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光ファイバー内の単一原子を選択的に励起し、単一光子の生成に成功 ~光量子通信ネットワークにおける高効率な伝送技術への応用に期待~

update:
東京理科大学


【研究の要旨とポイント】
単一光子光源は、絶対的な安全性を有する光量子通信を実現するためのキーデバイスであり、生成された単一光子を光ファイバーで高効率に伝送することが重要となります。

光ファイバーに添加されている希土類原子集団へ集光したレーザー光を照射し、単一の希土類原子だけを選択的に励起することで光ファイバー内に直接単一光子を生成し、効率的に導波させることに成功しました。

本研究成果は、次世代の光量子通信ネットワークにおける高効率な伝送技術への応用が期待されます。

[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/102047/201/102047-201-be80c7506c0d102a202675c38ce909a1-3900x2194.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


【研究の概要】
東京理科大学大学院 理学研究科 物理学専攻の清水 魁人氏(2025年度 博士課程3年)、同大学 理学部第一部 物理学科の長田 朋助教、佐中 薫准教授らの研究グループは、光ファイバーに添加されている希土類原子集団のうち、単一の希土類原子だけを狙い撃ちして励起することで、光ファイバー内に直接単一光子を生成し、効率的に導波させることに成功しました。

情報の強固な安全性を保持するために、量子力学の原理を利用した量子通信技術(*1)の重要性は近年ますます高まってきています。光を用いた量子通信技術の実現へのキーデバイスとなるのが、光子1つ1つを制御することができる単一光子光源(*2)です。光量子通信では、この単一光子光源から生成した単一光子を、光ファイバーにより少ない損失で遠隔地へ伝送させることが重要となります。

従来の手法では、量子ドット(*3)などの単一光子を放出する光源を光ファイバーの近傍に設置することで、単一光子を外部から光ファイバーに接続し導波させる方法が用いられていました。これに対し、本研究では光ファイバーの内部に添加された希土類原子を利用し、集光したレーザー光を光ファイバーの側面から照射することで、特定の単一希土類原子を選択的に励起する手法を提案しました。この手法では、光源となる希土類原子が光ファイバーの内部に存在するため、光ファイバーの内部に直接単一光子を生成することが可能となり、生成した単一光子を光ファイバー内に効率よく導波できることを実験的に示しました。本研究成果は、単一光子光源から伝送まで光ファイバーで統合された次世代の光量子通信ネットワークの実現につながることが期待されます。

本研究成果は、2025年9月18日に国際学術誌「Optics Express」にオンライン掲載されました。

【研究の背景】
量子コンピュータの発達により、既存の通信システムでは安全性の確保が困難になる事態が予想されており、情報の絶対的な安全性を確保するために、量子暗号通信の重要性が高まっています。光を用いた量子通信の実現のためには、光子1つ1つを制御できる単一光子光源の開発と、生成した単一光子を遠隔地へ伝送する仕組みの構築が重要となります。単一光子は、光ファイバーを用いることで少ない損失で遠方へ伝送することが可能であるため、光ファイバーと一体化した単一光子光源は、光量子通信の鍵を握るデバイスとなることが期待されています。
 
本研究グループは、以前に光ファイバーの内部に添加された希土類原子を利用して、室温下で単一光子を生成する手法を提案しました(※1)。しかし、これまでは対物レンズを用いて光ファイバーの側面から単一光子を集光していたため、生成した単一光子を1度光ファイバーの外部に取り出し、再度光ファイバーに接続して導波させる必要があり、単一光子を伝送する効率が小さいという問題がありました(図1(a))。また、生成した単一光子の集光効率は対物レンズの性能により制限されてしまうという原理的な課題も残されていました。
 
そこで本研究では、光ファイバーの側面から励起光を入射することで、ファイバー内の希土類原子を1つだけ選択的に励起し、光ファイバーを通して単一光子を集光する手法を提案しました(図1(b))。これにより、光ファイバー内部に直接単一光子を生成し、光子を1度も光ファイバーの外部に取り出すことなく、効率的に伝送することが可能となります。

※1: 東京理科大学プレスリリース(2023年11月2日付)
『量子暗号通信などの次世代技術におけるキーデバイス『単一光子光源』の実用化に大きく前進~室温で光ファイバーから単一光子を直接発生させることに成功、鍵は希土類原子~』


[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/102047/201/102047-201-10a3f86bda7ecf14ed1009afd814b252-340x147.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1 (a) 以前に提案した単一光子生成手法。生成された単一光子は、光ファイバーの側面から対物レンズにより集光される。(b)本研究で提案した単一光子生成手法。生成された単一光子が光ファイバーを通して集光される。


【研究結果の詳細】
本研究では、単一光子を生成する希土類元素としてネオジム(Nd3+)を使用しました。Nd3+イオンは近赤外~光ファイバー通信波長帯まで幅広い発光波長を持つため、1つの元素で目的に応じた発光波長を選択することが可能となります。同大学のMark Sadgrove准教授の協力のもとで、Nd3+イオンが添加された光ファイバーに加熱・延伸加工を施し、光ファイバー内に単一のNd3+イオンが分離されている箇所を有するデバイスを作製しました(図2(a))。
 
作製したデバイス内の単一のNd3+イオンに光ファイバーの側面から励起光を入射し、Nd3+イオンから放出された光子を同じ光ファイバーで集光して光子相関測定を行い、単一光子が生成されていることを実験的に示しました(図2(b))。また、光子相関測定の結果から、本研究の光ファイバーによる集光手法が、従来法よりも高い効率で光子を集光できることを示しました。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/102047/201/102047-201-5767e29bb9e983630fbb2505fce5f2d1-412x195.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2 (a) 延伸加工を施したネオジム原子添加ファイバーからの発光の様子。光ファイバー内で他の原子から分離された単一原子(丸印)からの発光が見られる。(b) 単一光子が生成されていること検証するための光子相関測定結果。遅延時間が0のときの2次の相関関数が、単一光子が生成されていること示す0.5より小さい値を示している。


本研究を主導した佐中准教授は「これまで光量子通信のための単一光子光源と光通信ネットワークは別々の技術として開発が進められてきましたが、我々の手法で光源とネットワークがすべて光ファイバーで統合された光量子通信が可能になります」と、コメントしています。

【用語】
*1: 量子通信技術
従来の通信とは異なり、量子力学の性質を利用した次世代の通信技術。光子1つ1つを使って情報を送る技術で、理論上は盗聴不可能なため、より安全な通信が可能となる。

*2: 単一光子光源
光子を1つずつ、必要な時に正確に作り出すことができる装置。通常の電球やLEDは大量の光子を一度に放出するのに対し、単一光子光源は光子1個という最小単位での制御が可能。

*3: 量子ドット
数ナノメートルという極めて小さな半導体の粒子。非常に小さなサイズのため、量子力学的な効果が現れ、電子や光子を精密に制御することが可能。ディスプレイや太陽電池などにも応用されており、単一光子光源としても注目されている材料の1つ。

【論文情報】
雑誌名:Optics Express
論文タイトル:Selective excitation of a single rare-earth ion in an optical fiber
著者:Kaito Shimizu, Kazutaka Katsumata, Ayumu Rikuta, Tsuyoshi Kanemoto, Kei Sakai, Tomo Osada, and Kaoru Sanaka
DOI:10.1364/OE.570912

※PR TIMESのシステムでは上付き・下付き文字や特殊文字等を使用できないため、正式な表記と異なる場合がございますのでご留意ください。正式な表記は、東京理科大学WEBページ(https://www.tus.ac.jp/today/archive/20251014_8901.html)をご参照ください。

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