おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

高齢者の転倒・転落の原因・予防策

update:
   
学校法人 順天堂
フラツキ・不安定な歩行は前庭障害、筋機能障害、睡眠障害に関連



 順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター耳鼻咽喉科の池田勝久特任教授、リハビリテーション科の高倉朋和科長、臨床検査科の杉原匡美科長、眼科の小野浩一科長のグループは、高齢者に特有な緩徐に進行する持続性のフラツキや不安定な歩行の主な原因が前庭機能低下、筋機能障害、睡眠障害であることを報告しました。当施設では2021年12月から本邦で初めて高齢者の難治性の平衡障害、フラツキ、不安定な歩行を専門に診断、治療する2泊3日の「めまいリハビリ入院」プログラムを開設し、多数の症例を解析して今回の研究成果となりました。これらの根本的原因に応じて適切な治療法や対策を選択することで、高齢者の偶発的な転倒を防ぐことが期待されます。本研究成果はBMC Geriatricsオンライン版2024年12月27日付に公開されました。
本研究成果のポイント
- 93%以上で前庭機能低下、筋機能障害、睡眠障害の3主因が独立または複合的に関連。
- 3 つの主因の重症度スコアの合計が高い患者ほど症状が重症。
- 23% にビタミン B1 および/または B12 欠乏が合併。

背景
 日本の65歳以上の高齢者の割合は、2022年には29.1%となり、主要国の中で最も高く、今後も年々増加傾向が続き、2065年には38.4%に達すると予測されています。高齢者には多くみられる症状として、フラツキと不安定な歩行があります。フラツキや不安定な歩行は高齢者の転倒事故とも関連しています。日本では、在宅高齢者の転倒事故の年間発生率は10~25%、施設入居者では10~15%です。高齢者の転倒による外傷の発生率は54~70%で、死亡に至る症例数は交通事故の4倍と報告されています。
 原因として、加齢性前庭障害(*1)による平衡器官の衰えや加齢性視力低下による視覚情報の低下が高齢者のめまいや浮動性歩行に寄与することはよく知られています。高齢期の筋肉量の減少や筋機能の低下は歩行障害や転倒の主なリスクとなります。閉塞性睡眠時無呼吸(*2)に関連する睡眠の質の悪化が転倒リスクの増加と関連しています。また睡眠時無呼吸による脳認知機能の低下と加齢に伴う脳の変化によるバランスの認知能力の低下が相まって、フラツキと不安定な歩行が悪化します。さらにビタミンB1とB12の低下が身体機能と関連しています。
 加齢性の平衡障害の原因を明らかにして、その原因別の治療法を提供するために、2021年12月から「めまいリハビリ入院」プログラム(2泊3日)を開始しました。プログラムの検査内容として体組成計測、平衡機能検査、睡眠検査、視力検査、認知検査、血液検査脈波、心電図、呼吸機能を含み、治療の内容としては前庭リハビリテーション、栄養指導などから構成されています(図1)。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/21495/725/21495-725-31e5ac60760d4fff00864f924d848535-800x576.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1. 「めまいリハビリ入院」プログラム

内容
 フラツキと不安定歩行のある患者164名が登録されました。平均年齢は80.5±6.1歳で、59歳から91歳まででした。男性48名、女性116名で、女性/男性比は2.41/1でした。患者のほとんどは75歳から89歳までの範囲でした。80歳から84歳の患者が最も多く認められました。有病率の高い3つの因子は、前庭機能低下、サルコペニア(*3)/フレイル(*4)、および閉塞性睡眠時無呼吸でそれぞれ50%以上でした。その他には、ビタミンB1/B12欠乏(23%)、認知障害(4.9%)、および視覚障害(5.0%)がありました(図2)。
 前庭機能低下、サルコペニア/フレイル、閉塞性睡眠時無呼吸の有病率の分布を示します。31人の患者(19%)は3つの因子すべてで陽性所見を示しました。68人の患者(41%)は2つの因子で陽性を示し、前庭機能低下と閉塞性睡眠時無呼吸が16%、サルコペニア/フレイルと閉塞性睡眠時無呼吸が13%、前庭機能低下とサルコペニア/フレイルが12% 陽性でした。54 人の患者(33%) は 1 つの因子で陽性を示し、サルコペニア/フレイルが14%、閉塞性睡眠時無呼吸が11%、前庭機能低下が8%陽性でした。11人の患者(7%)3つの因子で明らかな障害を示しませんでした。164人中153人(>93%)は、これらの3つの因子がめまいと不安定な歩行の原因であると説明できました。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/21495/725/21495-725-574cb52f524a67e5ebc3ae22a61d5925-2504x1182.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


