「子猫が土に埋められていました」
こんなショッキングな文章とともに実際の写真が、5月中旬WEB上に掲載されました。子猫を救助した人物が警察に届けをだし、届け出用に撮影していた記録写真を、活動を支援している保護団体の方が当時情報を求めるために掲載したものです。
この写真は何人かの方によりSNSに転載され、拡散されました。このため詳しいことは知らないけれども、目にしたという方は多かったのではないでしょうか。
本稿では、発見までのいきさつ、救出した人たちの思い、そして子猫たちのその後についてお伝えします。まず先に書いておきますが、子猫たちはみな無事です。
■善意のリレーでつながった命
発見したのは発見場所近くで、猫ボランティアを個人で行っているSさん。
Sさんが猫の保護活動を始めたのは40年ほど前。偶然出会ったオス猫に2匹の子猫を託されたという不思議な関わりが始まりだったといいます。以来、個人で活動しつつも、活動を通じて知り合った周囲の団体にも協力してもらいながら、猫の不妊手術(Sさん曰く150匹くらい)、子猫の里親探し、病猫の保護、餌やりを続けています。餌やりしている猫のほとんどは、最期は看取りで保護し、Sさんが埋葬まで行っています。
5月9日のこの日、発見場所を毎日通る人から相談があったそうです。「(東所沢にある)手も入らないような歩道脇の密生したツツジの植え込みから、数日、子猫の声が聞こえるが、姿が見えないので一緒に探して欲しい」という内容。
そこで明るいうちに待ち合わせをして、現場に行ってみると確かに付近から猫の声が聞こえてきました。しかし、植え込みの上から枝をかき分けさがすものの、声は聞こえるのにどうしても見つからない……。するとこんもりした土が少し動いたそうです。一瞬驚いたといいますが、まさかと思い慌てて手で掘ってみると、そのまさかが現実となって現れたのでした。
出てきたのは5匹の子猫たち。植え込みの中は小さな葉が長年積もって腐葉土のようになっており、柔らかい土が被さっている状態でした。おかげで土の間に隙間ができ子猫たちが呼吸をすることができたものと考えられますが、前日付近では大雨が降っていたこともあり救出時の子猫たちは少しぬれた低体温状態。しかし、再び子猫たちが鳴き声を出したことに励まされ、休診中にもかかわらず診察を快諾してくれた動物病院に急行。多くの人たちの善意のリレーの甲斐あって、子猫たちは一命を取り留めました。
助かった子猫たちは、メス4匹、オス1匹のキジトラちゃん。子猫たちは全てSさんが引き取り大事に大事に育てています。保護から14日たった最初の取材の際には、子猫たちはまだ推定4週齢でした。当時、1日5回ほどのミルクを一度に10~20cc飲み始めたこともあり、Sさんにとっては嬉しい悲鳴であると同時に日々が育児戦争状態。
ただしいくつかまだ不安が残されており「オスは保護時には気がつかなかったのですが、足としっぽに傷があったのか化膿して、皮が剥けてしまいましたが、回復してきています。1匹のメスは胃腸の働きがいまいちなのかミルクを少量にし、回数を増やしていますが痩せ気味で、しばらく観察が必要かと思います」と、当時の取材にSさんは語っていました。
そして離乳食を開始しようとした翌週……1匹が体調を崩しつつも、それもなんとか回復。全員元気にご飯をモリモリ食べるようになりました。そんな中、支援者たちの協力もあり5匹全ての里親が決定。今後は体調をみつつそれぞれ新しい家へ引越を行い、さらにトライアル期間をへて、正式に譲渡されます。
そんな5匹そろった記事執筆時点(6月4日)の写真を提供していただきました。発見された時とは大違いのくりくりお目々で、みんな元気そう。美猫さんぞろいです。Sさんが心を砕いて愛情たっぷりに大切に育てた証しがそこにありました。
■猫を生き埋めにするのは「違法」だともっと知られて欲しい
