フィリップ モリス ジャパン(PMJ)が、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)と共同で、避難生活に特化した支援ネットワーク「EDAN(イーダン)」を9月1日に設立。
関連団体と連携し、避難生活で重要な「TKB(トイレ・キッチン・ベッド)」を備蓄、災害発生時に被災地へ迅速に届ける活動を展開します。8月27日に行われた報道向け発表会を取材しました。
■ 坂井防災担当大臣、民間主体の避難生活支援ネットワークに強い期待
EDANは、日本では初となる民間主体の、避難生活に特化した支援ネットワーク。PMJが発起人となり、運営統括をJVOADが務め、事務局を担うピースボート災害支援センター(PBV)を含む、避難生活支援の実績を持つ民間4団体が加盟します。
避難生活において重要な物資であるトイレ、キッチン、ベッドは、それぞれの頭文字をとって「TKB」と言わていますが、人の生命や尊厳を守るために不可欠な物資として平時から備蓄し、災害発生時に「まとめて迅速に」「もれなく、むらなく」届けることを目的としています。
発表会の冒頭では、坂井学 国家公安委員会委員長・防災担当大臣が登壇し、祝辞を述べました。
坂井大臣は、今年5月に建築家の坂茂氏と行ったイタリアでの視察に触れ、「行政と民間のボランティア団体が緊密に連携し、有事の際に物資や人材を迅速に被災地へ提供する仕組みが機能していた」と報告。
その上で「よりきめ細やかな被災者支援のためには、さらなる官民連携が不可欠」と述べ、日本における連携強化の必要性を強調しました。
さらに坂井大臣は、日本政府での具体的な動きについて、今年6月にJVOADがNPO法人として初めて災害対策基本法の指定公共機関に指定されたこと、民間企業が保有するキッチンカー、トイレトレーラーなど、災害対応車両の登録制度が開始されたことを紹介。
「EDANは日本の災害対策を新たな段階へと進めるもの」と高く評価し、「内閣府としても、災害時に避難者を迅速かつ効率的に支援するため、ぜひみなさまの活動と連携させていただきたい」と、協働に強い意欲を見せました。
■ 「リスクは無くせないが減らせる」PMJ社長、企業理念に基づく支援理由を語る
続いて、EDANの発起人であるフィリップ モリス ジャパン 合同会社のシェリル・ゴー社長が挨拶。避難所での厳しい生活環境が原因となる「災害関連死」に言及し、発起の背景に触れながら、問題解決に貢献すると決意を表明しました。
「今回の取り組みの背景にあるのが、『リスクを完全に排除できない世界において、その被害を最小限に抑える努力を惜しまない』という企業理念です。この考えは、加熱式たばこの開発という事業の枠を超え、防災、減災の目標とも深く通じ合っています」(ゴー社長)
EDANは、日常で使うものが非常時にも役立つという『フェーズフリー』の考え方に基づいて構築。平時から物資を備蓄しておき、災害時には迅速かつ的確に届けることで、避難所の生活環境を大きく改善することを目指すということです。
「支援が本当に必要な人々に、必要なタイミングで必要な支援が確実に届くこと、それがEDANの使命です」とゴー社長。
取り組みにおいては、民間主導ならではの機動力と社会全体の協力が不可欠であると強調し、「私たちが力を合わせれば、地域や家族、日本全体のために確かな変化を生み出せると信じています」と、幅広い協力を呼びかけました。
続いて、EDAN運営統括を務める特定非営利活動法人 全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)の栗田暢之代表理事が登壇。能登半島地震の被災地支援現場で目の当たりにした過酷な現実について、ときおり声を震わせながら語りました。
「避難所では硬い床で人が寝て、トイレはあふれ、食事も行き届かない。この悲惨な環境を何とか改善しなきゃいけないという思いで、多くのNPOと共に活動にあたってきました」(栗田代表理事)
「本当に支援を必要とする人々へ物資を届けるためには、官と民の連携、そしてセクターを超えた協力が必要不可欠」と栗田代表理事は語り、「民間企業とNPOが手を結ぶEDANは、『何かしなければいけない』という思いが結実したもの」と表現。
