10月14日、国産つまようじ製造を手掛ける「菊水産業株式会社」の公式Xアカウントが、同社代表取締役・末延秋恵さんのなりすましアカウントが出現しているとして注意を呼びかけました。
「友達申請やDMを送りまくっているようです」「本物は@akie0923、偽物は@akie09233」……そんな投稿から始まった今回の騒動。筆者はこの“偽お菊社長”にあえて接触し、その目的を探ってみることにしました。
■ 最近は“一般の人”もターゲットに? 広がるなりすまし被害
そもそも「菊水産業」とは、日本でわずか2社しかない「国産つまようじ製造業」を大阪で営む企業です。一方、X(旧Twitter)では企業アカウントの中でも絶大な人気を誇り、約11万人のフォロワーを抱える有名アカウント。中の人・末延さんは「お菊社長」と呼ばれ、親しまれています。
そんなネットの有名人に起きた今回の“なりすまし騒動”。実は、ここ最近同様の被害に悩まされるユーザーが増えています。フォロワー数に関わらず、親しみやすい人が主に狙われている印象です。
少し前までは超有名人を騙るケースが多かったのですが、あまりに目立ちすぎたためか、詐欺師側も“なりすましのターゲット”を変えてきたようすです。
■ 「潜入用アカウント」で偽お菊社長に接触開始
さて、筆者が今回の調査を開始したのは、注意喚起の翌日15日から。Instagram上に出現しているという件のなりすましアカウントを見てみると、たしかにプロフィールや投稿の見た目は本物そっくりでしたが、フォロワー数はわずか6人。一方、本物の末延さんのフォロワー数は1570人。この時点で怪しさは十分です。
フォローしようとすると、Instagramから「このアカウントを確認してください」と警告が表示され、「所在地:ブラジル」との記載も。国産つまようじメーカーの社長がブラジル在住というのは、どう考えても不自然です。
それからほどなくしてフォローが返され、相手からDMが到着。
「初めまして。フォローありがとうございます。ファンの方々との繋がりをより深めるため、LINEで学習とコミュニケーションのためのグループを作成しました。グループへの参加は完全に無料です。皆様のご参加をお待ちしています」
つまるところ、内容は“投資の勉強を一緒にしよう”という誘い。送られてきたURLを開くと、今度は「鈴木美絵」という人物と繋がり、LINE上の「学習グループ」への参加を促されます。
案の定、投資詐欺の典型的な導入です。“先生”と呼ばれる人物や“生徒”を装ったサクラたちが多数参加するグループで、株式銘柄の情報や「限定講義」をエサに、最終的に有料サービスや口座開設を勧めるパターンとみて間違いないでしょう。
■ 偽者は「お菊社長が誰か」すら知らない様子
今回この投資グループは置いといて、偽お菊社長との接触を続けます。筆者は偽アカウントに対し、「菊水産業から注意喚起が出ているが、なりすましか?」と質問。
すると、相手から返ってきたのは「これは私たちが作ったアシスタント番号の目的はアナウンサーとファンがよりよく質問を検討できるようにすることです。中には先生の講義は無料の話題も多く、例えばグルメ、旅行、音楽、金融、政治、投資などがあります」という、意味不明の返答。これでは回答になっていません。
「勝手に他人の名前を騙って勧誘して良いのか」そして何より「末延秋恵さんが何をしている方なのか知らないのか?」尋ねると「菊水産業株式会社、私は彼のアシスタントですね」という驚きの返事が。
……いや、“彼”ではなく“彼女”です。つまりこの人物、末延さんが女性であることすら把握していません。明らかにプロフィールだけを流用した中身のないなりすましであることが確定です。
末延さんは同社の代表取締役であることを伝えると「先生の授業は毎日違うので、興味のある授業が必ずあるはずです」とまたしても質問に答えてもらえず。
次に、相手の所在地がブラジルとなっていたことから、ポルトガル語でメッセージを送ってみます。
「Por favor, pare de fingir ser outra pessoa(他人のふりをするのはやめてください)」「Kikusui Sangyo está no Brasil?(菊水産業はブラジルにありますか?)」と尋ねてみても、
