
東邦大学、杏林大学、大阪公立大学による研究グループは、日本全国の潰瘍性大腸炎およびクローン病の有病者数に関する全国疫学調査を実施しました。その結果、2023年の潰瘍性大腸炎の有病者数は約31.7万人、クローン病は約9.6万人と推計され、2015年に実施された同調査と比較すると、8年間で潰瘍性大腸炎、クローン病ともに約1.4倍に増加していることが明らかになりました。
本成果は、軽症例や受給者証を持たない患者も含めた全国的な疾病負担を示すものであり、今後の医療政策や診療体制整備に資する基盤となると考えられます。
本研究成果は2025年9月2日に「Journal of Gastroenterology」に掲載されました。
◆ 発表者名
筒井 杏奈(東邦大学医学部社会医学講座医療統計学分野 助教)
村上 義孝(東邦大学医学部社会医学講座医療統計学分野 教授)
西脇 祐司(東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野 教授)
朝倉 敬子(東邦大学医学部社会医学講座予防医療学分野 教授)
大藤 さとこ(大阪公立大学大学院医学研究科公衆衛生学 准教授)
福島 若葉(大阪公立大学大学院医学研究科公衆衛生学 教授)
松岡 克善(東邦大学医療センター佐倉病院 消化器内科 教授)
久松 理一(杏林大学医学部消化器内科学 教授)
◆ 発表のポイント
● 全国の病院を対象とした調査により、2023年時点の有病者数は潰瘍性大腸炎で約31.7万人、クローン病で約9.6万人と推計されることが明らかになりました。
● 8年ぶりに実施した本調査により、2015年の調査時に対して、両疾患がともに約1.4倍に増加したことが確認されました。
● 本研究成果により、わが国における潰瘍性大腸炎およびクローン病の疾病負担の実態を示す重要な資料として活用されることが期待されます。
◆ 発表内容
潰瘍性大腸炎とクローン病は、再燃と寛解を繰り返す難治性炎症性腸疾患であり、日本では1991年と2015年に全国疫学調査が行われ、いずれも増加傾向が確認されてきました。2015年の調査では有病者数は潰瘍性大腸炎が約22.0万人、クローン病が約7.1万人と推計され、1991年からの24年間で約10倍の増加が確認されました。
研究グループは、全国病院リストにある内科、外科、小児科、小児外科の12,153診療科から、病床規模などを考慮した層化無作為抽出により3,583診療科を選定し、調査対象施設としました。この調査対象施設に対して2024年1月下旬に調査依頼状および資料を送付し、2023年1年間に受診した男女別の患者数(初診・再診を問わない)の回答を得ました。最終的に回答を得た1,798診療科(診療科閉鎖を除いた3,538診療科に対する回答率50.8%)の情報をもとに、有病者数を推計しました。有病者数の推計は前回、前々回の全国調査と同様に、診療科・病院規模を層とみなした層化無作為抽出による推計法を用い実施しました。
その結果、潰瘍性大腸炎の推定有病者数は316,900人(95%信頼区間:223,900~409,900)、クローン病は95,700人(61,100~130,400)となりました(図1)。いずれも2015年からの8年間で約1.4倍に増加していました。人口10万人あたりの年間有病率は、潰瘍性大腸炎が254.8人(男性:297.5人、女性:214.4人)、クローン病が77.0人(男性:112.9人、女性:43.0人)でした。
本研究により、日本における潰瘍性大腸炎およびクローン病の有病者数は一貫して増加傾向にあることが示されました。継続的に有病者数を把握することは、疾患の診断、治療、予防の全てに関わる基本情報であり、その情報を生かし、保健医療施策に反映させることは公衆衛生面、医療経済面からも重要と思われます。今後も、有病者数を含めた疾病負担の正確な把握のため、全国疫学調査を継続的に実施していく必要があると思われます。
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図1:2023年の潰瘍性大腸炎とクローン病の推定有病者数(棒グラフは推定有病者数を示し、エラーバーは95%信頼区間を示す。)
◆ 研究支援
本研究は令和5~7年度 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班(研究代表者:久松理一(杏林大学))による研究助成金により実施されました。また研究遂行にあたり、令和5~7年度 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難病疫学研究の適正推進に資する情報や知見の普及・啓発に関する研究」班(研究代表者:福島若葉(大阪公立大学))から技術的サポートを受けました。
◆ 発表雑誌
雑誌名:「Journal of Gastroenterology」(2025年9月2日)
論文タイトル:Nationwide estimates of patient numbers and prevalence rates of ulcerative colitis and Crohn’s disease in Japan in 2023
著者:Anna Tsutsui*, Yoshitaka Murakami, Yuji Nishiwaki, Keiko Asakura, Satoko
Ohfuji, Wakaba Fukushima, Katsuyoshi Matsuoka, Tadakazu Hisamatsu
DOI番号:10.1007/s00535-025-02295-z
論文URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s00535-025-02295-z
◆ お問い合わせ先
【研究に関するお問い合わせ】
厚生労働科研費 難治性疾患政策研究事業
「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班
E-mail: ibd-gast@ks.kyorin-u.ac.jp
【報道に関するお問い合わせ】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
〒143-8540 東京都大田区大森西5-21-16
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