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ネット詐欺の対策にAIが有効?“相談相手”としての新しい使い方とは

 「あなたのアカウントが危ないです」——そんな不安を煽る“詐欺メール”。さらには次々と現れる、「簡単に稼げる」などとうたう、怪しげな求人募集のSNS広告。現代はまさに「大ネット詐欺時代」と言っても過言ではありません。

  •  こうした詐欺を防ぐには、まず「関わらないこと」が大切だと言われています。それでも、危機感を刺激するようなメールや、「楽して高収入!」といった誘い文句には、つい反応してしまいがち。うっかりクリックしてしまい、その先でカード情報を入力させられたり、現金を振り込まされたりするケースも珍しくありません。

     長年ネット詐欺事情を見つづけるうちに、ひとつ気づいたことがあります。それは、「誰かに相談すること」も、被害を防ぐための強力な手段になり得る、ということです。

     もちろん、身近に相談できる人がいれば安心ですが、実際に被害に遭った方の中には、「相談しづらかった」「周囲に頼れる人がいなかった」「誰に聞けばよいか分からなかった」といった声が多くあります。

     ……そう、解決法は「気軽に相談できる相手」がいればいい。ただそれだけなんです。

     いるじゃないですかぁ。現代には「気軽に聞ける、最強の相談相手」、AIが。

     以前から詐欺事件を追う度に、ためしにAIに詐欺情報を入力して反応をみてみました。すると、かなりの精度で的確なアドバイスをしてくれることが分かりました。特にネット詐欺に関する知識は、十分に信頼できるレベル。

     そこで今回は、AIを相棒にして実際のネット詐欺案件に潜入。どうアドバイスしてくれるのか試してみました。

    意気込みを聞いてみた

    ■ ネットで募集の怪しいバイト

     今回AIとともに潜入するのは、SNSなどを通じて突然送られてくるDM(ダイレクトメッセージ)経由のアルバイトです。

     どれも「簡単に稼げる」といった甘い言葉で誘い込みますが、行き着く先は2パターン。話の流れでお金を搾取する事が目的のパターンと、非常に危険なアルバイト、いわゆる「闇バイト」の場合も少なからず存在しています。

     今回筆者に送られてきたメッセージは次のようなもの。

    スカウトメッセージ

    「現在、アルバイトの募集をしています。1日30~70分でできる簡単なお仕事です。毎日5000円~50000円の収入を得るチャンス!」

     などと、まさに「怪しい」匂いしかしないメッセージ。

     ということで、この方にコンタクトを取り、具体的にどんな内容なのか、本当に儲かるのか。その辺をしっかり確認した上で、やりとりしてみたいとおもいます。

     ちなみに、この段階でAI(ChatGPTとGemini)に相談してみたところ……

     「それ、かなり怪しい可能性が高いです」との回答。その上で、どこが怪しいのか、どんなリスクが潜んでいるのか、さらに具体的な対策まで丁寧に教えてくれました。

     一見それっぽく見える、つい信じたくなるようなメールが届いたときでも、まずはAIに内容を読み込ませてみる。このひと手間だけで、詐欺被害のリスクをグッと下げることができるのです。

    ChatGPTの回答

    ■ どのような内容なのか

     さて、仕事はLINEでのやり取りがメインとなるようなので、まずは指定のLINEを登録。

     すると毎度の如く怪しい誘いにはつきものの、綺麗な女性アイコンが登場。この女性が「楽して大金が稼げるアルバイト」を紹介してくれるようです。

    闇バイト募集で追加されるLINE

     仕事の内容について聞くと、マーケティング会社「S社」から依頼を受け、アプリストアでの知名度とダウンロード評価データを向上させ、「最適化」を図る支援とのこと。

    仕事内容や会社の説明

     「最適化」の具体的な説明を求めてみましたが、「製品のデータをプラットフォームに一括で提出するだけ」「作業プラットフォームで(30〜60分を費やし)、2セットにわたって40項目のデータを投稿」など、よく分からない説明を返してきました。何度読んでも……うん、わからん。

    わけ分からない説明

     しかし、こうした意味不明な説明こそが、この手の怪しいビジネスによく見られる特徴のひとつ。理解させようとしているのではなく、理解できないけど素直に従う人(カモ)を詐欺師たちは探しているからです。

     ちなみに、この「S社」はアプリやゲームの人気、売り上げ、広告動向などを分析し、最近日本にも進出して話題の企業。実在する企業のため、ここでは社名の公表は控えます。

     ここまでの流れから「怪しい」と判断してきましたが、本当に「詐欺」や「闇バイト」であるかどうか、確かな確証があるわけではありません。

     そこで登場するのが、相棒「AI」。これまでの内容を伝えたうえで、「安全なアルバイト」かどうかを判断してもらいます。

    ■ AIに聞いてみた

     今回メインで使用するAIは「ChatGPT-4o」です。

     もちろん、AIも万能ではなく、時に誤った情報を提示することもあります。あくまで「意見のひとつ」として受け取り、最終的には人間の判断材料として活用する、というスタンスです。

