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ヒトの皮膚細菌叢を生体外で再現できる新たな培養法の開発に成功 ~皮膚疾患治療法や肌にやさしい化粧品開発への応用に期待~

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東京理科大学


【研究の要旨とポイント】

皮膚常在細菌叢は皮膚疾患と関連があり、治療対象として注目されています。しかし、生体外で皮膚常在細菌叢を培養し、皮膚に似せた環境を人工的に再現するのは困難でした。

本研究では、ヒト皮膚常在細菌叢のうち、代表的な細菌4種の組成を再現できる培養法を開発しました。

本研究成果をさらに発展させることで、皮膚疾患の治療法や、肌に安全な化粧品開発の基盤となるモデル培養系の構築につながると期待されます。

【研究の概要】
東京理科大学大学院 創域理工学研究科 生命生物科学専攻の山元 郁弥氏(2024年度 修士課程2年)、東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科の倉持 幸司教授、古山 祐貴助教の研究グループは、皮膚常在細菌叢(*1)のバランスを維持したまま培養できる「東京理科大学 皮膚常在細菌共培養培地 (TSBC)」を開発しました。これにより、皮膚常在細菌叢を試験管内で人工的に模倣することができるので、皮膚疾患の治療や化粧品開発に大きく貢献することが期待されます。

ヒトの皮膚にはさまざまな細菌が生息しており、私たちの健康に影響を与えています。しかし、これらの常在細菌の多くは培養が難しく、その生息環境を人工的に再現する方法は確立されていません。そこで、本研究グループは、代表的な4種類の皮膚常在細菌を複合培養するための培養条件を詳細に検討し、ヒト皮膚細菌叢の組成と同等の割合で培養できる手法の作製と確立に取り組みました。

本研究では、希釈したGAM 培地(*2)、人工皮脂、HaCaT細胞(*3)、HaCaT細胞の培養上清を混合した培地TSBCを作製し、Staphylococcus epidermidis(表皮ブドウ球菌)、S. capitis、Cutibacterium acnes(アクネ菌)、Corynebacterium tuberculostearicumの4種類の皮膚常在細菌叢の複合培養を行いました。その結果、論文で報告されている日本人の皮膚細菌叢の組成と非常に近いバランスで各細菌を増殖させることに成功しました。また、S. capitisの代わりにS. aureus(黄色ブドウ球菌)を用いた場合にも、S. aureusの増殖が抑制され、4種類の細菌がバランスよく増殖することが確認されました。本研究成果により、TSBCを適用することで皮膚常在細菌叢に近い微生物叢を生体外で再現できる可能性が示唆されました。

本研究成果は、2024年11月11日に国際学術誌「AATEX (Alternatives to Animal Testing and Experimentation)」にオンライン掲載されました。
[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/102047/126/102047-126-cedbadce7b5b7f9e43503306b66855b9-1356x873.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図. 本研究の概要。ヒトの皮膚細菌叢の代表的な細菌4種のバランスをコントロールしながら培養する方法を確立。

【研究の背景】
ヒトはさまざまな細菌と共生しており、皮膚にも多様な常在細菌叢が存在します。皮膚常在細菌叢のバランスは人間の健康にとって重要であり、細菌叢の乱れはアトピー性皮膚炎、ニキビ、乾癬などの皮膚疾患と関連していることが知られています。そのため、近年、皮膚常在細菌叢は、皮膚疾患の治療対象として注目されています。皮膚常在細菌叢を理解することは健康と病気の管理において非常に重要ですが、これらのバランスを維持したまま各細菌叢を培養するのは非常に難しいことが課題でした。

最近の研究では、培養に依存しないメタゲノム解析により、健康な人と皮膚疾患患者の皮膚常在細菌叢の違いが次々と報告されています。しかしながら、メタゲノム解析では存在する細菌の比率を特定できますが、細菌の相互作用の根底にある分子メカニズムや宿主に対する細菌代謝産物の影響を調べるには、培養を通じて詳細に検討する必要があります。

