2008年に日本サービスがスタートしたウェブサービスTwitter(ツイッター)。本国アメリカでのスタートから2年遅れとはいえ、日本でも瞬く間に広まり今では情報発信・収集に欠かせないツールの一つとなっています。
このため日本上陸当初より、各企業がPRを目的にアカウントを開設するケースが増え、今では「公式アカウント」と呼ばれる存在から、各企業の最新情報がダイレクトに発信されることも当たり前となり、それ以前は難しかった一般ユーザーとの交流の場としても活用されるようになったのです。
また、日本でスタートした頃より同じく増えて行ったのが、ツイッターを主戦場にする「キャラクター」たち。キャラクターの言葉として発言することができ、さらには一般ユーザーと交流をふかめることができるなどファン獲得の場として大いに活躍。中にはツイッターから活動の場をさらに広げて、リアルイベント開催やグッズ展開をはじめ、ゲームに登場する者や、ラジオ番組を持つ者など、ツイッターを飛び出しさらに有名になったキャラクターも存在しています。
中でも筆者が印象深いのは2013年という年。この年には、今でも活躍する、個性派キャラクターが多く誕生したようにおもえます。さらに言えば、企業をはじめ自衛隊や警察など公式アカウントたちの注目度が一気に高まったころ。
その2013年組の一人、泉精器のシェーバー擬人化キャラクター「松本イズミ」が、2018年6月29日をもって5年間のツイッター活動を終了すると告知しました。引退理由は「結婚引退」だと言います。
https://twitter.com/matumoto_izumi/status/1009632158988660736
これまで記事で紹介することを通じて多くのキャラクターたちと知り合い、見守ってきましたが、こうした幕引きをするケースはあまり聞いたことがありません。もし活動終了するにしても、「ひそかに」というケースが殆どで、活動しているのか休眠しているのか分からない場合も……。スタート時こそ大々的に告知するものの、徐々に発言回数が減りフェードアウトしてしまうのです。もしくはいなくなった後に「失踪」と呼ばれ騒がれるか。
プロジェクト終了とともに……という場合もありますが、2万フォロワーも有する松本イズミクラスのアカウントの場合には、たとえプロジェクトが終了したとしてもアカウント運営はそのまま継続されるか、何らかで転用され存続する場合もあります。
松本イズミは2013年4月1日に、泉精器の主力商品、シェーバーを擬人化したキャラクターとして誕生しました。ルックスは「萌えキャラ」と言われるジャンルで、広報キャラクターとしてツイッター活動を開始。キャラクターといえど「企業公式アカウント」という存在でもありましたが、ふんわりとした優しい発言、しかしたまに炸裂する天然ドジ娘な言動がうけ、フォロワーを徐々に獲得。自身の絵をあしらったシェーバーが発売され、二次創作も行われるなど、ツイッター発のキャラクターおよび企業公式アカウント全体でみても人気・知名度ともに高かったアカウントです。
実は筆者、松本イズミが活動開始する前に報道発表資料を通じて、彼女の誕生を一足先に知っていました。「今度こういうキャラクターが泉精器の広報キャラクターとして誕生しますよ!」といった趣旨の資料をみて、当時まだ数が少なかった萌えキャラ広報ということもあり、すぐに記事にしたことを覚えています。
そこで当時も今も彼女の運営を担当している、泉精器の通称M課長に連絡を取り「今だから話せること、ちょっとラフに話してみませんか?」と声をかけて口説いてみました。これまでにもM課長とのやりとりがなかった訳ではないのですが、お互いに取材する側される側という立場があり、本音で語り合うことはできなかったのです。
でも最初を知る筆者だからこそ、最後の記事もどうしても扱い、見届けたい。きちんと終了宣言をして活動を区切るアカウント運営の考え方含めて、今まで聞けなかったM課長流の「企業アカウント運営論」「キャラクター運営論」などをあれこれ聞いてみました。
筆者:
まずは5年という長い間の運営お疲れ様でした。イズミちゃんとM課長とは最初の頃の記事以来の付き合いとなりますが、まず過去を振り返りつつお話をうかがえればと思います。
最初にですが、初期イズミちゃんが誕生した経緯について改めて教えていただけますか?