     ということで、依頼された仕事内容や「最適化」について、AIに意見を求めてみたところ……

    「これは非常に怪しいです。安全ではない可能性が高いです。具体的にどこが危険なのか、わかりやすく解説しますね」

     と、明確な警告が返ってきました。やはり、AIの目から見ても“怪しいビジネス”と判断されたようです。

     AIが挙げた問題点には、以下のような“よくある詐欺的手法”が含まれていました。

    (1)仕事内容が曖昧で、具体的な説明がない

    (2)実在の企業名を使って、あたかも信頼できるように見せかけている

    (3)「◯円稼げます!」といった報酬の魅力だけを強調している

     こうした要素は、ネット詐欺や怪しい副業案件に共通する典型的な特徴。

     私たちはこれまでにも、こうしたやり取りを100件以上確認してきました。その経験から見ても、AIの指摘には納得できる部分が多く含まれています。

    AIにこのビジネスについて聞いてみる

    ■ AI 対 詐欺師

     ではここから、もう一歩踏み込んでみましょう。AIに「どんな矛盾点や問題点があるのか」を詳しく洗い出してもらいます。

    AIに「どんな矛盾点や問題点があるのか」を詳しく洗い出してもらう

     その回答をもとに、相手の発言に潜む矛盾を指摘し、それに対してどのような反応が返ってくるのかを確認していく、という流れです。

     まず、AIに「どこに問題があるか」を聞いてみたところ……

    「これはアプリストアの規約違反では?」
    「S社の業務内容と一致しませんが?」

     鋭い指摘が返ってきました。

     たしかに、レビューや評価を意図的に操作する行為は、アプリストアのポリシーに反している可能性があります。そうなると、その情報を元に「通報する」という対応もアリ。

     そして「S社」が、アプリのレビューや評価を上げ、“最適化”するような業務は確認できないという点は、一理あります。

     この点を突けば、相手も反論は難しいでしょう。ということで、質問してみたところ……。

    あくまで正規バイトだと言い張る

     見事に話をそらされ、「仕事を続けたくなければ辞めてもいい」などと言い出しました。

     「おいおい、話をそらすんじゃないよ!」と言いたいところですが、そこを指摘しても堂々巡りの予感がします。

     そこでもう一つ、AIから提案されたアドバイスがあったのでそちらを仕掛けてみます。

    ■ 契約書を出せと言ってみた

     もう1点、AIからのアドバイスとして「契約書」を見せてもらうことを提案されております。

     仕事を受けるということは確かに、契約書が必要。契約内容によって、仕事を受けるかどうかを判断するのは、普通のことです。

     ということで「契約書」について聞いてみたところ……。

    契約書について聞いてみた

     なんと、「契約」をする前に「最適化」の作業を5日間完了させる必要があるとのこと。契約前に仕事をさせるという、なんとも無茶苦茶ブラックな企業体質。

     代わりに送られてきたのが、別にこちらが求めてもいない「事業許可証」なるもの。この「事業許可証」には「The State of Washington」などの記載があり、一見すると本物のように見えます。

    法人設立証明書

     念のためにこの「事業許可証」についても、AIに見てもらいました。

    「The State of Washington」なのに発行者が「Secretary of New York」 これは明らかな矛盾です。
    「ワシントン州」の証明書に、「ニューヨーク州のSecretary of State」の名前(Chris Stearns)が出てくるのはありえません。
    各州の証明書は、その州の担当官が署名します。州が違うのは完全に偽物か改ざんです

     と、一刀両断、バッサリである。「事業許可証」は改ざんしたもの、もしくは偽物である可能性をあげてきました。

     念のために書かれていたUBI番号(ワシントン州が発行する法人・事業者の登録番号)を、州の検索ページで検索してみたところ……出てきたのは別の社名。はいアウト!偽造確定です。

     相手は、安心材料を提供するつもりが、むしろ地雷を踏んでしまったようです。ということでこの点について指摘してみます。

    ■ 「事業許可証」は偽物と指摘すると

     「事業許可証」について「矛盾」がある点を指摘し、どういうことなのか説明を求めました。

     すると……「既読」にはなるが、返信が来なくなりました。先ほどまで、少なくとも5分以内には返信がきていたのにです。どうも様子がおかしい。

     そこでさらに追い打ちをかけ「LINEに通報する」との警告を出してみました。

     この点に関しても「既読」はついたものの、返信はナシ。どうやら筆者を「面倒な相手」と判断したのか、一切返信がなくなってしまいました。ブロックしたな!

    通報すると警告をする

     ということで、今回は「詐欺被害防止の強い味方になるのでは?」という疑問から、実験的にAIを相棒に迎えてやりとりをしてみましたが、やはり「とても心強い味方になる」という結論にいたりました

     ただし、「AI」も必ずしも完璧ではありません。その点は念頭に置く必要がありますが、それでも「相談する相手」や「すぐ相談できる相手がいない」人にとっては、頼れる存在になることは確実。

     AIは時間を気にせず、気軽に相談することのできる相手。特に「私はだまされやすい」「詐欺に遭ったことがある」という人は、気軽に相談してみることをおすすめします。なお、すでに被害にあった後の場合には、警察などの機関に相談することが重要。その点だけはわすれないでください。

    (たまちゃん)

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