
ちとせグループの中核法人である株式会社ちとせ研究所(以下、ちとせ)は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)の事業「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」(※1) において、AIが発酵生産における微生物の培養状態を最適にコントロールする、AI自動培養制御システム(以下、ちとせのAI)の開発を進めてまいりました。
このたび、味の素株式会社(以下、味の素社)と共同で、ちとせのAIを培養制御が特に難しいとされる糸状菌の培養に適用したところ、人が設計した最良条件と比較して、たんぱく質の生産性を約2倍に向上させることに成功しました。
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人の手では最適化しきれない、変化し続ける培養状態
発酵生産における微生物の培養状態は、開始から終了までの間に、環境への適応、増殖、そして目的物質の生産といった段階が連続的に進行します。さらに、それぞれの段階の中でも状態は絶えず変化しており、こうした変化に応じて温度やpHなどの各種培養条件を適切に調整し続けることは人間にはほぼ不可能です。それゆえ、豊富な知見と技術を有する発酵生産の現場においても、一定条件での制御による培養が行われてきました。
培養制御が難しい糸状菌で、ちとせのAIが生産性2倍を達成
今回の味の素社との共同研究の対象である糸状菌は、大腸菌などと異なり、菌糸を伸長させながら増殖する特性を持ちます。そのため、吸光測定値と実際の菌数に大きな乖離が生じ、培養状態の把握が難しく、培養の最適化が極めて困難です。
ちとせのAIはこのような対象に対しても、センシングにより培養状態を定量的にとらえ、それに基づいて培養の途中で制御項目を動的かつ複雑に変化させることで、菌株の持つポテンシャルを最大限に引き出すことが可能となりました。その結果、熟練の技術者が設計した条件による結果を大きく上回る、たんぱく質の生産性2倍という成果を実現しました。
一般的な制御項目の “精密制御” が、生産性2倍のカギ
制御対象となったのは、発酵プロセスで一般的に使用される、温度、pH、栄養供給速度の3つの項目です。特別な制御項目や装置を用いたわけではなく、既存の制御対象を、培養状態の変化に応じて動的に調整するという精密な制御を行うことによって、この成果が得られました。
これまでの発酵プロセスでは、制御値は固定されたままであり、その設計も人の知見や経験に基づいて設定されていました。しかし本システムでは、ちとせのセンシング技術 (※2) によってこれまで見えなかった培養の状態変化をとらえ、それをAIが学習し、最適な制御操作を提案・実行することで、微生物のポテンシャルを最大限に引き出すことが可能になったのです。
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プロセス開発の新たな可能性──ラボと生産をつなぐAIへ
さらに、本研究の成果は、NEDOが公募した「バイオものづくり革命推進事業」において、味の素社のテーマである「環境保護と食品供給の安定化を実現する精密発酵技術の開発」(※3)に活用されることとなりました。AI制御技術を活用したたんぱく質生産プロセスの開発を行い、迅速かつ高い生産性の実現を目指すという内容です。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/34251/44/34251-44-7855e2624c6925dd95cad234f0832252-2176x1030.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
味の素社のプレスリリース(※3)より
発酵プロセスの開発においては、ラボスケールと生産スケールの環境差が大きく、それぞれが独立した開発となることが一般的です。そのため、スケール間の条件調整や最適化は、これまで多くの場合、熟練者の経験や試行錯誤に頼らざるを得ませんでした。しかし、ちとせのAIを活用することで、ラボと生産現場で同じデータを取得し、そのデータを1つの解析基盤で扱うことで、開発と生産が一体になった新しいプロセス開発基盤ができる可能性があるのです。
ちとせは今後も、AI技術を活用した培養プロセス開発を進め、バイオものづくりの革新に寄与してまいります。
<補足情報>
※1 バイオものづくりプロジェクト
事業名:カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発
事業期間:2020年度~2026年度
事業概要:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100170.html
なお、関連事業としてNEDO「Connected Industries推進のための協調領域データ共有・AIシステム開発促進事業(CI実装)」の成果も一部含まれます。
(参考)NEDOニュースリリース(2019年9月6日)「AIを活用したバイオ生産管理システムの開発を開始」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101190.html
※2 センシング技術に関して詳しくは下記のプレスリリース参照
2023.09.04「AIによる自動培養制御システムの開発に成功! -微生物を活用した機能性食品素材開発において人では不可能な高精度な培養制御を実現-」
https://chitose-bio.com/jp/news/5747/
※3 2024.12.26に味の素社から発信されたプレスリリース「味の素(株)、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の事業に採択され、たんぱく質生産の新技術開発を開始」参照
https://news.ajinomoto.co.jp/2024/12/20241226.html
<味の素株式会社概要>
味の素グループは、“Eat Well, Live Well.”をコーポレートスローガンに、アミノサイエンス(R)で、人・社会・地球のWell-beingに貢献し、さらなる成長を実現してまいります。
味の素グループの2024年度の売上高は1兆5,305億円。世界31の国・地域に拠点を置き、世界での事業展開企業数は121にのぼります(2025年現在)。
詳しくは、www.ajinomoto.co.jpをご覧ください。
<ちとせグループ概要>
https://chitose-bio.com/jp/
ちとせグループは、世界のバイオエコノミーをリードするバイオ企業群です。千年先まで人類が豊かに暮らせる環境を残すべく、国や多くの企業と協力し、経済合理性を成立させながら技術を社会に展開しています。
◯ちとせグループ全体を統括する「CHITOSE BIO EVOLUTION PTE. LTD.」の概要
・設立:2011年10月
・本社:シンガポール
・代表者:CEO 藤田朋宏 Ph.D.
◯ちとせグループの中核法人として、技術開発・事業開発を行う「株式会社ちとせ研究所」の概要
・設立:2002年11月
・本社:神奈川県川崎市
・代表者:代表取締役CEO 藤田朋宏 Ph.D./代表取締役COO 釘宮理恵
[画像4: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/34251/44/34251-44-a30967009d473446a197cae2fc3579ed-1500x1665.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]