前庭機能低下、サルコペニア/フレイル、閉塞性睡眠時無呼吸の重症度スコアの合計(VSAスコア)をフラツキの症状スコアと比較すると、VSAスコアの3~5の症例群と6~8の症例群が0~2の症例群よりもフラツキスコアが有意に高くなりました。 VSAスコアの3~5の症例群と6~8の症例群では有意差は認めませんでした(図4)。
以上のように、前庭機能低下、筋機能障害、睡眠障害という3つの原因因子が、患者の93%以上で独立してまたは複合的に関連していました。これら3つの原因因子の重症スコアが高い患者は、フラツキスコアも高くなり、重症の所見を呈しました。患者の23%はビタミンB1および/またはB12欠乏を合併していました。認知障害と視覚障害は、それぞれ4.9%と5.0%で認められました。根本的な原因に応じて適切な治療法を選択することで、高齢者の偶発的な転倒を防ぐことが期待できます。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/21495/725/21495-725-92b2d9574f36c969374c046ed31fab53-600x455.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


今後の展開
 今回の研究によって、高齢者のフラツキと不安定な歩行は様々な原因が単独または複合的に関与していることが判明しました。従って、患者一人ひとりの原因や病態に適した治療法(個別化治療)が必要となります。
 前庭機能低下に対しては前庭リハビリテーションと呼称される運動療法が有用です。前庭リハビリテーションには以下の2つの運動が含まれます。眼球運動のトレーニングを1日少なくとも計20~40分間を5~7週間行う、また静的・動的バランストレーニングを1日少なくとも計20分間を4~9週間行うことが推奨されています。
 サルコペニア/フレイルには十分な蛋白質(1日体重1kg当たり1.2~1.5g)を含む食事の摂取(栄養指導)とともに筋肉トレーニングが筋力の回復に有用です。強調すべきは運動と食事は重要な治療法ということです。家族の支援や近郊のデイケア施設などの利用が必要となります。
 重症の閉塞性睡眠時無呼吸には持続陽圧呼吸療法(CPAP)が有用です。睡眠中に鼻マスクを着用し、専用の装置で鼻から気道へと圧力をかけた空気を送り込むことによって上気道を広げ、寝ている間に気道が塞がってしまうことを防ぎ、睡眠時も呼吸が維持されるようにする治療方法です。CPAP療法によってフラツキや不安定な歩行の軽減が認められます。
 欠乏したビタミンB1やB12の補充療法もフラツキや不安定な歩行の改善に有用です。認知症や視力障害が合併する場合には詳しい検査や治療を専門施設で受けることも重要です。
 今回の研究では明らかな原因として知られている炎症性内耳疾患、脳血管障害、神経変性疾患、認知症、失明などの症例は含めておりませんが、近年注目されている疾患として持続性知覚性姿勢誘発めまいも原因不明のフラツキや不安定な歩行を引き起こすことが知られるようになりました。今後は持続性知覚性姿勢誘発めまいも鑑別診断として検討する必要があります。
用語の説明 
*1 加齢性前庭障害:前庭は体のバランスを司る内耳の器官です。加齢による両側の前庭機能低下の結果、姿勢の不安定性、歩行障害、繰り返す転倒などで特徴される慢性的な障害です。
*2 閉塞性睡眠時無呼吸:睡眠中に起こる上気道の部分的または完全閉塞による頻回の呼吸停止(10秒以上持続する無呼吸または低呼吸と定義される)です。症状としては,日中の過度の眠気,不穏状態,いびき,繰り返す覚醒,起床時の頭痛などがあります。 
*3 サルコぺニア:「加齢に伴う骨格筋量の減少」と定義され、四肢骨格筋量の低下に加え、身体機能の低下または筋力の低下がある場合に診断されます。
*4 フレイル:加齢や疾患によって身体的・精神的なさまざまな機能が徐々に衰え、心身のストレスに脆弱になった状態です。フレイルの基準には、1.体重減少、2.疲れやすさ、3.歩行速度の低下、4.握力の低下、5.身体活動量の低下のうち3項目以上該当することで診断されます。
原著論文
本研究はBMC Geriatrics誌のオンライン版で(2024年12月27日付)公開されました。
タイトル: Dizziness and unstable gait in the older adults are associated with vestibular hypofunction, muscle dysfunction and sleep disturbance: Impact on prevention of accidental falls
タイトル(日本語訳):高齢者のフラツキと不安定な歩行は前庭障害、筋機能障害、睡眠障害に関連する:偶発的な転倒の予防に及ぼす影響
著者: Katsuhisa Ikeda1, Kumiko Tanaka1, Shori Tajima1, Tomokazu Takakura2, Masami Sugihara3, Koichi Ono4
著者(日本語表記):池田勝久1)、田中久美子1)、田島勝利1)、高倉朋和2)、杉原匡美3)、小野浩一4)
著者所属:1)順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター耳鼻咽喉科、2)同リハビリテーション科、3)同検査科、4)同眼科
DOI: BMC Geriatr. 2024 Dec 27;24(1):1042. doi: 10.1186/s12877-024-05620-y.

なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。 

最近の企業リリース

トピックス

  1. 山口市の二十歳の集いで「中学校のジャージキーホルダー」のカプセルトイが登場 制作者に話を聞いてみた

    山口市の二十歳の集いで「中学校のジャージキーホルダー」のカプセルトイが登場 制作者に話を聞いてみた

    2025年は1月13日「成人の日」の当日、または前日の日曜日に開催されることが多かった「二十歳の集い…
  2. レストランシェフも絶賛 サッポロ一番みそラーメンでつくる「ごま豆乳担々麺」が本格的すぎた

    レストランシェフも絶賛 サッポロ一番みそラーメンでつくる「ごま豆乳担々麺」が本格的すぎた

    インスタントラーメンの金字塔「サッポロ一番みそラーメン」を使ったアレンジレシピを、レストランで料理長…
  3. 自衛隊経験者ならピンとくる!?営内にあるベッドをDIY「ぐっすり寝れそうダナー」

    自衛隊経験者ならピンとくる!?営内のベッドを自室にDIY「ぐっすり寝れそうダナー」

    ベッドは1日の3分の1近くの時間を過ごすことになる場所ですから、お金と時間の許す限りこだわりたいです…

編集部おすすめ

  1. ニッカウヰスキー公式おすすめ チルド肉まんで作る「月見肉まん」作ってみた
    寒い時期に、スーパーなどで見かけるとつい買いたくなってしまうチルド肉まんのアレンジレシピを、ニッカウ…
  2. 「うまかっちゃん<濃い味>」の復刻版
    九州で長年愛されている即席袋ラーメン「うまかっちゃん」の発売45周年を記念して、懐かしの味「うまかっ…
  3. 画像:バレリーナ芸人 松浦景子さん公式X(@pinkpinks13)のスクリーンショット
    吉本新喜劇のバレリーナ芸人・松浦景子さんが、1月29日にX(旧Twitter)を更新しました。202…
  4. 丼からはみ出す海老フライ!かつやの「海老タレカツと親子丼の合い盛り丼」と初デートしてきた
    海老フライが3本も豪快に盛られた、「かつや」らしいボリューム満点の新作丼が発売。1月29日より、「海…
  5. 快活CLUBの不正アクセス問題 漏えいした可能性のある個人情報は729万件
    インターネットカフェ「快活CLUB」が、不正アクセスにより会員情報漏えいの可能性があるとしていた問題…

【特集】STOP!ネット詐欺!

  1. さまざまなネット詐欺に潜入調査!

    さまざまなネット詐欺に潜入調査!

     インターネット上にまん延する、さまざまな詐欺サイトに「わざと」引っかかる潜入調査記事をまとめました。
ネット詐欺へ潜入調査!記事特集

提携メディア

ページ上部へ戻る