取材を申し込んだ時に受けて下さる理由として、Sさんは「こうした望まれないで産まれた多くの猫の行く末は痛ましいです」「少しでもこうした出来事を減らすきっかけとなれば」とその思いを語っています。
子猫を土に埋めるという行為。現代社会においては明らかな動物虐待として認知されていますが、しばらく前の日本では増えすぎた猫を処分する方法として、こういう行為が暗黙だけれども当たり前に行われていた時期があります。
それを変えるきっかけとなったのは昭和48年に作られた「動物の保護及び管理に関する法律」(略称:動物保護法)。平成11年の法改正で現在の「動物の愛護及び管理に関する法律」(略称:動物愛護法)となっています。
この法律では、動物虐待等の禁止が掲げられていますが、それ以前を知る人の間ではこうした猫の処分方法が「違法行為である」という認識がきちんと周知されないままになっている人がまだ一定存在します。このため違法と知らずに、増えすぎた猫を生き埋めにする例は、今回のようにまだゼロではありません。
今回の事例について、法的問題点を法律の専門家であるサイゼン法律事務所の小池洋介弁護士にも話をうかがったところ、
「生きている子猫を土に埋めることで、死なせてしまったり、怪我をさせてしまった場合は、たとえそれが自分の飼い猫であっても、動物愛護法44条1項の犯罪に該当し、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処せられます。なお、猫に対する不保護等の虐待(飼育放棄等の虐待)は、動物愛護法44条2項の犯罪に該当し、100万円以下の罰金に処せられますし、猫を街に捨てるなど遺棄することは、動物愛護法44条3項の犯罪に該当し、100万円以下の罰金に処せられます。更に、これらの動物愛護法違反に加えて、お住まいの地域の動物愛護条例に違反する可能性もあります。
このように、猫を生き埋めにする行為は、犯罪にあたります。万が一飼いきれなくなってしまったときには、速やかに里親探しを行いましょう。また、お住いの地域の保健所に連絡すれば、譲渡対象団体を紹介してもらうこともできます。生まれてきた猫の命を大切にすべきであることはもちろん、安易に罪を犯すことがないようにしてほしいと考えます」とのお話でした。
猫を土に埋めるという行為は、猫にとっては勿論ですが、人にとっても何も良いことはありません。この行為が犯罪であると、さらに周知され全世代・全国共通の認識となることを願わずにはいられません。
■猫が増えすぎる前に「さくらねこ」 地域猫として見守る選択肢
猫は避妊手術をしないままだと年2~3回は繁殖可能だと言われています。一度のお産で生まれてくるのは5匹前後。もし5匹1度に生まれれば、年10~15匹増えることになります。さらに猫は生後半年ころから繁殖可能となるため、翌年には……。ねずみ算ならぬ、まさに猫算です。
このため現在では、育てきれない子猫をむやみに増やさないためにも、室内で飼う猫の場合でも繁殖させない場合には避妊・去勢を施すことが徐々に当たり前になってきています。
野良猫に対しても対策がすすめられており、ボランティアの方たちが協力して野良猫を捕獲(Trap)し、避妊・去勢(Neuter)を施し地域に戻す(Return)「TNR活動」というものがさかんに行われています。この活動は自治体で支援するケースも増えており、避妊・去勢に対する補助費が出る自治体もあります。
そして地域に戻された猫は「地域猫」として特定の飼い主はいないまでも地域で見守ろうというところまでがこの運動。ボランティアだけの力では猫を保護するにも限りがあり、野良猫全てを保護することはできません。だからせめてこれ以上増やさないようにしてあげて、さらに地域との橋渡しをして猫と人がうまく共存できる社会づくりが今少しずつすすめられているのです。
