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波をあやつる超越材料「メタマテリアル」の実用化はいつ? ~特許・グラント・スタートアップ企業から動向分析~

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アスタミューゼ株式会社


アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、メタマテリアルに関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/633/7141-633-f19e832e763746d1ac93c71663b0b204-2560x1600.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


メタマテリアルとは? その定義と適用領域
レンズの分解能や、電波を受信するアンテナのサイズなど、私たちの身のまわりにある機器において、かつては物理法則で決まっていると考えられていた性能限界が、メタマテリアルという新しい材料によって越えられはじめています。

ギリシャ語で「超越」を意味する「メタ」と、材料を意味する「マテリアル」をあわせて名付けられた「メタマテリアル」は、人工的な構造によって自然界の物質にはない性質をもたせた材料の総称です。とくに「メタアトム」とよばれる小さな構造単位を規則的に配置した人工構造をもちいた「メタマテリアル」は、光や電波をふくむ電磁波や音波のような「波動」に対し、通常ではむずかしい伝搬を実現する代表的なメタマテリアルです。

光を表面で迂回させ姿を見えなくする「透明マント」を実現させる技術として、2000年代初頭から注目されています。その後研究開発が進み、光とおなじ電磁波である電波の領域では実証がなされました。ほかの材料にはない性能や機能を、メタアトムの形状とその配置の設計で実現し、赤外線や電波、音波などの分野で実用化が始まっています。内閣府のマテリアル戦略有識者会議においても、メタマテリアルを「技術進展で新たな価値創出が期待される材料・技術」とする議論がなされています。

メタマテリアルの適用領域となる波動は「光」「電波」「音波」に分類することができます。分類ごとの詳細と、おもな用途は以下となります。
メタマテリアルの適用領域別分類
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/633/7141-633-7ad44ad06370f12c491873097a542c0b-646x251.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


メタマテリアルのおもな用途
- 光学部品(光領域)
光の屈折や回折、分光、フィルタリング等の伝搬制御において、通常の光学素子では困難な性能の実現により、イメージングやAR/VRを含むディスプレイ機器の小型化・高性能化が可能です。たとえば負の屈折率をもつメタマテリアルレンズ(メタレンズ)を光学顕微鏡にもちいることにより、これまでの解像度原理をこえ、ウイルスのような極小物体の観察が可能になることなどが期待されています。
- アンテナ(電波領域)
小型で高効率、高指向性のアンテナがメタマテリアルによって実現可能であり、無線通信やレーダー、LiDARの分野に応用されています。また電磁波を選択的に吸収反射する機能は無線通信の他にも地熱発電への応用が考えられています。
- 遮音材(音波領域)
既存の防音材では遮音が困難な周波数や、特定の周波数の音を選択的に遮蔽する高機能な遮音材がメタマテリアルにより実現されています。

メタマテリアルで波動の伝搬を設計どおり制御するには、波動波長の1/10程度の大きさのメタアトムを、さらに1/10程度の加工精度で形成し、配置する必要があります。上記の分類表では適用領域ごとの波長と、必要となるメタアトムの外形寸法と加工精度の例を記載しました。波長の短い可視光~近赤外光領域では最先端の半導体集積回路と同程度の微細加工技術が必要であり、高いハードルになっています。一方で波長の長い中~遠赤外線や電波、音波では要求される加工精度は比較的ゆるく、実用化が先行しやすい領域であることがわかります。冒頭で紹介した透明マントの例にあるように、電波の領域で実証できても光の領域ではむずかしい理由は、光の波長に対応したメタアトムの作製のむずかしさがあります。

近年では、周期構造によって外力に対する変形方向を制御した構造体からなる人工材料を「機械的メタマテリアル」、赤外線に作用するメタマテリアルをとおして熱輻射を制御する材料を「熱メタマテリアル」とよぶなど、電磁波や音波などの波動以外の入出力を制御対象とした領域にもメタマテリアルがひろがっています。

