
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/106518/6/106518-6-dadb606098e47d6bb38ad641736ff912-1280x853.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
民間金融機関のESG方針の格付けや実際の投融資のケース調査などを行ってきた国際青年環境NGO A SEED JAPAN と「環境・持続社会」研究センター(JACSES)は、日本の大手資産運用会社16社(大手金融グループの運用会社を選定。外資系を除く。)の気候変動への取り組みについて、2023年度調査に続き、排出削減目標、化石燃料に関する方針の有無、エンゲージメントや議決権行使に係る方針や実施状況等に関して、30項目で評価し、2回目のスコアリングを実施しました。結果、上位3社は昨年と変わらず、アセットマネジメントOneが1位、日興アセットマネジメントが2位、野村アセットマネジメントが3位となりました。
昨年12月5日に、調査結果および評価方法を16社に送り、1月24日までフィードバックを受け付けました。
なお、東京海上アセットマネジメントについては、脱炭素を目指す運用会社の国際枠組み「ネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアチブ(NZAMI)」を今年2月末に脱退していたとの報道[1]を受け、スコアに反映させました。私たちは、気候危機が深刻化する中で同社が本枠組みを脱退したことに対し深い懸念を表明するとともに、他社がこの動きに追随することなく、ネットゼロへの取り組みを一層強化していくことを求めます。
<注目ポイント>
1. 13の運用会社が2050年ネットゼロ宣言[2]を行う一方、今回も2030年ポートフォリオ排出削減目標において、50%を超える野心的目標の設定が無く、目標の引き上げも行われていなかった。
2. 多くの会社の議決権行使基準で、「気候変動への取り組みが不十分である場合に、取締役や役員などの選任・再任議案に対して反対する方針」(9社)[3]、「気候変動関連の株主提案に原則賛成する方針」(10社)[4]が確認できた。どちらの基準もない運用会社は4社[5]で、今後の改定での追加が望まれる。
3.2024年の株主総会において、日本のメガバンクや多排出企業に環境NGO等から提出された気候変動関連株主提案で、議案の半数以上に賛成したのは3社[6]のみ。16社の平均賛成率は20%と低調であった。より積極的に賛成することが望ましい。
<調査対象運用会社(今年度の点数順。昨年度の点数と比較)>
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<スコアリング結果の概要>
1.ネットゼロ宣言・排出削減目標について
本調査によれば、日本の大手の運用会社を中心に、Net Zero Asset Managers Initiative(NZAMI)への署名(11社)や2050年ネットゼロ宣言(13社)が行われているものの、第1回調査(昨年度)以降、2030年ポートフォリオ温室効果ガス排出削減目標を引き上げた会社は無く、いずれの会社も50%でした[7]。
NZAMIの署名機関には、「2030年にCO2排出を50%削減するという世界的な要請の『公正な負担』と整合する目標の設定」「少なくとも5年ごとの目標の見直し(引き上げ)」が求められています。気候変動が悪化する中、NZAMIに参加する運用会社各社には署名から5年を待たない早期の引き上げが求められます。
2.石炭・石油・ガス等に関する事業者への投資を制限・除外する方針について
この2030年の排出削減目標達成に向けては、石炭・石油・ガスの採掘や発電関連事業者への投資を制限・除外する何らかの方針を持ち、企業に事業転換を促すことが必要ですが、そのような方針を持っていたのは、今回もアセットマネジメントOneとSOMPOアセットマネジメントのみでした(Q6, 7, 10)。
気候変動対策としての有効性が疑問視されるバイオマス発電や水素・アンモニア発電関連事業者については、どの会社も方針を持っていませんでした。
3.石炭・石油・ガスや発電事業者等を含む多排出セクター・事業者に関する排出削減目標について
また、パッシブ運用が大きな割合を占める日本の運用会社にとって、エンゲージメントや議決権行使を通じて多排出事業者(石炭・石油・ガスや発電セクターの企業を含む)の行動強化を求めることが肝要ですが、現状、それを支える十分な方針を備えている運用会社は多くありません。
昨年に続き、電力セクター、石炭・石油・ガスセクターの排出削減目標を設定しているところは、1社もありませんでした。また、サステナビリティレポート、スチュワードシップレポートなどで多排出事業者へのエンゲージメントを重視する方針を明らかにしていたのは8社、その内、個社のエンゲージメント内容を具体的に報告していたのは6社です。ただし、6社とも開示した件数は限定的です。今後は各社とも、多排出事業者のエンゲージメントを重視する方針を打ち出した上で、より多くの投資先について実施状況も報告していくことが望まれます。
4.気候変動に関する議決権行使基準について(株主提案・定款変更に関する基準に限らない)
議決権行使基準において、投資先企業に「TCFDに基づく情報開示」を求めている会社は1社増の9社、パリ協定の目標と整合する排出削減目標や事業計画の開示・見直しを求めているのは1社増の6社でした。化石燃料の使用削減・撤退を促す文言があったのは昨年同様、アセットマネジメントOneのみでした(Q24)。
2024年6月の株主総会でのトヨタ自動車株式会社、日本製鉄株式会社に対する気候変動関連の株主提案は否決されましたが大きな支持がありました。その提案内容を踏まえ「気候変動関連ロビー活動及び業界団体への所属状況の公開」(Q25)及び「ESG関連の成績と連動した報酬の設定」(Q27)を求める議決権行使基準の有無を調べました。残念ながら、今回の調査では、それらの基準を取り入れている会社は0社でした。
