冬は秋に収穫された米で作られた「新酒」が各蔵元から出回る時期。フレッシュな味わいが魅力ですが、実は日本酒もワインのように「熟成」させて楽しむことができるんです。

 ある蔵元がお客さんから持ち込まれた、33年保管してあった大吟醸酒の画像をTwitterに公開。新酒とはまた違う、滑らかで奥行きのある味わいだったと投稿しています。

お客様が「自宅の床下貯蔵庫から古い大吟醸が出てきたが呑めるのか?」とお持ちになりました。
確認したところ本生の平成元醸造年度 全国新酒鑑評会 金賞酒で、33年ヴィンテージでした。
お客様の同意のもと品質チェックのために開栓したところ、素晴らしい熟成をしていました!!

 このようなツイートをしたのは、筑波山を望む茨城県つくば市に蔵を構える合資会社浦里酒造店。1877(明治10)年の創業以来「霧筑波」「福笑」「浦里」の銘柄で日本酒を作り続けてきました。

 お客さんが蔵元に持ち込んだのは、平成元年醸造年度(日本酒は7月1日~翌年6月30日を「醸造年度」としています)の「霧筑波」本生大吟醸。全国新酒鑑評会で金賞を受賞したお酒で、先先代の杜氏である阿部耕一郎さん(南部杜氏)により、丹精込めて仕込まれたものです。

持ち込まれた33年ものの大吟醸酒(右)と現在の大吟醸酒(浦里酒造店提供)

 浦里酒造店の浦里治可良さんによると、日本酒もワインと同じく年を追うごとに熟成が進み、味わいが変化するとのこと。アルコール度数が15%ほどあるので、雑菌が繁殖して腐敗することはなく、どれだけ古くても飲むことができるんだそう。

 醸造年度を越して数年単位で熟成させたものを「熟成酒(古酒)」と呼びます。熟成させる環境によって多少の違いはあるものの、熟成が進むに従って酒中の糖分とアミノ酸が反応するメイラード反応(味噌や醤油の色付きと同じもの)により、透明から山吹色、そして琥珀色へと変化していきます。

 それによって様々な香気成分も生成され、できたてのフレッシュなリンゴなどを思わせる香りから、ナッツやカラメルといった奥深い「熟成香」に変化。味わいもコクや旨みが増し、角が取れた柔らかく滑らかなものに変わっていくのだとか。

 今回持ち込まれた大吟醸の場合、開栓して中身を確かめたところ、琥珀色をしたお酒はカラメルのような熟成香をまとい、水よりも滑らかな味わい。30年以上経過していることからタンパク質が凝固し澱(おり)が出たものの、アルコール耐性乳酸菌の繁殖による「火落ち」もなく、感動的な熟成具合だったといいます。

琥珀色の見事な熟成具合(浦里酒造店提供)

 このように見事な熟成が進んだ要因について、浦里さんは「遮光と温度変化が少ない地下で保存していたからです」と説明してくれました。ワインセラーを地下に設けることがありますが、それと同じような環境にあったため、期せずしてほぼ理想的な環境で保管・熟成されたようです。

 日本酒好きの間でも、知る人は決して多くない「熟成酒」。浦里酒造店では1985年より氷温での熟成を続けているそうで、ヴィンテージ日本酒に日が当たるのを今か今かと待ち望んでいる状態なのだそうです。

 「今回のツイートが伸びた要因として、多くの方が『古い日本酒は飲めない』という認識をされているからだと思うので、ぜひ多くの方に日本酒の熟成について知っていただければ幸いです」

 ツイートに寄せられた反応の中には、古いもので1995年の日本酒を冷蔵庫で眠らせているというものもあり、個人で熟成を試みている方もいる模様。日本酒は冷酒や燗など様々な飲み方ができる珍しい醸造酒でもあるので、この熟成酒の存在もメジャーになっていくといいですね。

<記事化協力>
浦里酒造店(@kiritsukuba1877

(咲村珠樹)