
花王株式会社(社長・長谷部佳宏)ヒューマンヘルスケア研究所は、歯肉に軽度な炎症が見られる程度の歯周病の初期段階(軽度歯周病)ですでに、歯周ポケット内の口腔フローラ*1が、歯肉に炎症がなく口腔内が健康な状態の人(健常)とは異なることを確認しました。さらに、健常な人において、高齢者のほうが若年者よりNeisseria(ナイセリア)属をはじめとする、う蝕(しょく)・歯周病予防に寄与する可能性のある「硝酸還元菌」が多いことを見いだしました。
これらの成果は、口腔内の菌を減らす従来のオーラルケアに加え、硝酸還元菌の比率を高めることで健康な口腔フローラの形成を促すという、新たな視点でのケアが重要である可能性を示唆しています。
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今回の成果は、2025年6月24日に歯周病科学に関する世界的学術誌Journal of Clinical Periodontologyに掲載されました*2。
*1 口の中にいる細菌の集まり
*2 Akatsu,T., Souno,H., Fujii,A., Minegishi,Y., Ota,N., Yamashita,Y., Characteristics of Subgingival Plaque Microbiome in Japanese Older Adults With Healthy Gingiva, Journal of Clinical Periodontology, volume 52, issue 9, pages 1314-1326, (2025)
背景
歯周病は、歯の喪失を引き起こすだけでなく、さまざまな全身疾患のリスク因子となることが知られており、加齢とともに罹患率が高まります。そのため、生涯にわたる健康維持には、歯周病の予防が重要です。従来の歯周病ケアは、歯周病に関連する菌を減らす「殺菌」に重点が置かれてきましたが、日本人の歯周病罹患率は依然として高く、殺菌のみのケアでは不十分であると考えられます。そのため近年では殺菌に加えて、口腔内に共生する多様な菌のバランスを整える「口腔フローラ制御」というアプローチが注目され始めています。
歯周病が進行した人の口腔フローラは、歯周病に関連する菌の割合が多いことが知られていますが、歯周病に進行しつつある人の口腔フローラの状態は十分に解明されていません。そこで今回花王は、歯周病の初期段階にある人や、高齢になっても健康な口腔を維持している人に着目し、その口腔フローラの特徴について検討しました。
軽度歯周病の段階ですでに、健常な人と異なる口腔フローラが形成されていることを確認
花王は、20~79歳の男女163名を対象に、歯科臨床指標の測定と歯肉縁下歯垢の採取を行い、口腔フローラ解析を実施しました*3。健常群と軽度歯周病群の口腔フローラをβ多様性解析*4により可視化しました。この解析ではサンプル間の類似度を二次元の図に表すことで、特徴が似ているもの同士が近い距離にプロットされます。解析の結果、健常群と軽度歯周病群は異なる口腔フローラの特徴を有していることが示されました(図1)。
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近年、歯周病が進むと口腔フローラ中の硝酸還元菌の割合が少なくなることが報告されています。そこで、健常群と軽度歯周病群の口腔フローラ組成の違いをLEfSe解析*5を用いて詳細に調べたところ、ナイセリア属やActinomyces(アクチノマイセス)属、Rothia(ロシア)属といった硝酸還元菌として知られる菌が、軽度歯周病群に比べて健常群に顕著に多いことが確認されました(図2)。このことから、軽度歯周病においてもすでに、歯肉に炎症のない健常な人とは異なる口腔フローラが形成されていることがわかりました。
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*3 2019年5~6月実施
歯肉無炎症(健常):歯垢採取部位に炎症の所見が無く、最も深い歯周ポケットの深さが2mm以下。若年者(65歳未満)群76名、高齢者(65歳以上)群22名
軽度歯周病:歯垢採取部位に炎症があるか、最も深い歯周ポケットの深さが3mm以上。若年者群47名、高齢者群18名
*4 サンプルごとの細菌構成の違いをもとに、サンプル間の類似性を数値化・可視化する解析手法。群間の違いはPERMANOVAにより統計的に評価
*5 複数のグループ間で口腔フローラの構成を比較し、有意に多い細菌を識別する解析手法
健常群でも、高齢者のほうが若年者より硝酸還元菌が多い口腔フローラを有することを発見
次に、高齢になっても健康な口腔を維持している人の口腔フローラの特徴を把握するため、健常群を高齢者と若年者にわけ、軽度歯周病群と併せてβ多様性解析を行いました。その結果、健常高齢者群は健常若年者群よりも軽度歯周病群から離れた位置にプロットされており、特徴的な口腔フローラを有している可能性が示されました(図3)。[画像4: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/70897/562/70897-562-e00574a019ffee5f1c6262026001cf8f-836x691.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
そこでさらに、健常高齢者群と健常若年者群の口腔フローラの具体的な違いを調べた結果、健常高齢者群では、硝酸還元菌の割合が、健常若年者群よりも多いことを見いだしました(図4)。硝酸還元菌が産生する代謝物には、歯周病に関連する菌やう蝕菌の増殖を抑制する作用が知られており、さらに花王はこれまでにナイセリア属が歯周病に関連する菌の歯肉への感染を防ぐ作用を見いだしています*6。これらの結果から、健常な高齢者は、ナイセリア属をはじめとする硝酸還元菌を多く含む口腔フローラを保つことで、健康な口腔環境を維持していることが示唆されました。
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*6 Fukuda S, Akatsu T, Fujii A, Kawano S, Minegishi Y, Ota N. Commensal Neisseria Inhibit Porphyromonas Gingivalis Invasion of Gingival Epithelial Cells. Oral Health Prev Dent. volume 22, pages 609-616, (2024)
まとめ
花王は、軽度歯周病において、すでに健常とは異なる口腔フローラが形成されていることを確認しました。さらに、歯周病が増える傾向にある高齢でも健康な口腔を維持している人は、ナイセリア属をはじめとする硝酸還元菌がより多く存在する特徴的な口腔フローラを形成していることを明らかにしました。今後花王は、硝酸還元菌の比率を高め、健康型の口腔フローラ形成を促進することができるような研究・提案を進め、生活者が生涯にわたって健康な口腔を維持できるよう、予防歯科の推進に貢献していきます。