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Reprimoタンパク質が細胞外から細胞死を誘導する新規経路を発見 副作用の少ない新薬開発に期待

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国立大学法人熊本大学


【ポイント】
これまでにReprimoはがん抑制的に働いていると考えられてきましたが、その分子メカニズムは不明でした。
Reprimoタンパク質は細胞内から細胞外へ分泌されてがん細胞の細胞死を誘導することを発見しました。
細胞外へ分泌されたReprimoタンパク質が細胞膜表面上の受容体に結合すると、Hippo経路を介して細胞死が引き起こされる分子メカニズムを明らかにしました。
今後の研究を進めることで、Reprimoタンパク質自体が抗がん剤に応用できる可能性や、明らかになった分子的なシグナル伝達経路を標的にした新規の抗がん剤の開発が期待できます。
本研究成果は2025年2月6日に米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS)に掲載されました。

【概要説明】
 国立研究開発法人国立がん研究センター(東京都中央区、理事長:中釜 斉)研究所(所長:間野 博行)の基礎腫瘍学ユニットの大木 理恵子独立ユニット長率いる研究チームは、新しい細胞死誘導に関わるReprimoタンパク質の機能を明らかにしました。p53遺伝子注1は最も有名で重要ながん抑制遺伝子で、様々な遺伝子の制御に関わることが知られていますが、p53機能の全貌はいまだに解明されていません。
 2000年に大木 理恵子独立ユニット長はp53遺伝子の制御を受けてがん抑制に関わるラテン語で「抑制」の意味のReprimo遺伝子(遺伝子シンボル:RPRM)を発見しましたが、これまでReprimoの分子機能は明らかになっていませんでした。
今回、特任研究員の滝川 雅大博士ら(現 東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科 助教)が、Reprimoタンパク質は細胞内から細胞外へと分泌され、Reprimoタンパク質を受け取ったがん細胞はアポトーシスと呼ばれる細胞死を起こすことを世界で初めて明らかにしました。正常な細胞ではがん抑制遺伝子p53遺伝子とReprimoが正常に働くことで細胞のがん化を抑制し、これらの機能を失うことでがん化が進行すると考えられます。また、Reprimoによる細胞死が起きた細胞内では、シグナル伝達経路として、カドヘリン様タンパク質受容体注2、Hippo経路注3、p73が必要であることも明らかになりました(図1)。
 この発見により、Reprimoやその関連経路を標的とした新しい抗がん治療の開発が期待されます。今回の成果は、今後のがん治療研究に新たな道を開くものであり、これらの経路を標的にした抗がん剤の開発や、Reprimoタンパク質自体をがんの治療に応用することが期待されます。

【展開】
 研究チームは、Reprimoタンパク質がこれまでに試したすべてのがん細胞に細胞死を引き起こす一方で、実験を行った範囲では正常細胞には影響を与えないことを発見しました。この成果は、Reprimoタンパク質自体やその機能を応用した抗がん剤が、副作用を抑えながら高い治療効果を発揮する新しい治療薬の開発に繋がる可能性を示しています。
 今回、私たちは世界で初めてReprimoタンパク質の機能を解明しました。今後は、細胞やマウス実験で証明された細胞死やがん抑制がヒトで応用可能であるか、臨床応用に向けてはさらなる検証が必要です。

【用語解説】
※1RNA修飾:DNAから転写された後、RNA上にメチル基やアセチル基とい った様々な”飾り”となる分子が付加されることによりRNAの構造や機能が変化します。新型コロナウイルスワクチンの実用化に貢献したとして2023年のノーベル生理学・医学賞がRNA修飾の研究に授与されました。

【論文情報】
雑誌名: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
タイトル: Extrinsic induction of apoptosis and tumor suppression via the p53-Reprimo-Hippo-YAP/TAZ-p73 pathway
著者: Masahiro Takikawa, Airi Nakano, Jayaraman Krishnaraj, Yuko Tabata, Yuzo Watanabe, Atsushi Okabe, Yukiko Sakaguchi, Ryoji Fujiki, Ami Mochizuki, Tomoko Tajima, Akane Sada, Shu Matsushita, Yuichi Wakabayashi, Kimi Araki, Atsushi Kaneda, Fuyuki Ishikawa, Mahito Sadaie, and Rieko Ohki
DOI:10.1073/pnas.2413126122
掲載日: 2025年2月6日
URL:https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2413126122

【研究費】
研究費名(支援先):日本学術振興会
研究事業名:科学研究費 若手研究
研究課題名:p53PAD7傍分泌とHippoシグナル経路によるがん抑制機構の解明
研究代表者名:滝川 雅大
研究費名(支援先):日本学術振興会
研究事業名:科学研究費 若手研究
研究課題名:分泌性タンパク質p53PAD7によるアポトーシス誘導メカニズムの解明
研究代表者名:滝川 雅大
研究費名(支援先): 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
研究事業名:次世代がん
研究課題名:希少がんである神経内分泌腫瘍の代謝特性の解明と新規治療標的同定
研究代表者名:大木 理恵子
研究費名(支援先):日本学術振興会
研究事業名:科学研究費 基盤B
研究課題名:がん抑制遺伝子PHLDA3による臓器を超えた神経内分泌腫瘍抑制メカニズムの解明
研究代表者名:大木 理恵子
研究費名(支援先):日本学術振興会
研究事業名:科学研究費 挑戦的研究(萌芽)
研究課題名:食事療法を用いた副作用のない非機能性の膵臓神経内分泌腫瘍の予防法・治療法の開発
研究代表者名:大木 理恵子
研究費名(支援先):日本学術振興会
研究事業名:科学研究費 基盤C
研究課題名:肝臓におけるタンパク質フコシル化異常による疾患発症機構の解明
研究代表者名:田端 祐子
研究費名(支援先):日本学術振興会
研究事業名:特別研究員奨励費
研究課題名:p53-PAD7を介した分化方向性および肝がん制御機構の解明
研究代表者名:中野 愛里
研究費名(支援先):長崎大学卓越大学院プログラム
研究事業名:世界を動かすグローバルヘルス人材育成プログラム
研究課題名:Analysis of the role of p53-PAD7-YAP/TAZ pathway in deciding cell fate and oncogenesis of hepatocarcinoma
研究代表者名:中野 愛里
研究費名(支援先):科学研究費補助金
研究事業名:新学術領域研究(研究領域提案型)
研究課題名:学術研究支援基盤形成 先端モデル動物支援プラットフォーム
研究代表者名:今井 浩三、井上 純一郎 (研究分担者:荒木 喜美(熊本大学生命資源研究・支援センター))

▼プレスリリース全文はこちら
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei-sentankenkyu/20250227
[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/124365/221/124365-221-a289b2ce2fa968e5121d367ba1ed3a92-540x304.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]

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