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デジタルバイオマーカー:生理学・行動データをデジタルデバイスで収集する技術 ~特許・論文・グラントからの動向分析~

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アスタミューゼ株式会社


アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、デジタルバイオマーカーに関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/722/7141-722-4333b17758b41cb8a1db4e7774635fbf-2560x1600.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


デジタルバイオマーカーとは
デジタルバイオマーカー(Digital Biomarkers, dBM)とは、スマートウォッチ、ウェアラブルデバイス、スマートフォン、その他のセンサー搭載ツールなどのデジタルデバイスによって収集&記録される生理学データ、行動データ、または環境データを指します。これらのバイオマーカーは、個人の健康状態や疾患の進行度、治療効果を客観的に評価・可視化する指標として機能します。

従来のバイオマーカー(血液検査、画像診断など)が特定の時点でのスナップショット的な評価であるのに対し、デジタルバイオマーカーは、負荷なく継続的かつリアルタイムで健康状態を測定・監視できる点が最大の特徴です。とくに2週間以上の連続したデータから作られるマーカーに価値があると考えられており、個人の長期的な変化を可視化することが可能です。

デジタルバイオマーカーが測定および分析できるおもな指標は以下となります。
- 心拍数・心拍変動:ストレスレベルや心疾患の兆候を予測
- 睡眠データ:睡眠時無呼吸症候群や認知症のリスクを察知
- 音声データ:神経変性疾患(パーキンソン病など)の進行をリアルタイムでモニタリング
- 活動量・歩行パターン:運動機能の変化や転倒リスクの評価
- 体温・血圧・血糖値:慢性疾患の日常的な管理
- 脳波(EEG):てんかん発作の予測、睡眠障害の評価、認知機能の測定、精神疾患(うつ病、不安障害など)のモニタリング

これらのデータは、従来の一回限りの検査では得られない「個人の連続的、かつ長期的な変化」を可視化し、疾患の早期発見、再発予防、パーソナライズド医療の実現に貢献する技術として期待されています。

本レポートでは、アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、特許や論文、研究プロジェクトにおける「デジタルバイオマーカー」に関する技術動向を分析しました。
デジタルバイオマーカーに関連する特許の動向
アスタミューゼの保有する特許データベースから、「デジタルバイオマーカー」、「ウェアラブル×バイオマーカー」、「生体情報の連続モニタリング」などの技術要素を要約にふくむ特許母集団5,112件を抽出し、ふくまれるキーワードの年次推移から近年進展のある技術要素を特定する「未来推定」分析を実施しました。キーワードの変遷を把握することで、ブームが去った技術やこれから脚光をあびると予測される技術を定量的に評価し、それぞれの要素技術に対する技術ステータス(黎明・萌芽・成長・実装)を予測する分析です。

2015年以降に出願されたデジタルバイオマーカー関連特許のキーワードの年次推移が図1です。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/722/7141-722-901b67221ad1cd789122eaa2752a2ada-1236x501.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:デジタルバイオマーカーに関する特許にふくまれるキーワードの年次推移

キーワードごとの成長率(Growth)は、2015年以降の出現回数と、2020年以降の出現回数の比で定義されます。値が1に近いキーワードほど直近の出現頻度が高く、近年注目されているキーワードとみなせます。

成長率上位には「心拍変動解析」、「連続血糖モニタリング」、「非侵襲的センシング技術」に関するキーワードが多く出現していることが読みとれます。その中からとくに注目のキーワードを紹介します。
- melanin-bias(メラニンバイアス):皮膚色のちがいによる測定誤差問題への対応技術。従来の光学センサーでは皮膚色素のちがいにより測定精度が変動する課題があったが、アルゴリズム補正や多波長測定により測定の公平性を実現する技術が開発されている。
- ppg-to-bp(光電脈波から血圧推定):光電容積脈波(PPG)信号から血圧値を非侵襲的に推定する変換技術。カフを用いた従来の血圧測定と異なり、ウェアラブルデバイスで連続的な血圧モニタリングを可能にする技術として注目されている。機械学習を用いた波形解析により、収縮期・拡張期血圧の高精度推定を実現。
- time-in-range(目標範囲内時間):連続血糖モニタリング(CGM)における新しい血糖管理指標。従来のHbA1cに加え、血糖値が目標範囲内(通常70-180mg/dL)に維持されている時間の割合を評価することで、より詳細な血糖コントロール状態を可視化する。糖尿病管理の質的評価における重要指標として普及が進んでいる。