「避難生活の質を左右するTKB(トイレ・キッチン・ベッド)がきちんと届く体制 の充実に向け、私たちも尽力をしていきたい」と、今後の活動への強い決意を示しました。
■ 「尊厳を守る避難生活を」「災害関連死ゼロへ」EDANが取り組む支援
発表会の後半では、公益社団法人 ピースボート災害支援センター(PBV)の上島安裕理事・事務局長が登壇。EDANのプロジェクト概要について紹介しました。
上島事務局長は、近年の気候変動による災害の頻発化や、首都直下地震など今後想定される「メガ災害」に触れ、避難生活の質の悪化が原因となる「災害関連死」が深刻な課題になっていると指摘。
「尊厳を守る避難生活をすべての人に。災害関連死ゼロへ」というキーワードを掲げ、EDANの具体的な仕組みと意義を語りました。
「能登半島地震では、直接死の2倍から4倍の災害関連死が発生しています。これは防ぐことが可能であり、社会全体で取り組むべき課題。災害関連死は、無くしていけるものです」(上島事務局長)
「EDANの最大の強みは、各分野で実績を持つ団体による最強のパートナーシップ」と上島事務局長。EDANの事務局機能を担うPBVに加え、災害支援で多くの実績を持つ4つの民間団体と連携するということです。
「JVOADが全体を俯瞰し支援を調整。ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(VAN)が段ボールベッド、一般社団法人 助けあいジャパンがトイレトレーラー、NPO法人 レスキューストックヤードが被災者に寄り添う支援を提供し、PBVもキッチンカーを提供します」(上島事務局長)
これらの連携により、これまで個々の団体では難しかった、平時からの大規模な備蓄が可能に。発災後には被災地の真のニーズを的確に把握し、日本全国どこへでも迅速に支援を届けることができるといいます。
「活動のポイントは、平時に備蓄を行うフェーズフリーな対応」と、上島事務局長。平常時から行政や自治体と連携し、備えを進めていくと述べました。
■ 提供する「TKB(トイレ・キッチン・ベッド)」の形 “途切れさせない”運用も担保
発表会の後は、EDANに参加する各団体が提供する「TKB(トイレ・キッチン・ベッド)」の実モデルが展示されました。
VANが提供する段ボールベッドは、株式会社良品計画との共同開発。紙管と難燃性素材からなる軽量なフレームと組み合わせ、限られたスペースでも安心して生活空間を確保できる工夫がこらされています。
PBVが提供するキッチンカーには、フードバンクから提供された食料を搭載。
炊き出し支援のほか、食料品の支援を必要とする人々が時間や人目を気にせず「コミュニティフリッジ(公共の冷蔵庫)」として24時間利用できる仕組みとなっています。
助けあいジャパンが提供するトイレトレーラーには、多目的トイレを含む5つの個室が設置。どれも明るい照明が備え付けられており、防犯面の配慮もなされています。
トイレの場合はその性質上、定期的なメンテナンスが不可欠ですが、助けあいジャパンでは、活動を通じて構築した独自のコネクションを駆使しながら、上下水のサイクルを絶えず回し続ける人的な体制を確保。「途切れさせない」運用が担保されているということです。
レスキューストックヤードは、高齢者など、さまざまな要因によって避難所外のトイレへ移動することが難しい環境にある人々のために、室内で使用できるテント式の簡易トイレを提供。
粉末の薬剤によって水を使わずに使用できるほか、使用後の廃棄物は自動的に袋へ密封され、匂いや汚れを出さずに燃えるゴミとして処理することができるということでした。
避難生活において心身の悪化につながるリスクを限りなく最小に押さえる仕組みはもちろん、それを安定して継続し、負担をかけずに回し続けていくことが考慮された「TKB」の形。避けられない災害の中でも生き延びる可能性を広げる取り組みに、希望を感じます。
取材協力:フィリップ モリス ジャパン 合同会社
(天谷窓大)