「企業公式を装ったXアカウントから妙な当選通知が来た」
編集部に、こんな情報が寄せられました。企業公式を装ったアカウントからの通知は、よく見ると粗が目立つものの、最初は信じてしまいそうになる巧妙さも持ち合わせています。
一体目的は何なのか?実際にそのアカウントを辿っていくと、行き着いたのは人の善意につけ込む「詐欺」でした──。
■ 偽鳥貴族アカウントから謎の当選通知が届く
「おめでとうございます!当選しました!」
X(旧Twitter)を開いたとき、突然見知らぬアカウントからそんなメンションが飛んできたことはありませんか?しかも、内容は応募した覚えのない抽選に当選したという謎のものです。
外国人のアカウントだったり、謎の個人アカウントだったりと発信元となるアカウントはさまざま。ところが今回は、なんと居酒屋チェーンの鳥貴族を騙ったアカウントでした。
投稿文に書かれていたのは以下のようなメッセージ
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当選おめでとうございます
今回の当選者はこちらの3名です
@〜〜〜
@〜〜〜
@〜〜〜
※詳しくは下記の投稿をご覧ください
交換コード【2525】
受付は本日23時までです
x.com/******
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何に当選したのかも、何がもらえるのかもわからない通知。怪しさしかありません。
鳥貴族のマスコット「トリッキー」の画像を使っているこのアカウント。トップページに飛んでみると、プロフィール文には「こちらは『鳥貴族 トリッキー』からのご案内専用アカウントです」とあります。
さらに「ただいまYahoo!Japanとの共同キャンペーンにより、対象の方に2000円分をプレゼント中です」とのこと。
えーっと2000円分の……なに?現金なのか、ギフトカードなのか、割引券なのか。
アカウントのポストをざっと眺めてみると上述した当選通知が、対象者だけを変えて何件も投稿されています。交換コードは全部同じ【2525】。コードが全部同じで、かつ公開状態なら、当選もクソもないんじゃ……。
最初の当選通知に戻り、最下部に記載されているリンクから飛んでみます。リンクに「torikizoku」の文字列が入っていたので、別の偽鳥貴族アカウントに飛ばされると予測。
そう思いながらリンクをクリックすると、表示されたのは当選対象者への案内が書かれた投稿。簡単な条件をクリアすることで1000円〜2万円分のPayPayマネーがもらえると書かれています。
ただここで気になるのが、案内を投稿しているアカウント。ID(スクリーンネーム)に「torikizoku」の文字が入っているのに、アイコンはYahoo!ロゴ。アカウント名も「Yahoo能登応援プロジェクト【引き換え専用】」となっている点。Yahoo!JAPANとの取り組みだとしても、設定が無理やりすぎです。
鳥貴族とは関係ないどころか、どうやら能登半島地震の復興支援を偽装したアカウントのようです。
詐欺はもちろんすべてが悪ですが、そのなかでも輪をかけてたちが悪いのが、人の善意につけこむもの。実際にあった事件や災害をフックにしてお金を巻き上げようとするのは本当に不愉快です。
先ほど表示された案内通知にはまたしてもリンクが表示されていたので、そのリンクからさらに飛んでみることにします。
■ 出てきたのは、能登復興をうたう悪質な偽のキャンペーンページ
リンク先は「わすれない、みんなで支える能登半島」というページ。かなり作り込まれているなと思いきや、ページ名で検索をかけてみると、元となっているサイトがありました。
本来の「わすれない、みんなで支える能登半島」はLINEヤフー株式会社が運営している「エールマーケット」内にある、復興支援のためのストアページ。名産品を購入することで、地域を応援することができるというものです。
偽サイトはこの取り組みのデザインだけを奪い、架空のプレゼントキャンペーンの内容を無理やりページ内にねじ込んで、悪質な偽装ページを作り上げています。
本物と偽物との大きな違いはキャンペーンへの動線があるかないか。偽物の方はページを開いてすぐのところに「1分で引き換え完了」の文言とともに、「引き換えページへ」というボタンが設置されています。本物にはありません。