M課長:
当社泉精器製作所は長野県松本市にある電機メーカーとして約80年間歩んでまいりました。古くから自社ブランドを展開しておりましたが、より多くのお客様に当社製品を知ってもらうために何ができるかを日々模索しておりました。
そんな中で、2013年2月にお客様とのコミュニケーション、お客様と近い立場で会話ができる主力商品のシェーバーを担当としたバーチャルキャラクターを生み出すべく企画いたしました。
名前の由来は長野県松本市で「松本」、泉精器製作所(通称イズミ)の「イズミ」から「松本イズミ」と名前をつけました。また、シェーバー広報担当としたのは、家電部門の主力商品であるシェーバーをもっとお客様に知っていただきたいという思いから、営業ではなく広報とし、2013年4月よりSNS(ツイッター)での運営を開始したのが大きな流れですかね。
筆者:
今でも覚えているのですが2013年ってツイッターを主戦場にする個性派萌えキャラが多く誕生した年だったと思うのです。今も頑張っている北海道のバーチャルアイドル・北乃カムイちゃんは同じ4月1日が活動スタート。ゴッドハンド株式会社(新潟県)の広報キャラクター・ニパ子ちゃんは6月。そういう沢山のキャラが生まれる中で、他との差別化など何か意識したことはありますか?
M課長:
実は、渋谷でのキャラサミ※までは他のキャラさんとはあまり絡みも無かったりするんです。カムイちゃんはバーチャルアイドルでしたし、ニパ子ちゃんは後輩ですし(笑)この頃はエゴサ(エゴサーチの略、自分の名前や評判を検索する行為)とか全然知らなかったんですよね。ましてや自発的に絡みというかお迎えに行くようなことはできないほどシャイでしたね。
知ってはいても、絡みに行けるほどメンタルは強くなかったようです。
他のキャラさんを意識するようになったのは渋谷のキャラサミ以降になるかな?
こういった出会いを経て「あぁ、人様に積極的に絡みに行って良いんだな」ってわかりました。
何かほかと違うことをしようという思いよりも、とにかくフォロワーさんとコミュニケーションがとれるようにと、毎月公式サイトの背景変更や壁紙を追加していたぐらいですかね。
メーカーとしての萌えキャラ広報というだけで、異端という時代でしたから(笑)
※キャラサミとは:2014年に第1回が開催された全国の自称萌えキャラ達が集まる学会『自称萌えキャラ学会』(通称:キャラサミ)
筆者:
二パ子ちゃんが後輩?
M課長:
渋谷のキャラサミでお会いした時に、ニパ子ちゃん誕生秘話を聞きまして(笑)
松本イズミが4月から活動を始めていたのを見てニパ子ちゃんが誕生したそうです
http://nico.ms/sm25032385
この辺が詳しく載っているかもですね
筆者:
なるほどですね(笑) それは後輩です。ちなみに二パ子ちゃんも超初期の頃イズミちゃんと同じく記事を担当してるんですよ。誕生秘話をうかがって、個人的に運命を感じてしまいました(笑)
話は変わりますが、松本という場所で、しかも老舗の会社。いきなり萌えキャラ展開を始めるとなった時に社内は大丈夫でしたか? 初期の頃ちらっと小耳に挟んだ話だと、M課長が孤軍奮闘してプロジェクトを立ち上げたと聞いた記憶が……。今だから話せます?
M課長:
ポジティブもネガティブもあったわけですが、実行することに対して社内が無関心でなかったことが、企画を進める上での原動力でしたし、プロジェクトを進めるにあたって沢山のコメントやアドバイスもいただけました。いざ実行するとなるすべてが手探りで、どう運用していくのが正しいのかがまったく解らなかったのはいい思い出かもしれません。ただ、どういう形態での運用が本当に正解だったのかは今もまだ答えは出ていません。
筆者:
孤軍奮闘と当時聞いていたので、もっとシビアな状況なのかと思っていましたが、そうではなかったんですね。ほっとしました。
ちなみにですが、個人的にこの5年間で少し気になっているのが、イズミちゃん、初期よりバスト小さくなってませんか?体型のデザインを少し変えたのかな?とこの2年ぐらい気になっていました。
M課長:
着ている服によってそう見えているのだと思います(震え声)
筆者:
変なこと聞いてすみませんでした(棒) さて、これまで5年振り返り、運営上大変だったことや転機ってありますか?先ほどのキャラサミ含め。私の記憶だと初期は本当に控えめなアカウントというか、クラスに一人はいる「かわいいけどおとなしい子」みたいなイメージだったのが、いつ頃からか大分雰囲気が変わったように思うのです。発言に躊躇いがなくなったというか。
M課長:
何人かのキャラクターアカウントの運営さんや、企業の公式さんとお会いする中で自然体で運営されている方がおられて、うらやましかったんだとおもいます。
どこからという起点は無いと思うのですが、自然体の公式さんの影響もあり、フォロワーさんの反応をうかがいながら少しずつ地を出していったのかもしれませんね。
筆者:
自然に変わっていったんですね。そうそう、聞いておかなきゃいけないことがありました。今回「結婚引退」ということなんですが、これはいつ頃から構想があったのですか?そしてイズミちゃんの結婚相手について明かせることがあれば教えてください!
