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絲山秋子”こんな本は一生に一度しか出せない” 不穏な世界への旅を通じて小説の新たな扉を拓く大傑作『細長い場所』発売。 刊行記念、小説ためし読み&著者メッセージを特別公開!!

update:
河出書房新社
個であることをやめるとき。名前も記憶も肉体も失って、気配や残像となったわたしたちの心は、最後に誰と、どんな場所を訪れるのか。岡本デザイン室装幀・オーライタロー装画、小説を包む圧巻の美麗造本にも注目。



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株式会社河出書房新社(東京都新宿区/代表取締役 小野寺優)は、絲山秋子さんの長編小説『細長い場所』(税込定価2,200円)を11月27日に発売いたします。

許さなければ、ずっとここにいることになる。
でももし許すことができれば、どこにだって行ける。
(本文より)


2003年に『イッツ・オンリー・トーク』が文學界新人賞を受賞しデビュー、その後川端康成文学賞(2004年『袋小路の男』)、芸術選奨文部科学大臣新人賞(2005年『海の仙人』)、野間文芸新人賞(2005年『逃亡くそたわけ』)、芥川賞(2005年『沖で待つ』)、谷崎潤一郎賞(2016年『薄情』)、錚々たる文学賞を受賞してきた絲山秋子さん。

このたび刊行する『細長い場所』は、22年間つねに最高の小説を誕生させてきた絲山さんが、生者と死者が混ざり合う世界への旅を描く、かつてない作品となりました。

絲山秋子さんから「刊行に寄せて」
物語は自ずからそこにあって、著者はそれを伝える担当だとわたしは考えています。無限と有限の価値が等しくなってしまう「細長い場所」で、それがやってくるのを待ち、その声に耳を傾け、手探りで文章を書きました。
さまざまな声がありました。気配の声、残像の声、水の声、動物の声。決して語ってはくれない者たちの姿もわずかながら見えました。
出発点はわたしたち人間が嵌め込まれている「型」を外してみたいという思いでした。生きている限りわたしたちは自分が自分であること、固有の顔や肉体、名前、体験や記憶を所有することから逃れられません。書いているうちに、この「型」に強く関与しているのが脳であり、生を終えることは心が脳の支配と肉体の制約から解放されることだと確信できました。
結果として少し変わった印象の作品になったかもしれません。しかし同時に、多くの人が奥深くで既に知っていることの片鱗に触れたような気もしています。
とはいえ、小難しい話ではありません。ゆるやかな球を受け止めては投げ返すキャッチボールのように、作品とご自身を行き来しながら読んでいただけたらありがたいと思っています。



本作は2023年から2025年にかけて季刊文芸誌「文藝」で発表。
連載第一回の冒頭、「川の名前を忘れてしまった。」と始まる書き出しから、土地の固有性にこだわってきたこれまでの絲山作品とはまったく異なる世界を描いていると話題を集めました。連載回を重ねるごとに、どこか夏目漱石『夢十夜』のような不思議な気配と余韻をまとった作品だという声も上がり、刊行が待望されてきた作品です。

文芸担当である書店の皆さんからも、感動の声が多く寄せられています。

意味に囚われている現代に、光となる言葉が詰まっている。
――河本理絵(焼津谷島屋吉田店)

静寂のなか、人の想いは抗うことなく流される。不思議な体験をした。
――望月美保子(BOOKSえみたす富士吉原店)

自分はこちらにいるはずなのに、
彼らと一緒にただよう心地よさと心細さに、惹かれてしまう。
――久田かおり(精文館書店中島新町店)

読み終わることがもったいない。
不思議で怖さもあるのに所々にクスッとするところがたまらない。
自分の脳が、心が、喜んでいることがわかった。
――西和美(ブックファーストボーノ相模大野)

さらに、岡本デザイン室が手がけた装幀にもご注目ください。画家のオーライタローさんの作品を表紙に、さらに文芸書では珍しいスリーブ函の仕様は、本作品を包みこむような、紙の書籍ならではの美しい造本となりました。絲山さんご本人も「こんな本は一生に一度しか出せない」と感嘆の声を寄せられています。
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刊行を記念し、小説ためし読みを特別公開いたします。
絲山秋子さんが今ひらく新境地、大傑作『細長い場所』の発売に、ぜひご注目ください!