偽物の方にも本物と同じく名産品の購入ページへのボタンがあるのですが、飛んだ先はYahoo!ショッピング内にある、「さとふる」の適当な商品ページ。一応能登町の名産品ではあるのですが、本物のページとは無関係です。
偽物ページにある「引き換えページへ」というボタンを押します。するとコード入力用の画面が出てくるので、ここに先ほどXで受け取った【2525】を入力。
Yahoo!賞品引き換え【公式】というLINEアカウントが出てきました。
友達に追加すると、早速トークが飛んできます。「キャンペーンへの参加ありがとうございます」といったメッセージで始まるトークにより、謎のタスクへの参加をうながされました。
■ 謎アカウントから辿り着いたのは、少額報酬でターゲットを釣る「タスク詐欺」だった
「能登がんばれ」と送るとそのタスクに参加できるそうなので、とりあえず言われたとおりに送ってみます。キーワードを「能登がんばれ」にすることで、あくまで復興支援という視線を貫こうとする姿勢が悪質です。
キーワードを送ると、タスクについての返信がありました。どうやら向こうが指示するXのポストをスクショしてLINEに送ることが最初のタスクだそう。これをクリアすると300円の報酬がもらえるとのこと。
このタスクに応じないと先に進めなさそうなので、とりあえず指示されたポストに飛んでみます。
飛んだ先の投稿もまた偽アカウントの嘘ポスト……かと思いきや、なんと本物。石川県の公式アカウントによる、能登半島地震への支援を感謝するポストが指定されていました。こういうところで本物を交えてくるのが、本当にたちが悪い。
スクショを撮って送ると、すぐさま「ご参加ありがとうございます!」と返信。そして「PayPayマネー300円を送りたいからPayPayIDか電話番号を教えろ」と送られてきました。
おそらく指示通りIDや電話番号を教えると、最初は本当にお金が振り込まれるはずです。3件達成の2100円までは、何らかの手段で受け取ることができるのではないでしょうか。
しかし「じゃあ本物ってこと!?」と判断してしまうのは早計です。
これは「副業詐欺」や「タスク詐欺」と呼ばれる手口です。スクリーンショットの撮影などの簡単な作業(=タスク)を依頼し、その報酬として少額の金銭を支払うことで、相手に「信頼できる」と思わせます。しかし、最終的には逆に高額の金銭を要求する仕組みです。
人の善意を弄ぶ相手からの報酬なんて1円ももらいたくないので、PayPayの情報は送らず、こちらから質問する方向に切り替えました。
「これってなんでお金もらえるんですか?」と尋ねてみると「こちらは、タスクを完了していただいたことに対する報酬となっております」と返ってきました。いや、それはわかってるって話。
続けて「スクショを送るだけでお金もらえるのが気になって。話うますぎやしないかなー、と」と伝えてみましたが、既読はついたものの返信は来ず。
時間をあけて「タスク全部こなしてあとでまとめてお金受け取ること可能ですか?」と送ってみましたが、こちらには既読すらつきませんでした。ブロックされたのかもしれません。
偽の公式アカウントから届いた怪しげな通知を辿っていくと、その先に待ち受けていたのは「副業詐欺」でした。
この詐欺は最初のうちだけ、実際にお金が振り込まれるという巧妙な手口を使います。これにより「信頼できるのでは」と思わせ、被害者を騙しやすくしています。くれぐれもご注意ください。
また「本当にお金がもらえるなら、小遣い稼ぎに利用してやろう」という考えが少しでもよぎった方も要注意です。甘い話には必ず裏があり、最初にお金が入ったとしても、それはあくまで「餌」。その後、追加の振込や個人情報の提供を求められ、被害が深刻化することがあります。
さらに重要なのは、仮にお金が手に入ったとしても、それは「犯罪に関わったお金」である可能性が高い点です。リスクや手間をかけた挙げ句、もらえるのはせいぜい数千円程度。結果として、普通に働いた方がよほど稼げるし、安全です。
<参考・引用>
消費者庁リリース(PDF)「『タスク副業』で報酬が支払われるとうたい、実際には高額を送金させる事業者に関する注意喚起」
(ヨシクラミク)