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PZT圧電セラミックスの本質的な圧電性を解明          -半世紀以上の未解決課題に新たな光-

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国立大学法人 静岡大学


[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/96787/43/96787-43-5640c75d55028d6d907c73ad5c9ca7c3-1018x627.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


【概要】
 静岡大学大学院総合科学技術研究科の符徳勝教授らの研究チームは、モルフォトロピック相境界(MPB)近傍のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)強誘電体(1)単結晶における本質的な圧電特性(2)を解明した。この研究は、70年以上にわたって未解明であったPZT圧電セラミックスの巨大な圧電応答の起源に迫るものであり、さらに薄膜応用におけるドメイン(3)効果などの外部要因の重要性を示唆している。この発見は、強誘電材料の研究において新たなベンチマークを打ち立て、MEMSデバイスなどの分野で圧電薄膜の革新的な応用に繋がる研究への発展が期待されている。
 この成果は、米国化学学会の専門誌「ACS Applied Electronic Materials」に受理され、8月28日にオンライン版で公開されている。

●研究の背景
 PZT圧電セラミックスは、その優れた圧電特性から、胎児や心臓病の超音波検査、建築物の内部劣化診断、超音波洗浄、自動車のセンサー技術など、さまざまな分野で利用されている。さらに、MEMSデバイスや単原子レベルでの超精密位置操作を行う次世代技術にも応用されている。
 しかし、1952年に初めて報告されて以来、MPB(モルフォトロピック相境界)近傍におけるPZTセラミックスの巨大な圧電応答の正確な起源は未だに解明されていなかった。MPB近傍のPZTは、菱面体晶、正方晶、単斜晶の結晶構造が共存可能なため、MPB組成のPZT単結晶の育成には成功していなかった。このため、PZTセラミックスの巨大な圧電応答が単結晶に由来するものか、ドメイン効果などの外部要因によるものかが不明のままであった。本研究は、この長年の謎に対して解決の糸口を示したものである。

●研究成果
 静岡大学大学院総合科学技術研究科の符徳勝教授と静岡大学電子工学研究所の鈴木久男客員教授による共同研究では、MPB近傍に位置する正方晶PZTの本質的な圧電特性に焦点を当てた。SUS基板の熱膨張による圧縮応力とLaNiO₃の安定成長面(100)を活用し、正方晶の分極軸であるc軸方向に配向したPZT薄膜の作製に成功した。このc軸配向膜では、ドメイン反転による外因的な圧電効果が存在しないため、結晶の本質的な圧電効果を解明できた。実験の結果、MPB組成のPZT単結晶の圧電定数d₃₃は46.3 ± 4.4 pm/Vであることが判明し、第一原理計算によって予測された室温での圧電定数50~55 pm/Vという数値とも一致した。
 さらに本研究は、MPB近傍でのドメイン効果が巨大な圧電応答において中心的な役割を果たすことを示唆している。また、薄膜応用におけるドメイン効果の重要性が認識され、MEMSデバイスなどに用いられるPZT薄膜材料の設計に新たな指針が示された。

●研究成果の意義と今後の展開
 本研究は、1952年以来の謎であったPZTの巨大な圧電性の起源に対する答えを提示するものであり、圧電材料分野における画期的な成果である。この発見により、圧電材料の設計や新たな応用可能性が大きく広がることが期待される。今後は、この研究で得られた知見を基に、さらなる高性能圧電材料の開発が進むとともに、ドメイン効果を有効に発現できる材料設計によって、MEMSデバイスやセンサー技術など、次世代のエレクトロニクス分野における応用が一層加速すると期待されている。

●論文
題目:「Intrinsic piezoelectricity of PZT」
著者:Desheng Fu, Seiji Sogen, Hisao Suzuki
掲載誌:ACS Applied Electronic Materials
DOI: https://doi.org/10.1021/acsaelm.4c00862

[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/96787/43/96787-43-7b01a5514d1845a3820eb7497700199d-1059x783.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


●用語説明
(1)強誘電体、強誘電性:強誘電体とは、物質を構成するイオン(本研究のPZT(PbZr1-xTixO₃)の場合、Pb²⁺、Ti⁴⁺、およびO²⁻)が変位することで自発分極が生じ、さらに外部電場によって分極の向きを反転できる物質のことを指す。この特性を強誘電性と呼び、強誘電体は同時に圧電性や誘電性あるいは焦電性も示す多機能材料である。正方晶の強誘電体では、自発分極は結晶のc軸方向にのみ生じ、このc軸は分極軸とも呼ばれる。他の代表的な物質としては、積層セラミックコンデンサーなどに用いられているチタン酸バリウムがある。

(2)圧電性、圧電素子:圧電性には、結晶に圧力を加えると結晶表面に圧力に比例した電荷が発生する正の圧電効果と、結晶に電圧を加えると結晶がその電圧に比例して変形する逆圧電効果がある。この比例定数は圧電定数と呼ばれる。単結晶が得られなくても、正方晶のc軸方向に配向した膜が作製できれば、正方晶単結晶の分極軸の本質的な圧電定数d₃₃を決定することができる。圧電素子は、この圧電性を利用して、電気信号を機械的な動作に変換したり、逆に機械的な動作を電気信号に変換する機能を持っている。このため、圧電素子はインクジェットプリンターのインクジェットヘッドや、超音波診断装置などの医療機器の主要な部品として、様々なエレクトロニクス製品に応用されている。

(3)強誘電体ドメイン:自発分極の向きがすべて同じ方向に揃った領域は、単一ドメイン(分域)と呼ぶ。しかし、エネルギー的に安定させるために、強誘電体内では複数のドメイン(マルチドメイン)が存在する。隣接するドメインの分極方向が平行でない場合、外部の電場などによる刺激で分極の向きが変わり、その結果、外因的な圧電効果が発現することがある。

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