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日本の保健体育教員向け包括的性教育オンライン研修プログラムを作成

update:
学校法人 順天堂
― 研究成果を国際誌にて学術発信 ―



順天堂大学保健看護学部の光武智美講師、筑波大学体育系の佐藤貴弘教授(本研究代表者)、米国 James Madison UniversityのCathy McKay 教授らの共同研究グループは、日本の中高教員対象の包括的性教育(CSE)(*1)オンライン教師教育研修プログラムを作成し、教員の学習成果を質的研究方法を用いて調査を行いました。光武氏はオンライン教師教育研修プログラムの作成に貢献しました。本研究は国際共同研究として実施され、ユネスコが推進するジェンダー平等や性暴力防止などの内容を日本の学校現場に実装するための基盤となる知見を示しています。本論文はMulticultural Learning and Teaching(De Gruyter社)誌のオンライン版に2025年11月5日付で公開されました。
本研究成果のポイント
- 教員向けCSEオンライン研修プログラムの研究成果を国際誌に学術発信。
- 現実の青少年の実態に基づくケーススタディで指導力の向上を試みた。
- アンドラゴジー理論に基づくオンライン学習で教員の自律的学びを促進。

背景
日本の保健体育教員は、性の生物学的側面から、中絶、性行動、性被害、ジェンダー、多様な性など、性に関する幅広い内容を扱う必要があり、指導上の負担が指摘されています。さらに、性教育への社会的議論や保護者・管理職からの反応への懸念から、授業実践に自信をもてない教員も多く、生徒の個別ニーズに応じた対応や教育活動の設計にも困難を抱えている実情があります。
これらの課題に対し、認知的・情緒的・身体的・社会的側面を統合的に扱うCSEは、学習者の自己決定や主体的判断を支える教育アプローチとして国際的に有効性が認められています。しかし、日本ではCSEを体系的に学ぶ機会が限られており、教員の力量形成を支える研修の整備が急務です。そこで、本研究は、保健体育教員を対象にオンライン型CSE研修を実施し、その学習経験を質的に明らかにすることで、教員研修の改善に資する知見を得ることを目的として実施しました。
内容
本研究では、日本の中学校・高校で保健体育を担当する教員を対象に、国内ではこれまで整備されてこなかった 教員向けのCSEオンライン研修プログラム を開発し、受講した教員6名を対象に学習経験を質的に分析しました。研究手法として、アンドラゴジー理論(成人学習理論)(*2)を基盤に設計した7つのオンラインモジュールを提供し、各教員に60~90分の半構造化インタビュー(*3)を実施しました。教材には、性暴力、性的同意、パパ活、LGBTQ、予期せぬ妊娠など、現代の青少年の実態を反映したケーススタディを用いました。データを継続的比較法で分析した結果、1.生徒が直面しうる性的リスク行動を予測すること、2.ケーススタディが研修における批判的思考の促進に有効である、3.生徒が不安を抱きやすい場面で安心して学べる環境を整える、といったテーマが抽出されました。
本研究は、教員の自律的学習を可能にするオンラインCSE研修の有用性を示した国内初の知見であり、性教育の質向上と教員研修の新たなモデル構築に寄与する点で意義が大きいと考えられます。
[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/21495/822/21495-822-a53cba94de72055c1317bd8e576f73a5-1465x794.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:本研究のモジュール内容

本研究で用いたオンラインCSE研修は、性暴力、性被害対応、予期せぬ妊娠、LGBTQ、月経など、中等教育段階で重要となる領域を7つのモジュールとして体系化したものです。実際の青少年の実態に基づくケーススタディや対話型教材を組み合わせ、教員が自律的に学べる構成としました。
今後の展開
本研究で開発したオンライン研修は、教員が安心して性に関する指導を学べる新たな仕組みとして大きな可能性をもっています。今後は、より多くの保健体育教員や学級担任、養護教諭へ対象を広げ、学校現場全体で活用できるプログラムへ発展させることが期待されます。また、教員のビリーフ(考え)の変容が実際の授業改善や生徒の学びにどのように影響するのかを継続的に検証することも重要な課題です。本研究を通じて、すべての子どもが安心して学べる性教育の実現に向け、学校・地域社会への貢献を目指します。
用語解説
*1 包括的性教育(CSE): 「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」に沿った世界基準の性教育のこと。同ガイダンスは、国連教育科学文化機関(ユネスコ)や世界保健機関(WHO)などの協力の下に作成された性教育に関する国際的標準となる手引書であり、各国の専門家の研究と実践を踏まえ、科学的な根拠に基づき、性教育に関する基本課題と具体的な実践のポイントが明示されている。同ガイダンスに基づく包括的性教育とは、子どもや若者たちに、科学的に正確であり、かつ人権やジェンダー平等を基盤とした性に関する知識やスキル、態度や価値観を、年齢や成長に即して、包括的なカリキュラムに基づき学習する権利を保障することを目的としている。
*2 アンドラゴジー理論(成人学習理論): 成人が自身の経験を基盤として自律的に学ぶ特性を示した成人学習理論。学習内容の必要性を理解した際に学習が促進され、実践に役立つ学びを求める点が特徴。
*3 半構造化インタビュー: 決められた質問を用いつつ、参加者の回答に合わせて柔軟に質問を広げられる質的研究手法。教員の経験や思考のプロセスを深く理解するのに適している。
研究者のコメント
日本の学校現場では、教員自身の羞恥心や抵抗感が性教育を難しくしているという課題があります。本研究は、保健体育教員が性に関する指導に対してどのような考えをもっているのかを明らかにし、その克服を支援するオンライン研修を開発したものです。対面では話しにくい内容も、教師が「いつでも・どこでも」安心して学べる仕組みをつくることで、質の高い性教育の実現をめざします。

原著論文
本研究は、Multicultural Learning and Teaching(De Gruyter社)誌に2025年11月5日付で公開されました。
タイトル: Learning experiences of Japanese health and physical education teachers in online comprehensive sexuality education program
タイトル(日本語訳): オンライン包括的性教育プログラムにおける日本の保健体育教員の学習経験
著者:Takahiro Sato11), Chie Kataoka1), Tomomi Mitsutake2), Cathy McKay3)
著者(日本語表記): 佐藤貴弘1)、片岡千恵1)、光武智美2)、Cathy McKay3)
著者所属: 1)筑波大学体育系、2)順天堂大学保健看護学部 3)James Madison University
DOI: 10.1515/mlt-2025-0009   

本研究の実施にあたり、ご協力いただいた中学校・高等学校の保健体育教員の皆様に心より感謝申し上げます。また、オンライン研修プログラムの開発やデータ分析にご尽力いただいた研究チームの皆様に深く御礼申し上げます。本研究は、日本学術振興会「挑戦的研究(萌芽)」の助成(課題番号21K18480)を受けて実施されました。

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