機械的メタマテリアルの事例はまだ少なく、波動を対象としたメタマテリアルとは基本原理がことなりますが、熱メタマテリアルは光をとおして熱に作用することから技術的には光領域のメタマテリアルにふくまれます。そこで本レポートでは波動を対象領域として新しい機能を実現するメタマテリアルにフォーカスし、アスタミューゼ独自のデータベースの活用による、特許・グラント・スタートアップ企業についての情報をもとに、その技術動向について分析しました。
メタマテリアルに関連する特許の動向分析
アスタミューゼの保有する特許データベースから、要約に「metamaterial」を含む2014年以降に出願された特許母集団5,140件を抽出しました。この母集団を対象に、文献内にふくまれるキーワードの年次推移を抽出し、技術要素を特定する「未来推定」分析をおこないました。キーワードの変遷を把握し、ブームが去った技術やこれから脚光をあびると予測される技術を定量的に評価することで、要素技術に対する技術ステータス(黎明・萌芽・成長・実装)が予測できます。

2014年以降に出願されたメタマテリアルに関連する特許における主要キーワードの年次推移を図1にしめします。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/633/7141-633-af32140bdda3106ce9ec55f4344a696e-688x377.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:メタマテリアルに関連する特許の要約に含まれるキーワードの年次推移

成長率(growth)は、2014年以降の文献中における出現回数と、2019年以降の文献中における出現回数の比で定義されます。値が1に近いほど直近の出現頻度が高いキーワードとなります。図1では前述した3つの対象領域である、光領域(optical)・電波領域(electromagnetic)・音波領域(acoustic)にキーワードをわけ、成長率の高い順にしめしています。光の領域では一般的な光学用語とはことなるグラフェン(graphene)とハイパボリック(hyperbolic)の出現がふえています。

グラフェンは炭素の1原子層であり、その特異的な電気特性から検出素子として期待されている一方、光の吸収率が低い課題があります。これをメタマテリアルの表面構造であるメタサーフェスとの組み合わせにより解決し、従来の半導体素子よりも高速な光検出器の実現を目指した特許が中国の研究機関を中心に活発に出願されています。

ハイパボリックメタマテリアル(HMM)は誘電体と金属を交互に積層した多層膜構造で構成するメタマテリアルであり、その特異な光学特性を利用した発光デバイスの効率向上や光放射パターンの高機能化に関する特許が中国の研究機関や米国企業から出願されています。

電波の領域ではテラヘルツ(terahertz)が数をのばしており、非破壊検査や高速無線通信領域等への応用が期待されるテラヘルツ波において、これをあつかうデバイスへのメタマテリアルを適用した出願の増大が見てとれます。音波の領域では音響(acoustic)以外の特徴的なキーワードはみられないものの、音響メタマテリアルの出願数自体が大きく伸びていることがわかります。その多くは遮音や吸音に関する出願ですが、超音波イメージングに関する出願も少数ながらふくまれています。

以下に、これらのキーワードをふくむ特許の中から、近年の事例の一部をしめします。

- CN109411898B「A graphene-based terahertz dual-band tunable absorber」
- - 機関/企業: Guilin University of Electronic Technology
- - 国:中国
- - 公開年:2019年
- - 概要:金属・誘電体・グラフェンの3層構造にメタマテリアルの表面形状を付与したテラヘルツ波吸収体を構成し、グラフェン層への電圧印加などにより吸収波長を動的に変更可能とする。
- US11469347B1「Light-emitting diode with hyperbolic metamaterial」
- - 機関/企業: Meta Platforms Technologies LLC
- - 国:アメリカ合衆国
- - 公開年:2020年
- - 概要:発光ダイオードの半導体構造の中に金属層と誘電体層を交互に積層したハイパボリックメタマテリアル(HMM)を導入し、光取り出し効率を高め、かつHMMに2次元パターンによるアンテナ機能を付与する事で出射光の放射角や偏光状態を制御する。
- US20230277155A1「Non-Hermitian complementary metamaterials (NHCMMS), systems including an NHCMM, and methods utilizing an NHCMM」
- - 機関/企業:Georgia Tech Research Corp
- - 国:アメリカ合衆国
- - 公開年:2023年
- - 概要:超音波診断装置で脳内の病巣を観察するさいに問題となる頭蓋の影響を、音響的に相殺する音響メタマテリアル(NHCMM)を頭蓋表面に配置することで、頭蓋に穴を開けることなく診断・治療を可能とする。

つぎに、出願特許全体の件数を確認します。メタマテリアルに関連する特許の国別出願件数の年次推移が図2です。
[画像4: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/633/7141-633-e04ade53be7c45672e60e99037a164de-2051x1396.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2:メタマテリアルに関連する特許の国別出願件数の年次推移