これらのキーワードの急伸は、測定精度の向上、測定の公平性確保、より実用的な健康管理指標の開発など、デジタルバイオマーカーが実用化段階に入りつつあることを示しています。

続いて、特許出願数の国別動向です。企業や研究機関の出願する特許の傾向には、社会実装が近い、あるいはすでに実装済みである技術と関連する短中期の様相が反映されます。

デジタルバイオマーカーに関連する特許の国別出願件数の年次推移が図2です。なお、特許データは出願から公開までにタイムラグが存在するため、2023年までの集計値となっています。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/722/7141-722-91e9903f2fa5cf2b4c8c9ba27480f4fa-2372x1584.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2:デジタルバイオマーカーに関連する特許の国別出願件数の年次推移

特許出願数では、中国でもっとも多くの特許が出願されており、つづいて米国、韓国、EU、日本の順となっています。

中国ではとくに医療機器メーカーや大学による実用化志向の特許出願が多く、コンシューマー向けのデジタルバイオマーカーデバイスの開発が活発化していることがうかがえます。
デジタルバイオマーカーに関連する論文の動向
企業・研究機関の発表する論文は、研究開発段階にあり特許と比較して社会実装までに時間を要する技術の中長期的動向を反映します。

特許分析と同様に、デジタルバイオマーカーと関連する特徴的なキーワードをふく論文母集団27,917件を抽出しました。2015年以降に出版されたデジタルバイオマーカーに関連する論文の概要にふくまれるキーワードの年次推移が図3です。
[画像4: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/722/7141-722-0a35e497b43fcd4087fdc846c2ea175c-1317x676.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図3:デジタルバイオマーカーに関連する論文概要に含まれるキーワードの年次推移

2015年以降の論文では、先進的技術に関する以下のキーワードが増加傾向にあります。
- ahcl(Advanced Hybrid Closed Loop):次世代インスリンポンプシステム。連続血糖モニタリング(CGM)データにもとづき、インスリン投与量を自動調整するハイブリッドクローズドループシステム。人工膵臓の実用化に向けた重要技術として、とくに2021年以降の論文数が急増。
- camaps(Cambridge Adaptive Bolus Advisor):AI駆動の糖尿病管理システム。ケンブリッジ大学で開発された適応的ボーラス投与アドバイザーで、食事時のインスリン投与量を機械学習により最適化する。
- tbr(Time Below Range):目標範囲下時間、低血糖評価指標。連続血糖モニタリングにおいて、血糖値が目標範囲を下回っている時間の割合を評価する新指標。従来のHbA1cでは捉えられない低血糖リスクの可視化に貢献。
- rppg(Remote Photoplethysmography):リモート光電脈波記録技術、非接触型生体計測。カメラをもちいて顔の微細な色変化から心拍数や血圧を非接触で測定する技術。パンデミック以降、遠隔医療ニーズの高まりとともに研究が加速。
- speech-based(音声ベースバイオマーカー):音声分析による健康状態評価技術。音声の音響特徴や言語パターンから、パーキンソン病、うつ病、認知症などの神経・精神疾患の早期発見や進行モニタリングを実現する。

これらの技術は、測定の非侵襲性向上、リモートモニタリングの実現、AIと機械学習による解析精度の向上など、デジタルバイオマーカーの実用化と普及を加速する技術として注目されています。特に、連続血糖モニタリング技術の高度化と非接触型センシング技術の発展が、この分野の主要な研究トレンドとなっています。

図4は論文の国別出版件数の年次推移です。
[画像5: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/722/7141-722-fdee17142e923a3d75b77da20d4a389d-2279x1426.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図4:デジタルバイオマーカーに関連する論文の国別出版件数の年次推移

国別論文出版件数では、米国が突出しています。これは後述しますが、グラント(競争的研究開発資金)においても米国が圧倒的にリードしており、豊富な研究資金が活発な研究活動と論文出版を促進していると考えられます。
デジタルバイオマーカーに関連するグラントの動向
続いて、グラント(競争的研究資金)配賦額の動向分析です。企業や研究機関に賦与されるグラントは、特許や論文と比較して社会実装にさらに長い時間が必要な研究計画段階にある技術と関連する長期の様相が反映されます。

