさいころはマテおじ、マテおじとちょこちょこあとをついてきて……。ビュウよ。ヨヨさまがはじめておぼえた言葉をしっとるか?『マテ』じゃ。おとうさまでもなくおかあさまでもなくマテ……。ワシのことじゃぞ!」

    ビュウ「むかしは良かったな……。」(←この台詞はプレイヤーの選択による)

    マテライト「そうじゃな……。ハア…………じゃ。」

    それまで懐古の情を抱いていたヨヨは、恋人ができたことで前向きな気持ちを持つことができましたが、それは同時に、ビュウをして懐古の情に浸らせることになりました。

    ところで、ビュウの懐古の情がプレイヤーの心に迫った理由の一つに、松枝賀子(まつえだ のりこ)による劇伴があるでしょう。

    ビュウがヨヨと仲が良かった頃を回想する場面の劇伴は、プレイヤーの胸を一杯にするものでした。尚、松枝は、本作の前年の作品であるスーパーファミコンソフト『フロントミッション』でも主人公が行方不明となった恋人のことを回想する場面で、心に染みる劇伴を披露しています。

    ここでラッシュについても見てみます。ラッシュは、心の中にもやもやを抱えていましたが、それが何なのか分からず、戸惑います。以下はラッシュの台詞。

    「自由……オレたちは自由ってやつがほしいのか……よくわかんねえぜ…ちくしょう!」

    また別の時には、カーナのベテラン騎士・マテライトの振る舞いを見て次のように呟きます。
    「マテライト……いつも、勝手だな……なんかオレ……すごくくやしい…。(略)」

    ここには、若者を軽んじるベテランに対する反撥が見て取れます。遂に堪忍袋の緒が切れたラッシュは、マテライトを部屋に閉じ込めるという実力行使に出ます。その時の台詞・
    「(略)これからはオレたちの時代なんだ。マテライトみたいな大人たちにはまかせておけない……。(略)」

    しかしラッシュに対するマテライトの反応は冷たいものでした。以下はマテライトの台詞。
    「(略)まだまだ引退はできんのじゃ!!あいつらにはまかせておけん……。ビュウやラッシュ……。自由だの革命だの……。あいつらのはカッコだけ……うすっぺらの言葉だけじゃ…。(略)」

    ベテランと若者の軋轢はエンディングで決着がつくことになりますが、それについてはまた後で触れます。

    さて、ビュウは、結局のところ、エンディングまで心の中のわだかまりを引っ張ることになるのですが、エンディングに於いて、世界を守護する神竜・バハムートから説教を喰らってしまいます。以下はバハムートの台詞です。

    「ビュウ……。ヨヨのこころの中でおまえはとても大切にされていた。しかしそれは思い出の中のおまえだ……いつかはきえさる記憶にすぎぬ……。ビュウ……新たなる時代は来た……。だが、新たなる時代はすぐに古き時代となる……。時間には誰もさからえぬ……。さあ、ビュウ……前だけを見てあるくのだ……。おまえが生きることができるのはつぎつぎとおしよせるいま、この時だけなのだ……。」

    この台詞が、懐古の情に対してゲームが下した結論であると言えるかもしれません。しかし、この直後、ヨヨが夢の中で「ビュウ……あなたと出会えて良かった……。」と言っているのです。これは一体どういうことなのでしょうか。ヨヨの記憶の中で、まだ現段階ではビュウのことが残っている(そのうち消えるだろうが)ということなのでしょうか。私は違うと考えています。この台詞は、誰の発言であるか明記されておらず、注意深く見ていないとヨヨの台詞だと分かりません。もし、ヨヨの心の中にあるビュウの記憶が現段階では残っているがそのうち消えることを示すのであれば、先の台詞の発言者を曖昧にする必要は無い筈ではないでしょうか。もしかしたら、どちらとも解釈できるようにしたのかもしれません。即ち、先の台詞がヨヨの台詞であると分からなかった人は、「過去を振り返るな」というメッセージを受け取ったでしょうし、先の台詞がヨヨの台詞であると分かった人は、「過去の思い出は大切なものである」というメッセージを受け取ったでしょう。

    最後に、エンディングにおけるベテランと若者の確執の結末を見てみます。マテライトは、亡き国王の玉座に向かって呟きます。
    「(略)あいつは……ビュウはとてつもない男になりましたぞ……。良い仲間がいてワシはしあわせです……」

    遂に若者を認めるに至ったマテライト(尤もラッシュについて何も言っていませんが……)。ベテランから苦言を呈されていた若者・ビュウが、なぜここまで成長できたか?その答えとして、エンディングの中でも本当に最後の、カーナ戦竜隊隊員ビッケバッケの台詞を引用致します

    「(略)
    夢は自分で見つけなきゃ
    希望は自分でつかまなきや
    幸せは歩いては来ないんだな
    (略)」

    以上を纏めると、この作品に込められたメッセージは何であったか?それは、過去の思い出を大切にしながら、前を向いて生きよ、ということなのでしょう。
    ヨヨは、ストーリーの途中から前向きに生きるようになりましたが、エンディングに見られるように、過去の思い出をも大切にしていました。これこそ、本作が訴えたかった生き方なのでしょう。