「私は小さなアシスタントですから、困らないでください。辛抱強くグループで二日間待って、先生の講義をよく聞いてください」と意味不明な返答。なんというか中身が人間とは思えないような、ボットのような対応に早くもうんざりしてきました。
そこで「この会話内容を(LINEの)先生のグループで公開しても良いか?」聞くと「そんなことしないでください」とのこと。やられたら困ることもあるみたいです。
結局最後まで末延さんのなりすましであることを認めることはなく、この日のやり取りは終了。翌日改めて質問を投げかけてみることにして、いったんやり取りを終了しました。
■ アカウントは“規約違反”で削除 次はLINEの「鈴木美絵」に質問
翌日16日の朝、今日はどの角度から攻めようかな……なんてことを考えていたところ、なんとお菊社長の偽アカウントはInstagramの規約違反で削除されたことが発覚。
よかった。これにて一件落着……とはもちろんいきません。いろいろモヤモヤする部分が残ったままなので、今度はLINE上で繋がった「鈴木美絵」に質問を投げかけてみます。
「Instagramで私を勧誘したアカウントが削除されているのですが、何か知っているか?」尋ねてみたところ……
「Instagramの金融関連アカウントに対する審査が厳しくなったため削除された可能性が高いです」「外部リンクやグループへの招待が商業的誘導と疑われる内容が含まれる場合です」とのこと。アカウントとその動きに問題があることは認識しているようです。
しかし「幅広い投資家の学習と成長をサポートし、みなさんが自分に合った投資方法を見つけて算定した利益を得られるように手助けすることを目的としてきました。その前提のもとでなりすましと誤解されることは正直とても残念で困惑しています」と、自分たちに非はなくプラットフォーム側が悪いと言わんばかりの発言をしており、反省する様子はいっさい見られません。
さらに、「末延秋恵さんになりすましている人が多いので注意してください」とまで言い出す始末。いや、なりすましているのはあなた方のほうなんだが……。
■ 最後までなりすましを認めない“学習グループ”
あまりにも話がかみ合わないことに、筆者もそろそろ苛立ってきました。「菊水産業から注意喚起が出ている」「末延さんのアカウントは本物が別にある」以上の事実から、筆者とやり取りをしていたアカウントは「偽者であることが明確」だと伝えてみました。
加えて、「次こそ誠実な回答をお願いします」と伝えるも……「学習グループでご期待されていたようなサポートや成果が得られなかったと感じられた場合は、もちろんご自身の判断でご退出いただいて構いません」と、終始他人事のような態度。最後まで明確な回答は得られず。これでやり取りは終了となりました。
今回の潜入調査で明らかになったのは、「有名人のなりすまし」→「投資学習グループへの誘導」→「金銭的搾取」という、極めて古典的かつ悪質な詐欺の構図。末延秋恵さん本人を装った犯行は、菊水産業のブランドや信頼を利用した明確な詐欺行為です。
今後も同様のアカウントが再出現する可能性があるため、「フォロワー数が極端に少ない」「アカウント開設日が最近」「海外(特にブラジルなど)に所在地がある」といった点が見られる場合は、即ブロック&通報を徹底するようにしましょう。
■ 奇妙な回答はAIによる無言の抵抗?
それにしても、つい少し前までは、この手の相手とはもう少しまともにやりとりできていました。一時は「相手がAIか人間かわからない」と思うほどの精度を見せていた時期もありましたが、最近はどうにも劣化している印象です。
今回の相手がAIを利用していたかは定かではありませんが、近年、AIサービス各社は詐欺などへの悪用を防ぐため、応答制御を厳しくしているといいます。
もしかすると、翻訳や問い合わせ対応などに利用された際、そうした安全装置が働き、「AIによる無言の抵抗」として奇妙な返答を出しているのかも……しれません。
<参考・引用>
菊水産業株式会社【公式】(国産つまようじ屋)(@kikusui_sangyo)
末延秋恵さん(@akie0923)
(山口弘剛)
























