避妊・去勢を施された猫たちの耳には右左どちらかにサクラの花びらのような切り込みが入っています。これは稀に「虐待でも受けたのか!」と誤解されていますが、実は違い「避妊・去勢をしましたよ」という印。見た目が先述したとおりサクラの花びらに似ていることから、この印のある猫たちは「さくらねこ」とも呼ばれています。他にも「耳カット」「耳先カット」「さくら耳カット」などの呼ばれ方もあります。カットは麻酔のかかった状態で避妊・去勢と同時に行われ、痛みや出血、その後の回復まで負担のないよう、考えて行われています。
一応誤解のないよう説明しておきますが、この「TNR活動」。闇雲に猫を捕獲して避妊・去勢をしているわけではありません。地域に根ざし住み着いている野良猫が対象となっています。ボランティアの方がしばらく見守って「この子は地域に住む野良だな」と判断し、必要と思われる時に行われます。首輪のついた明らかに飼い猫とわかる個体を勝手に避妊・去勢することはありません。
ただし、飼い猫ならば外で遊ばせる時には首輪ないし飼い猫の目印をつけておくのがマナー。また、育てきれない子猫を増やさないためにも外に出す猫なら避妊・去勢をしておくのもマナーといえます。とはいえ「外出する猫」より「外出しない猫」の方が約3年も長生き(一般社団法人ペットフード協会「平成25年度 全国犬・猫飼育実態調査」参考)という発表データがあるように、近年では「飼い猫のことを大切に思うなら室内飼いを徹底しよう」という動きが徐々に浸透しつつあるので、本当に飼い猫を愛しているならば、家の中だけで飼う方が猫にとっても人にとってもきっといいでしょうね。
■避妊・去勢についての賛否両論
動物の「避妊・去勢」については賛否両論あります。上記の理由から賛成する人がいる一方で、「人のエゴ」「勝手に去勢するなんていくら野良でも可哀想」などの否定的意見も目立ちます。しかし先述のとおり、特に猫は爆発的な繁殖能力を持っています。ほっておいて近所が野良猫だらけとなり、大量の殺処分を許すことにするのか、それとも生まれてくる以前に対策をとっておく方がいいのか。
また、この手の議論の中でよく言われるのは「ボランティアがなんとかしてくれるんじゃないの?」という意見。筆者はこの手の話題をなぜか扱うようになり早数年たちますが、その間協力いただいた複数の動物保護ボランティアの方たちは年々疲弊してきているように思われます。
保護した子の中で(病気やケガ、年齢などで)譲渡できない子たちを終生飼育するために、長年続けてきた保護ボランティアをやめた方や、保護数が増えすぎてしまい自分の生活もままならないようになりかけた……という方。さらに、保護ボランティアをしているというだけで、家の前にわざわざ子猫や子犬を捨てていく人がいるという話もあります。しかもこれらは全て珍しいことではありません。
ボランティアの方は自分たちのことについては一切声を上げませんが、大きなところで言えば、昨今叫ばれる「殺処分0」のしわ寄せがボランティアの方たちに偏りすぎているのではないだろうかと感じます。「捨てる神あれば拾う神あり」という言葉がありますが、すでに拾う神に頼り切った状態を続けるわけにいかないところまで来ているように思われます。
今回取材に応じて下さったSさんは、最初の話の中でこんな願いを語っています。
「今回は発見と保護ができ周知される機会を持ちましたので、現実の把握と猫の数を増やさないTNR活動、地域猫を許容できる社会など記事にしていただけましたら幸いです。本質的には、弱いものを見たら手を差し伸べられるような人間性を養うことで、社会は随分と変わると思うのですが、壮大すぎますね」
猫に限らず、人と動物が共存していける社会作り。今は壮大に思われる未来でも、まずは一人でも多くの人が問題に目を向けることで、その一歩が始まるのではないでしょうか。
<取材協力>
Sさんおよび動物保護団体の皆様
<記事化協力>
サイゼン法律事務所・小池洋介弁護士
(宮崎美和子)