模型のジャンルは幅広いものがありますが、身近なものを素材にした模型は、素材を知っていることもあって模型とのギャップに驚くこともしばしば。

 大海原をゆく全長数センチの小さな帆船模型。素材はなんと、アイスの棒なのだといいます。

 アイスの棒で本格的なディティールのミニ帆船模型を作っているのは、大和さん。以前、やはりアイスの棒で大きな帆船模型を作ったことがあったそうで「その時『帆船模型ってかっこいいけど置き場に困るな』と思い、ならば小さい帆船模型を作ろうと思って」2018年から取り組んでいるそうです。

プラックパール号(大和さん提供)

 大きな模型と違い、アイスの棒で小さなモデルを作るとなると、切ったり削ったりといった細かな作業が必要となります。大和さんはデザインナイフやカッターなどを用い、すべて手作業でパーツを切り出し、形を整えているとのこと。

プラックパール号の船体(大和さん提供)

 ディティールを表現するパーツは、木の繊維が見えるほどの細かさ。このサイズでラッタルや格子など、綺麗に形を整える技は驚愕の一言です。

細かいディティール(大和さん提供)
木の繊維が見えるほどの細かさ(大和さん提供)

 マストなど、丸みを帯びた部品はルーターを旋盤代わりに使い、物を削るビットの代わりに部材を装着して回転させ、ヤスリで形を整えているんだとか。挽物と同じ手法ですね。

マストを取り付け塗装したところ(大和さん提供)

 ロープ類はミシン糸を使用。大和さんは極小サイズの帆船模型を作っているうち、細いミシン糸を「太い」と感じるようになってきたんだとか。確かに、このスケール感だとミシン糸が太いロープに見えてきます。

ロープはミシン糸(大和さん提供)

 最初に作ったのは、映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」に登場するジャック・スパロウの黒い海賊船、ブラックパール号。ブラックパール号の模型は2隻作られており、2隻目はひと回り小さいサイズで作られました。

ブラックパール号のジオラマ(大和さん提供)

 この2隻目のブラックパール号は、大和さんのお気に入りだそうで「私が今まで作った中で最小のサイズで、細かなところまでこだわって作りました」の言葉通り、全長4cm程度の船体に、細かなディティールが詰め込まれています。

船尾から見たブラックパール号(大和さん提供)

 黒と黄色の船体が印象的な船は、イギリス海軍の記念艦ヴィクトリー(1765年進水)。1805年10月21日の「トラファルガーの海戦」において、ネルソン提督が座乗するイギリス地中海艦隊の旗艦だった船で、今も軍籍を残したままポーツマスの記念ドックに係留されています。

ヴィクトリー(大和さん提供)

 ヴィクトリーはブラックパール号より少々大きく、全長10cmほど。3層ある砲列甲板、艦尾と第1マストにはためくホワイト・エンサイン(イギリス海軍旗)など、小さくても大英帝国の栄光を担った船の堂々とした姿が表現されています。

ヴィクトリーの勇姿(大和さん提供)
ヴィクトリーの船体(大和さん提供)

 帆船模型の醍醐味は、帆とそれを張るためのロープ類をいかに表現するかですが、大和さんは縄ばしご(ラットライン)を作るのに、専用の治具を自作。これにより、正確な形でディティール表現が可能となっています。

ミシン糸でロープを組む(大和さん提供)
マストに取り付ける(大和さん提供)
艦首のロープワーク(大和さん提供)

 現在、ミニ帆船模型としては4隻目となるスウェーデンの戦列艦ヴァーサ(1628年の初航海で沈没、333年後の1961年に引き揚げられストックホルムのヴァーサ号博物館で展示中)を作っているという大和さん。時折展示会に参加し、作品を目にする機会があるそうで、参加の際は事前にTwitterで告知することもあると語ってくれました。

 画像で見ているだけでもすごいのですが、現物を見たら小ささに驚いてしまうかも。「今後も色々な場所でお披露目したいと考えております」という大和さんの作品、ぜひ生で見てみたいものですね。

<記事化協力>
大和@帆船模型はイイぞさん(@Yamato97416)

(咲村珠樹)