こうした基準・取り組みの必要性は、国連のNet-Zero Asset Owners AllianceやPrinciples for Responsible Investment(責任投資原則)等のイニシアティブで議論されており[8]、AXA Investment ManagersやTriodos Investment Management等の欧米の先進的な運用会社が既に取り入れるなど[9]、企業の気候変動対策を評価する上で重要な視点であるとの認識が高まっています。
5.気候変動関連株主提案に対する各社の個別の議決権行使結果および透明性(賛否の理由開示の有無)
議決権行使基準に関して、今年度さまざまな動きがありました。アセットマネジメントOneやニッセイアセットマネジメント等が気候変動への対応状況を取締役選任議案の判断条件にする改訂を行ったことを受け、同様の基準の有無を確認したところ9社ありました(Q26)。また、「気候変動関連の株主提案に原則賛成する」との基準を新設した会社があったことを踏まえ、当該基準の有無を確認したところ10社ありました(Q30)。どちらの基準もない4社(SBIアセットマネジメント、SBI岡三アセットマネジメント、SOMPOアセットマネジメント、東京海上アセットマネジメント)は、今後の改定で追加していくことが望まれます。
2024年の株主総会において、国内外の環境NGO等から日本のメガバンクや多排出企業(電力会社、トヨタ自動車、日本製鉄)に対して提出された気候変動対策の強化を求める株主提案について、16社の平均賛成率は20%にとどまり、賛否理由の平均開示率は約6割でした。半数以上賛成したのは3社のみ(日興アセットマネジメント、農林中金全共連アセットマネジメント、野村アセットマネジメント)でした。
【詳細】資産運用会社の気候変動への取り組み状況調査(2024年度)
・別紙1)質問・点数配分
・別紙2)各社結果一覧
・参考) 集計スコアとランキング
・参考) 議案ごとの各社の賛否・理由説明の有無
・2023年度-2024年度 各社結果一覧 比較
下記サイトにPDF及びエクセルファイルを掲載しております。参照先のページ情報・URLは、別紙2の各セルにメモとして記入してあります。
URL:https://www.aseed.org/esgwatch/?p=1327
【調査対象とした日本の大手資産運用会社(五十音順)】
アセットマネジメントOne 株式会社
SBIアセットマネジメント株式会社
SBI 岡三アセットマネジメント株式会社
しんきんアセットマネジメント投信株式会社
SOMPOアセットマネジメント株式会社
大和アセットマネジメント株式会社
東京海上アセットマネジメント株式会社
日興アセットマネジメント株式会社
ニッセイアセットマネジメント株式会社
農林中金全共連アセットマネジメント株式会社
野村アセットマネジメント株式会社
三井住友DS アセットマネジメント株式会社
三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社
三菱UFJ アセットマネジメント株式会社
明治安田アセットマネジメント株式会社
りそなアセットマネジメント株式会社
[1] 日本経済新聞「東京海上系、運用会社の脱炭素国際連合脱退 国内大手初」(2025年3月27日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB26A700W5A320C2000000/
[2] ネットゼロ宣言を行っていない運用会社:SBIアセットマネジメント、SBI岡三アセットマネジメント、しんきんアセットマネジメント投信。りそなアセットマネジメントは、ネットゼロ宣言はあるがNZAMIには署名していなかった。
[3] 2023年度時点で方針があったのは6社。2024年度に加えたのは、アセットマネジメントOne、ニッセイアセットマネジメント、野村アセットマネジメントの3社。
[4] 2023年度時点で方針があったのは、8社。2024年度に加えたのは、日興アセットマネジメント、りそなアセットマネジメントの2社。
[5] SBIアセットマネジメント、SBI岡三アセットマネジメント、SOMPOアセットマネジメント、東京海上アセットマネジメント
[6] 日興アセットマネジメント、農林中金全共連アセットマネジメント、野村アセットマネジメント
[7] 削減目標が「ポートフォリオSBTカバー率」に基づいている2社(アセットマネジメントOne、野村アセットマネジメント)を除く(理由:この指標は2030年時点の実際の排出削減量又は比率を示すものではないため)。
[8] 例えば以下を参照
NZAOA “The Future of Investor Engagement: A Call for Systematic Stewardship to Address Systemic Climate Risk”
https://www.unepfi.org/industries/the-future-of-investor-engagement-a-call-for-systematic-stewardship-to-address-systemic-climate-risk
PRI “ESG-linked pay: Recommendations for investors”
https://www.unpri.org/executive-pay/esg-linked-pay-recommendations-for-investors/7864.article
[9] 2社の事例は下記を参照
・Triodos Investment Management Proxy Voting Guidelines 2024から「Disclosure on Lobbying Activities」(p.7)、「Remuneration」(p.4-5)
https://www.triodos-im.com/binaries/content/assets/tim/sri-theme-documents/proxy-voting-guidelines-02-2022.pdf
・AXA Investment Managers - Corporate Governance & Voting Policy February 2024から「3. Executive Remuneration」(p.10)、「7. Environmental and Social Issues」(p.19-21)
https://www.axa-im.com/document/6571/view