●刊行記念!『細長い場所』ためし読み特別公開!
第4章 木に咲く花

 暗い岸辺にやってきたのは小さな木造の和船だった。
 浮桟橋から乗り込んだ私が平らな船底の板子(いたご)に腰を下ろすと、船頭もいないのに岸を離れた。
 湖のように穏やかな川面を船は音もなく進んだ。まるで意思があるみたいだと思ったが、振り返って自分が来た方を見ようとしたときの挙動から、船の舳先(へさき)が自分の視線と連動しているのだとわかった。私は自分の体のように船を操ることができるのだった。左手を水平に上げれば左方向に旋回し、右手を水平に上げれば右方向に旋回する。川の中央部にさしかかって、もう一度背後を確かめると岸辺はぼんやりと霞んでいて、灯りもわずかしか見えなかった。
 私は視線を対岸に向け、上半身を前に傾けた。すると船は速度を上げて対岸へと向かっていくのだった。冷たいまっすぐな光やどぎつく追いかけてくるような光がはっきりしてきた。ずいぶん賑やかな街のようだった。雁木(がんぎ)のある船着場が見えてきたので視線を上に向けると船は静かに接岸した。

 港の倉庫の脇に動くものが見えた。左右に、迷うように行き来していたそれは次第に近づいてきて静止した。数秒後、打たれたかのように跳ね上がり、犬のかたちとなって駆け寄ってきた。
 しかしそれは実体のある犬ではなくぼんやりした灰色の影で、手を伸ばしても触れることはできなかった。足元で私を見上げて尻尾を大きく円を描くように回していた犬のかたちはやがて落ち着いた。それから謙(へりくだ)るように頭を低くして、
「お久しゅうございます」
 と言った。口を開いて言葉を発したわけではなかったが、それは間違いなく犬の声として私の頭のなかに響いた。
「迎えにきてくれたんだ」
 私は言った。
 犬は立ち上がって体をぶるぶるっと震わせた。そして私の方を向いて尻尾をきりりと巻き上げ、
「参りましょう」
 と言った。

➜続きはWeb河出でお楽しみください。 https://web.kawade.co.jp/tameshiyomi/168906/


●著者紹介
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絲山秋子(いとやま・あきこ)
小説家。1966年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、住宅設備機器メーカーに入社し、2001年まで営業職として勤務する。2003年「イッツ・オンリー・トーク」で 文學界新人賞、2004年「袋小路の男」で川端康成文学賞、2005年『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、2006年「沖で待つ」で芥川龍之介賞、2016年『薄情』で谷崎潤一郎賞を受賞。著書に『逃亡くそたわけ』『ばかもの』『妻の超然』『末裔』『不愉快な本の続編』『忘れられたワルツ』『離陸』『小松とうさちゃん』『夢も見ずに眠った。』『御社のチャラ男』『まっとうな人生』『神と黒蟹県』『細長い場所』など。
HP: http://akiko-itoyama.jp/
X:@akikoitoyama

●新刊情報
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書名:細長い場所
著者:絲山秋子
装幀:岡本デザイン室
装画:オーライタロー
仕様:四六判/スリーブ函入り/192頁
発売日:2025年11月27日
税込定価:2,200円(本体2,000円)
ISBN:978-4-309-03244-3
URL:https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309032443/

※電子書籍の発売予定はありません。



●担当編集者より
絲山秋子さんの作品は、誰かに対して、何かに対して、どこかに対して「よそ者」であることが問われ、描かれてきました。それは現代に暮らす私たちの生そのものなのだと思いますし、物語が旅という形式をとるのも必然のことだったのかもしれません。そう考えたとき、今作は、その究極形であり、著者の新境地を示す一作だと思います。読まれた方それぞれに、それぞれの感想が浮かぶ大きな物語だと思います。生者と死者が混ざり合う不思議な世界への旅を、ぜひお楽しみください。

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