M課長:
結婚相手については、ノーコメントでお願いします(笑)
中の人が変わる時ってツイッターの運用も過渡期だと思うんですけど、中の人が変わるタイミングがツイッターの運用終了かなって思っていました。
ツイッターってキャラクターに対してサポートしていただけているフォロワーさんのほかに、中の人をサポートしてくれるフォロワーさんによって成り立っていると思うんです。なので、中の人が変わればサポートしてくださったフォロワーさんとの人間関係も変わってくるんじゃないかなって思っています。ツイッターの運用の終了についての構想というかタイミングは、ちょうど今から半年ぐらい前から考えていました。
筆者:
確かに……萌えキャラアカウントではありませんが、警視庁犯罪抑止対策本部(@MPD_yokushi)ツイッター担当者の甲さん※1しかり、宮城地本(@miyagipco)のサト吉さん※2しかり、アカウントは残っても中の人が変わった場合、フォロワーさん達の反応がやはり違いますよね。そう考えると、今回の決断は本当に綺麗な幕引き案だと思います。
今後についてですが、前回うかがったように既に店頭にある松本イズミ展開の自販機などは入れ替えタイミングで徐々に終了、このため終了時期は未定で、ホームページが縮小し残る。ツイッターは終了するが、キャラクターとしては存続ということで間違いないですか?他にも何か残るカタチがあれば教えてください。
※1 甲さん:警視庁犯罪抑止対策本部(@MPD_yokushi)の元ツイッター担当者。2012年~2016年まで、「甲」を名乗りアカウント運営に携わっていた。それまでの警察アカウントとは一線を画し、一方的な情報発信ツールとしてツイッターを使うのではなく、人間味のあるソフトな語り口で一般ユーザーとも気さくに交流。通称「ツイッター警部」としても親しまれ、多くのフォロワーを獲得。本分である「特殊詐欺」などの情報拡散、周知に大いに貢献した。
※2 サト吉さん:自衛隊宮城地方協力本部(@miyagipco)の元ツイッター担当者。2012年~2015年までの3年間、宮城地本のツイッターやサイト運営などを担当。ネット用語や顔文字を多用するなど、それまでの自衛隊アカウントには無い個性を爆発。人気アカウントとして注目される一方、自衛隊の中の「地方協力本部」という存在を、活動内容を正しく伝えた……かはさておき、改めて広く知らしめた人物である。
M課長:
松本イズミのアイデンティティというか、彼女らしさはツイッターの運用終了と共に徐々に薄れていくかと思います。 形として残すものがほかにあるとすれば、WebのほかにYoutubeやニコニコ動画で公開中の動画になりますかね。
キャラクターとしての松本イズミは生き続けますし、皆様に覚えていただけている限り、イベントなどでお会いできる日があるのかもしれません。
筆者:
最後にフォロワーさん達へ向けメッセージをお願いいたします。
M課長:
今後当社の企画するイベント等でお目にかかる機会もあるかと思いますので、その時にはちょっと雑で誤脱の多いキャラクターがいたなぁと思い出していただければ幸いです。
5年という長くて短い歳月でしたが、皆様に支えていただけましたこと、心より感謝いたします。
まことににありがとうございました。
筆者:おまけ質問
最後の最後にもう一つだけ!復活する可能性は?
M課長:
松本イズミという形でのツイッター復活はありません。ただ、何か皆様のサプライズになる形で、新しいチャレンジができればと考えております。
筆者:
長い時間ありがとうございました。そしてお疲れ様でした!M課長の新しいチャレンジも期待しています!本当にお疲れ様でした。
<取材協力>
株式会社 泉精器製作所
松本イズミ(@matumoto_izumi)
(宮崎美和子)