本研究グループは、ヒトの皮膚常在菌に関する研究を行っており、環境負荷が低い化粧品原料や食品添加物への応用が期待できる成果などを見出してきました(※1)。今回は、ヒトの皮膚常在細菌叢をin vitro(生体外)で再現することを目的として研究を遂行し、複数の細菌を複合培養する際の培養条件を検討しました。

※1: 東京理科大学プレスリリース(2024年7月30日)
「ヒトの皮膚常在菌からチロシナーゼ阻害活性を示す化合物を発見 ~メラニン生成を抑制する安全性の高い化粧品原料の開発に寄与~」

【研究結果の詳細】
はじめに、日本人の前額部(おでこ)の皮膚細菌叢を調べた先行研究から、代表的な皮膚常在菌としてStaphylococcus epidermidis(表皮ブドウ球菌)、S. capitis、Cutibacterium acnes(アクネ菌)、Corynebacterium tuberculostearicumを選択しました。これら4種を混合して、GAM寒天培地で複合培養しました。7日後には、S. epidermidisが全体の約50%、S. capitisが約40%、C. acnesが約6%を占めていることが確認され、Staphylococcus属が過剰に増殖したことがわかりました。そのため、よりこれら4種類の細菌の複合培養に適した培地組成の検討を行うこととしました。

そのために、20倍希釈のGAM、人工皮脂、HaCaT細胞、HaCaT細胞培養上清を混合した特殊な培地「東京理科大学 皮膚常在細菌共培養培地(TSBC)」を作製しました。この培地で4種類の細菌を複合培養したところ、7日後にはC. acnesが約55%、Staphylococcus属の組成が10 ~ 20%であることが明らかになりました。C. acnesのコロニー形成単位(CFU)は約45倍に増加しており、GAM条件下での数値と同等でしたが、S. epidermidisとS. capitisのCFUの増加率はGAM条件下と比較すると大きく低下していました。これらの結果は、TSBCではStaphylococcus属の増殖が抑制され、C. acnesの増殖は影響を受けなかったことを示しています。

最後に、S. capitis の代わりに病原性皮膚細菌であるS. aureus(黄色ブドウ球菌)を用いてTSBCで複合培養を行いました。その結果、S. aureus を入れた場合にも4 種の細菌がバランスよく増殖することがわかりました。この結果は、TSBC による培養がS. aureusの増殖割合の管理にも効果的に使用できることを示しています。

本研究を主導した古山助教は、「皮膚常在細菌叢の研究は培養法によらないメタゲノム解析、もしくは純粋培養による個々の細菌の解析がメインです。しかしながら、実際の皮膚環境では、複数の細菌が相互作用しているため、その相互作用関係を再現したモデル培養系が必要であると考えました。本研究成果により、ヒトの皮膚状態に影響を与える皮膚常在細菌の生態に関する詳細な解析が可能になるので、化粧品や皮膚疾患治療薬の研究開発への応用が期待されます」と、成果についてコメントしています。

※本研究は、第16回マンダム動物実験代替法国際研究助成金を受けて実施したものです。

【用語】
*1 常在細菌叢
人体の決まった部位に恒常的に存在する細菌の集団。

*2 GAM
岐阜大学医学部で開発された嫌気性細菌用の培地。腸内細菌や口腔内細菌など、多くの嫌気性細菌の成長に適しており、医療や微生物の研究で使用される。

*3 HaCaT
成人男性の皮膚から樹立された不死化角化細胞(ケラチノサイト)株。通常のヒト角化細胞と類似した特性を持っており、皮膚の研究や皮膚疾患の治療法開発などに使用される。

【論文情報】
雑誌名:AATEX (Alternatives to Animal Testing and Experimentation)
論文タイトル:Developing an in vitro culture model for four commensal bacteria of human skin
著者:Ikuya Yamamoto, Yuika Sekino, Kouji Kuramochi, Yuuki Furuyama
DOI:10.11232/aatex.29.1
※PR TIMESのシステムでは上付き・下付き文字や特殊文字等を使用できないため、正式な表記と異なる場合がございますのでご留意ください。正式な表記は、東京理科大学WEBページ(https://www.tus.ac.jp/today/archive/20241120_9578.html)をご参照ください。

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