国別では中国の出願件数が圧倒的に多く、米国、欧州、韓国、日本がこれにつづきます。中国では国家政策によりテラヘルツ通信などの研究開発と応用を強化する中国科学技術イノベーション第13次五カ年計画が2016年に始まり、その後の2018年以降の伸びがいちじるしく、2020年代からは中国の出願数が全体の8割程度となっています。中国以外からの出願は一定件数を維持して推移しています。
メタマテリアルに関連するグラントおよび研究プロジェクトの動向分析
つぎに、グラント(競争的研究資金)の動向です。グラントには、まだ論文として発表されていないアプローチや将来の研究課題がふくまれるため、ちかい将来における研究の潮流を予測できます。
特許の場合と同様の手法により、抽出したグラント母集団1,254件を対象とする「未来推定」分析をおこないました。図3がその結果です。
[画像5: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/633/7141-633-71ac7a59476ed9c1d21ab2e8aacf5b93-730x427.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図3:メタマテリアルに関連するグラントの要約に含まれるキーワードの年次推移

光の領域では特許とことなり、頻度が上昇している特徴的なキーワードは見当たりません。応用に関連したキーワード(metasurface, tunability)が上昇する一方、透明化に関するキーワード(invisibility, cloaking)が減少しており、グラントがより実現性の高いテーマにシフトしていることがうかがえます。

電波の領域では無線電力伝送(WPT:Wireless Power Transfer)に関するテーマへのグラントの増加が確認できました。こちらはメタマテリアルをもちいてWPTを高効率化する研究で、九州大学やキプロス大学が2019年以降に研究資金を獲得しています。事例として以下にこれを示します。
- メタマテリアルとリアクティブ反射板を利用した高効率WPTシステム
- - 機関/企業:九州大学
- - グラント名/国:科研費/日本
- - 採択年:2019年
- - 資金賦与額:20,780,000円(累計)
- - 概要:体内埋込型医療機器への無線給電において、メタマテリアルをもちいた送受信機により高効率・高深達度の給電を実現
- Advanced Signal Processing Technologies for Wireless Powered Communications
- - 機関/企業:University of Cyprus
- - グラント名/国:CORDIS/EU
- - 採択年:2019年
- - 資金賦与額:約220万米ドル
- - 概要:モバイル通信ネットワークや機器間(M2M)無線通信において、メタマテリアルをもちいた電波からの電力採取機能(エナジーハーべスティング)の融合を目指すプロジェクト

つづいて、グラントの件数および配賦額を確認します。ただし、中国はグラントデータの開示状況が年により大きくことなり、実態を反映しない可能性が高いためデータから除外しています。また、公開直後のグラント情報はデータベースに格納されていないものもあり、直近の集計値については過小評価されている場合があります。

図4がグラント件数、図5がグラントの配賦額の国別年次推移です。
[画像6: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/633/7141-633-236800ac56228df8d1b6edebbc989891-2093x1576.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図4:メタマテリアルに関連するグラントの国別件数の年次推移

[画像7: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/633/7141-633-8ed204d87904750a524e52f09d6e4e4b-2088x1517.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図5:メタマテリアルに関連するグラントの国別配賦額の年次推移

件数では米国、日本、英国の3か国で8割以上を占めるのに対し、配賦額では日本にかわり欧州が入り、米国、英国の3か国/地域で同じく全体の8割超を占めました。配賦額の推移をみると2018年まではほぼ横ばいですが、2019年以降は米国・欧州で増加傾向がつづいています。日本と欧州の順位が件数と配賦額で入れかわった背景として、日本のグラントが他国と比較して短期間かつ少額であるのに対し、欧州は少数ながら大型のグラントが中心となっている特徴があげられます。

米国、欧州、英国のグラントには共通点として、複数の研究領域や機関にまたがる大型プロジェクトが多く、メタマテリアルに関連した研究がプロジェクト全体の一部であるケースも見られます。つまり、これらの国/地域における実際のメタマテリアルの研究資金は図5の配賦額より少ないと推察されます。一方、プロジェクトによっては他領域との連携により応用にむけた研究がさらに進むことが期待されます。
メタマテリアルに関連するスタートアップ企業の動向分析
(以下、スタートアップ企業の分析と全体のまとめについては、アスタミューゼ株式会社コーポレイトサイトの該当ページに掲載しています)

著者:アスタミューゼ株式会社 古川 昭夫 修士(工学)

さらなる分析は……
アスタミューゼでは「メタマテリアル」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。

本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。

それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。

また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい

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