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千葉大学附属病院認知行動療法センターの清水栄司センター長、子どものこころの発達教育研究センターの勝嶋雅之特任研究員らの研究グループは、統合失調症を持った成人に対し通常の診療に加えて実施した、病院と患者さんの自宅をオンラインで接続して行った認知行動療法が有効であることを、臨床試験により明らかにしました。本研究の成果によって、これまでよりも多くの患者さんが認知行動療法に取り組むことができるようになり、通常診療に加えた統合失調症の新たな治療方法の選択肢となる可能性があります。
本研究成果は、1月14日付(日本時間)で国際医学雑誌 JMIR Formative Research のオンライン版で掲載されました。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/944/15177-944-d27986320790caf50ac23247cf394e1e-808x473.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
■研究の背景
統合失調症は100人に1人が発症する疾患といわれています。その症状は幻覚や妄想を主体とした陽性症状、無為・自閉を伴う陰性症状、注意や記憶、遂行機能の低下をもたらす認知機能障害等があります。治療の第一選択肢は薬物療法ですが、心理社会的支援をバランスよく組み合わせることで、より治療効果があるといわれています。
心理社会的支援のひとつとして認知行動療法が挙げられます。認知行動療法はうつ病や不安症等の精神疾患で効果が示されていますが、統合失調症に対しても1990年代からイギリスを中心に発展し、大規模研究から陽性症状や抑うつの改善等に有効であることが検証されています。欧米では現在、統合失調症の患者さんへの認知行動療法は治療ガイドラインにも含まれています(参考文献1)。
一方で、日本においては効果研究が存在していないことや、統合失調症の認知行動療法を提供できる医療者が不足している等の状況から、患者さんが認知行動療法を受けることが難しい状況にあります。日々の生活で感じるストレスや不安は症状再発の引き金になり、生活の質の低下のリスクにも影響をもたらすといわれています。
そこで研究グループはウェブ会議システムを活用して、患者さんのアクセシビリティを改善した「統合失調症に対するオンライン認知行動療法」を国内で初めて開発し、2021年4月から2023年3月までの2年間で臨床研究を行いました。
■研究の成果
本研究では、統合失調症で陽性症状のある患者さん24名(平均年齢33.5歳、男性10名、女性14名)を、通常診療のみを行う「対照群」と、通常診療に加えてオンライン認知行動療法を実施する「介入群」にランダムに割り付けました。介入群はタブレットPCを使用して自宅から接続して、千葉大学医学部附属病院のセラピストと週1回1回50分で全7回のオンライン認知行動療法に取り組みました。その中では患者さん自身の「感情(気分)」や「考え方(認知)」、「行動」を見直して問題の解決や対処方法の改善を目指しました。さらに「強いストレスを感じた過去の出来事の記憶」も扱って、中核信念(注1)への気づきや記憶のとらえ直しにも取り組みました。精神症状は「陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)」(注2)を使用して測定し、介入群の平均点が治療前(52.3)から治療後(42.8)に軽減したことが観察されました。(図1)。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/944/15177-944-51232eca556277d79dac8e2f4889e2f8-350x283.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:PANSS総点の比較
8週後の2群間の精神症状の変化をみると、通常の診療のみでは改善が見られませんでしたが、介入群において明らかな改善が示されその差は統計的に有意でした。また、本臨床試験における脱落者はなく、重篤な有害事象も発生することなく安全に実施することができました。
■今後の展望
本研究の結果から、オンライン認知行動療法は精神症状の改善や、不安感および生活の質の改善をもたらし、患者さんのストレス対処支援や再発予防支援に貢献する可能性が示唆されました。また、今後、病院に来院することなく遠隔での認知行動療法の受療が可能になれば、患者さんの交通機関利用に関連する精神的・経済的および身体的負担に関する不安が軽減できる可能性があります。さらに、医療者不足を補うことも今後大きく期待されます。
うつ病、社交不安症、パニック症、強迫症などのオンライン認知行動療法の有効性(参考文献2)は知られていましたが、統合失調症に対するオンライン認知行動療法の有効性を示すことができたことは非常に重要と考えております。薬物療法にオンライン認知行動療法も加えた治療を、新たな選択肢として考えていただけるようになることを願っております。
■用語解説
注1)中核信念:長年の間にできた、自分自身や世界をとらえる姿勢の「核」となる考えで、その人のこころのあり方や行動の選択、決断に大きな影響を与える思いのこと。
注2)陽性・陰性症状評価尺度(PANSS):統合失調症の重症度を測る尺度で、陽性症状・陰性症状および総合精神病理について合計30項目を半構造化された面接を行って評価する。210点満点で点数が高いほど精神症状が悪いとする。
■研究プロジェクトについて
科学研究費助成事業 基盤研究(C) 「統合失調症の外来患者に対する遠隔認知行動療法プログラムの開発とその有効性の検証」(21K11197)
■論文情報
タイトル:Effectiveness of a Videoconference-Based Cognitive Behavioral Therapy Program for Patients with Schizophrenia: Pilot Randomized Controlled Trial
著者:勝嶋雅之(a) , 中村英輝(a) (b) , 仕子優樹(c) , 花岡英紀(c) , 清水栄司(a), (b)
(a) 千葉大学子どものこころの発達教育研究センター
(b) 千葉大学大学院医学研究院 認知行動生理学
(c) 千葉大学附属病院臨床試験部
雑誌名:JMIR Formative Research
DOI:10.2196/59540
■参考文献
1)タイトル:Psychosis and schizophrenia in adults: prevention and management.
発行:NICE Clinical Guidelines
ISBN-13: 978-1-4731-0428-0
2)タイトル:Internet-based cognitive behavioral therapy with real-time therapist support via videoconference for patients with obsessive-compulsive disorder, panic disorder, and social anxiety disorder: pilot single-arm trial.
雑誌名:J Med Internet Res.
DOI: 10.2196/12091