人気アニメ「呪術廻戦」に酷似したスマートフォン向けゲームが配信され、X(旧Twitter)などのSNSで物議を醸していました。問題視されたのは、「特級呪術師」と名乗るアプリです。
この件についてアニメ「呪術廻戦」公式は12月25日、著作権侵害にあたるとして声明を発表。その後しばらくして、App Storeから当該アプリの配信ページは削除されました。
問題のアプリは、登場キャラクターや用語が誰の目にも「呪術廻戦」を連想させる一方で、タイトルや説明文に作品名は一切記されていませんでした。さらに、運営元として記載されていたのは、実態のよく分からない香港企業。公式を装うことすらせず、しかし素材だけは大胆に“拝借”しているかのような、不可解な点が目立っていました。
編集部では話題となった直後から本件について調査を開始。ゲームサポートへの問い合わせを含め、一連の経緯を本稿で報告します。
■ App Storeに登録されていた「特級呪術師」のゲーム内キャプチャは違和感だらけ
アニメ「呪術廻戦」は、芥見下々さんが2018年から2024年まで「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載していた同名漫画を原作とする作品です。2020年にテレビアニメ第1期、2023年に第2期が放送され、2026年には第3期の放送も予定されています。
その「呪術廻戦」のキャラクターや世界観を、ほぼそのまま流用しているとして、12月24日頃から話題になっていたのがアプリゲーム「特級呪術師」です。
当時App Storeの配信ページを確認すると、アプリアイコンには主人公・虎杖悠仁が両面宿儺へと切り替わる際の横顔を思わせるビジュアルが使用されていました。
そしてゲーム画面のキャプチャには、「呪いを喰らうか それとも喰われるか?」というキャッチコピーが掲げられたメインビジュアル風の画像を表示。登場人物はいずれも「呪術廻戦」のキャラクターに酷似していましたが、よく見ると釘崎野薔薇や冥冥の髪型が微妙に異なっていたり、七海建人の眼鏡やネクタイが変わっていたりと、細部に違和感が残っていました。中には、狗巻棘なのか五条悟なのか判別がつかないようなキャラクターも確認できました。
加えて、App Storeの「情報」欄に記載されていた著作権表記は「(C)特級呪術師」。
公式アプリゲームである「呪術廻戦 ファントムパレード」の同項目には、「(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会」「(C)Sumzap, Inc./TOHO CO., LTD.」と明確な権利表記がなされています。
仮に「特級呪術師」が正式なライセンスを受けた作品であるならば、原作者や出版社、製作委員会の表記が一切存在しないのは、どう考えても不自然と言わざるを得ません。
■ 運営会社はカーペットメーカー?2014年設立とされるが実態は不明
さらに不可解だったのが、販売元として記載されていた企業情報です。そこには「Hongkong Mingmei Carpet Manufacture International Group Limited」という社名が記されていました。
社名から受ける印象は「香港のカーペットメーカー」ですが、なぜそのような企業が、日本の人気アニメを想起させるゲームを配信していたのでしょうか。
香港企業の情報をまとめたデータベース「Hong Kong Business Directory」を確認したところ、同社が2014年に設立されたことは分かりましたが、事業内容や活動実態についての詳細な情報は見当たりませんでした。
また、社名のうち「Hongkong」を除いた部分が一致する企業はGoogle検索で1社確認できます。こちらは公式サイトも存在し、実在する中国のカーペットメーカーであることが確認できましたが、ゲーム事業に関わっている様子はありませんでした。
なお、当時App Store上でこの運営会社が配信していたアプリは、「特級呪術師」のみです。過去に別のアプリを配信し、削除された可能性も否定はできませんが、もし今回が初のアプリ配信であったならば、2014年設立とされる企業がこれまでどのような活動をしてきたのかは、やはり疑問が残ります。
■ 問い合わせをしてみた結果……
編集部では運営への問い合わせを試みることにしました。しかし、公式サイトや明確な問い合わせ窓口は確認できません。連絡先と思しきメールアドレスの記載はあったものの、文字列に不自然な点が多く、確実に連絡が取れる手段とは判断できませんでした。
そこで、取材としての確認を行う目的に限り、やむを得ずアプリをダウンロードし、ゲーム内の問い合わせ機能から運営に連絡を試みてみました。
なお、編集部では日頃からネット詐欺や不審アプリに関する調査を行っており、今回も専用の調査用端末を使用しています。本来であれば安易にダウンロードすべきではなく、どのようなトラブルに発展するか分かりません。読者の方は決して真似をしないようにしてください。
こうした準備を整えたうえで、ゲーム内の問い合わせ機能を通じ、「このゲームにはアニメ『呪術廻戦』のキャラクターが登場していますが、作品公式のゲームなのでしょうか?」と質問を送信。
問い合わせ用チャットは非常に見づらい仕様でしたが、届いた返信は以下のとおりです。
「お問い合わせいただき、ありがとうございます。この度は『呪術覚醒:呪いの力』をお楽しみいただき、誠にありがとうございます。お客様からの熱い応援に、開発チーム一同、心より感謝申し上げます。今後とも、より一層面白いゲーム内容と、より革新的な遊び方をお届けできるよう、全力で努めてまいります。引き続きよろしくお願いいたします」
質問の核心には一切触れず、定型文のような文章が返ってきました。全ての問い合わせをこうして返しているのかもしれません。この点からも、誠実な対応とは言い難い印象を受けます。
■ アニメ「呪術廻戦」が声明発表「企画・開発・配信に関して一切許諾していない」
一方、アニメ「呪術廻戦」公式は12月25日、公式Xを通じて一連の事態について声明を発表しました。関連コンテンツを無断で利用したゲームアプリが配信されていることを確認したとして、「企画・開発・配信に関して一切許諾しておらず、かかる行為は著作権を侵害する行為に該当いたします」と明言。各プラットフォームに対し、該当アプリの配信停止を申告するなど、厳正に対処していく姿勢を示しています。
その後、12月26日の時点でApp Store上から「特級呪術師」の配信ページは表示されなくなっていました。配信停止や削除に至った具体的な経緯について、プラットフォーム側や運営元からの説明は現時点では確認できていません。ただ、公式側が無断利用を明確にした直後に状況が変化した点は、今回の一件が単なる類似の問題にとどまらなかったことを示しています。
インターネットを通じて、海外を含む多様なアプリやサービスに容易にアクセスできる時代となりました。その一方で、人気作品の知名度やファン心理を利用したとみられるアプリやコンテンツが出回るケースも後を絶ちません。見た目や名称が公式に酷似していても、実際には無関係である例は少なくないのが実情です。
今回の事例は、そうしたリスクが現実のものとして存在していることを改めて示したものと言えるでしょう。作品名やキャラクターに見覚えがあるからといって安易に信用せず、配信元や公式情報を確認する姿勢が、利用者一人ひとりに求められています。
現在各ゲームプラットフォーム上に、『呪術廻戦』関連コンテンツを無断利用したゲームアプリケーションが配信されていることを確認しております。…
— 『呪術廻戦』アニメ公式 (@animejujutsu) December 25, 2025
<参考・引用>
Hong Kong Business Directory
「呪術廻戦」アニメ公式(@animejujutsu)
(ヨシクラミク)













