特許と論文の分析と同様に、デジタルバイオマーカーに関連する特徴的なキーワードを含むグラント母集団3,614件を抽出しました。2015年以降のデジタルバイオマーカーに関連するグラントの要約に含まれるキーワードの年次推移が図5です。
[画像6: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/722/7141-722-44c45e9b33e7bd4a3ef3f8ca65bcaa64-1215x526.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図5:デジタルバイオマーカーに関連するグラントに含まれるキーワードの年次推移

- dementias(認知症デジタルモニタリング):認知症の早期発見、進行評価、日常生活モニタリングのためのデジタルバイオマーカー技術。スマートフォン、ウェアラブルデバイス、スマートホームセンサーなどを活用した包括的な認知機能評価システムの開発に、特に2020年以降のグラント資金が集中。高齢化社会における重要課題として、米国NIH、EU Horizon Europeなどから大規模資金が投入されている。
- time-in-range(目標範囲内時間):連続血糖モニタリング(CGM)におけるあたらしい評価指標の標準化と臨床応用に関する研究。従来のHbA1cに加え、血糖値が目標範囲内に維持されている時間の割合を評価することで、糖尿病管理の質を向上させる取り組み。
- neurodegenerative(神経変性疾患デジタルバイオマーカー):パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症などの神経変性疾患に対するデジタルバイオマーカーの開発。歩行パターン、音声変化、認知機能評価などの多面的アプローチにより、疾患の早期発見と進行モニタリングを目指す研究。
- speech-based(音声ベースバイオマーカー):音声解析による疾患診断・モニタリング技術。特に神経疾患、呼吸器疾患、精神疾患の分野で、音声の音響特徴や言語パターンから健康状態を評価する研究に資金が投入されている。

これらのキーワードの増加は、高齢化社会における認知症対策、糖尿病管理の高度化、神経変性疾患の早期発見など、社会的ニーズの高い分野にグラント資金が重点的に配分されていることをしめしており、実用的なデジタルバイオマーカーシステムの実現にむけた研究投資が活発化していることがわかります。

つづいて、グラントの件数および配賦額を見ます。デジタルバイオマーカーに関連するグラントの国別の件数推移が図6、配賦額の推移が図7です。中国はグラントデータの開示状況が年次により大きく異なり、実態を反映しない可能性が高いことから除外しています。また、公開直後のグラント情報はデータベースに格納されていない場合があり、直近の集計値については過小評価されている可能性があります。
[画像7: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/722/7141-722-c360db9144cda0834ccc0630db71ef9f-2060x1278.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図6:デジタルバイオマーカーに関連する国別のグラント件数の年次推移

[画像8: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/722/7141-722-cd93278932213126b67a196ff80d63bc-2085x1315.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図7:デジタルバイオマーカーに関連する国別のグラント配賦額の年次推移

グラント件数では米国が最多ですが、日本も一定数が確認されました。賦与額では米国が圧倒的に多く、EUが増加傾向にあります。日本のグラント数については、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)、科学技術振興機構(JST)の未来社会創造プログラム、日本医療研究開発機構(AMED)による支援が継続されていることが要因です。

米国では国立衛生研究所(NIH)を中心に、認知症、糖尿病、神経変性疾患関連の研究に年間数億ドル規模の資金を投入しています。特にNIDDK(国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所)が2024年にデジタルヘルステクノロジーワークショップを開催し、CGM技術進展、ウェアラブル心血管モニタリング、音声・歩行解析による早期発見研究を重点化しています。

EUでも Horizon Europe と EU4Health Programme を通じた大規模投資が継続中です。2024年には遠隔ケア、在宅医療、非接触モニタリングを重点領域に設定し、MyHealth@EU(欧州健康データ空間)実装や、IHI Call 8 でデジタル臨床試験エンドポイント開発に資金配分しています。
デジタルバイオマーカーに関連するスタートアップ企業の事例

(以降、デジタルバイオマーカー技術に関するスタートアップ企業の動向分析、および全体のまとめについては、弊社コーポレートサイトの該当ページでご確認ください)

著者:アスタミューゼ株式会社 大竹 隼 修士(理学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは「デジタルバイオマーカー」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。

本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。

それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。

また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。
コーポレートサイト:https://www.astamuse.co.jp/
お問合せフォーム:https://www.astamuse.co.jp/contact/

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