    本作には、新たなる時代とか、古きオレルス(世界の名前)とか、ひとつの時代が終わったとか、その手の台詞が頻出します。本作は、若者が心の中に葛藤を抱え、過去の思い出を大切にしながらも、前に向かって進み、成長し、新しい時代を作り上げる様子が描かれているのです。

    <スタッフ>
    発売元・スクウェア、プロデューサー・野村匡、監修・坂口博信、音楽・松枝賀子

    (文:コートク)

    あわせて読みたい関連記事
  • 華の会メール・バナー
    PR

    オトナ世代の恋愛マッチング

  • 華の会メール・バナー
    PR

    趣味でつながる30代からの恋愛マッチング \華の会メール/

  • ゲーム, コラム・レビュー・取材

    【傑作ゲーム探訪】第8回 御城プロジェクト:RE~CASTLE DEFENSE~…

  • ゲーム, コラム・レビュー・取材

    【傑作ゲーム探訪】第7回 1990年代の興奮が甦る!30代ホイホイ『インペリアル…

  • ゲーム, コラム・レビュー・取材

    【傑作ゲーム探訪】第6回 艦隊これくしょん~艦これ~

  • ゲーム, コラム・レビュー・取材

    【傑作ゲーム探訪】ときめきメモリアル

  • ゲーム, コラム・レビュー・取材

    【傑作ゲーム探訪】メタルマックス2

  • ゲーム, コラム・レビュー・取材

    【傑作ゲーム探訪】ロマンシング サ・ガ3

  • ゲーム, コラム・レビュー・取材

    【傑作ゲーム探訪】エルファリアII

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 魔改造カップヌードル
    商品・物販, 経済

    日清食品「魔改造カップヌードル」4品を新発売 定番フレーバーを背徳アレンジ

  • 企業と株主対立を“見える化” ストラテジックキャピタル、ガンホー批判サイト公開
    社会, 経済

    企業と株主対立を“見える化” ストラテジックキャピタル、ガンホー批判サイト公開

  • 無料クーポンリレー
    イベント・キャンペーン, 経済

    ファミリーマート、ファミペイ新規登録者向け「無料クーポンリレー」開始へ

  • 「文藝きっかわこうじ」表紙
    イベント・キャンペーン, 経済

    吉川晃司60歳記念「文藝きっかわこうじ」発行 UL・OSとコラボキャンペーン開始…

  • 芳根京子さん、地震保険の新広報キャラクターに就任 新CMで「なまベェ」と共演
    企業・サービス, 経済

    芳根京子さん、地震保険の新広報キャラクターに就任 新CMで「なまベェ」と共演

  • メガ焼豚ラーメン
    商品・物販, 経済

    喜多方ラーメン坂内、“肉の壁”に挑む期間限定「メガ焼豚ラーメン」販売

  • トピックス

    1. 小学生の耳からシャーペン消しゴム 耳鼻科で無事摘出

      小学生の耳からシャーペン消しゴム 耳鼻科で無事摘出

      小学6年生の男児が耳の痛みを訴え受診したところ、耳の奥からシャープペンシルの消しゴムが摘出されました…
    2. マクドナルド非公認レシピ「改造てりたま」

      マクドナルド非公認レシピ!夏のてりたま欲を満たす「改造てりたま」を作ってみた

      春限定の人気商品「てりたまバーガー」を夏でも味わうため、筆者が考案した「改造てりたま」の作り方を紹介…
    3. 江頭2:50の“トルコ伝説”がポテチ化 ファミマ限定「伝説のケバブ風味ポテトチップス」を実食

      江頭2:50の“トルコ伝説”がポテチ化 ファミマ限定「伝説のケバブ風味ポテトチップス」を実食

      江頭2:50さんが60歳の節目に放つ、まさに“レジェンド級”のコラボ商品が登場です。YouTubeチ…

    編集部おすすめ

    1. 「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる……」Xで飼い主さんにこうつぶやかれたのは、4羽の白文鳥さんたち。添えられた写真には、4羽が棚の上に連なって集まり、まるで連…
    2. 法事でオリジナルTシャツ!?音楽フェスのような斬新な引き出物が話題

      法事で配られた家紋&没年入りTシャツが話題 “フェス感”漂うセンスに爆笑

      法事の引き出物(お返し)といえばお菓子やカタログギフトが王道ではないでしょうか。しかしときには予想だにしない品をもらうこともあるようで……。…
    3. 災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      フィリップ モリス ジャパン(PMJ)が、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)と共同で、避難生活に特化した支援ネットワーク…
    4. 「週刊文春」2025年9月4日号(8月28日発売)

      週刊文春、最新号表紙は「白紙」 48年続いた和田誠さんの表紙絵に幕

      総合週刊誌「週刊文春」は、2025年8月28日発売の9月4日号で48年間にわたり表紙を飾り続けたイラストレーター・和田誠さんの絵を終了し、大…
    5. 作文嫌いの救世主 親子で楽しむ「魔法のワークシート」が超便利

      作文嫌いの救世主 親子で楽しむ「魔法のワークシート」が超便利

      夏休みの宿題において、多くの小学生が悩まされる「作文」。特に低学年の子どもにとっては「何から書けばいいのか分からない」壁にぶつかることもしば…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト