
日清製粉グループ(株式会社日清製粉グループ本社 取締役社長:瀧原 賢二、日清製粉株式会社 取締役社長:山田 貴夫)と学校法人大妻学院大妻女子大学(学長:伊藤 正直)は、高食物繊維小麦粉に含まれる多様な発酵性食物繊維[※1]の組成を明らかにしました。また、これら発酵性食物繊維による腸内環境改善効果の可能性を培養試験で示しました。
研究成果の詳細は、本年3月4日(火)~3月8日(土)に開催される「日本農芸化学会2025年度札幌大会」において発表します。
<研究成果の概要>
◇これまでの研究で、高食物繊維小麦粉に豊富に含まれるレジスタントスターチ(ヒトの消化酵素で分解されずに大腸まで届くでん粉)は発酵性食物繊維であり、腸内細菌が代謝することで、有益な物質である短鎖脂肪酸が産生されることを培養試験で明らかにしています。
◇高食物繊維小麦粉に含まれるレジスタントスターチは、他の食物繊維と比較して、酢酸(短鎖脂肪酸の一種)を産生する基質としての効果が同等または高いことを培養試験で確認しました。(研究1)
◇高食物繊維小麦粉から製造したパンに含まれる食物繊維の組成を明らかにし、大部分が発酵性食物繊維であることを確認しました。(研究2)
◇高食物繊維小麦粉には、レジスタントスターチだけでなく複数の発酵性食物繊維が含まれることで、短鎖脂肪酸産生菌であるBifidobacterium 属の存在比率や短鎖脂肪酸の産生量の増加により、腸内環境改善効果が向上することを培養試験で確認しました。(研究3)
(研究1)(研究3)では、小麦粉の加工を想定し、水を添加後に加熱した試料を使用
<学会発表の概要>
学会名:日本農芸化学会2025年度札幌大会
発表演題:「高食物繊維小麦粉の発酵性食物繊維による腸内環境改善効果の検証」
<社会的背景>
食物繊維は、摂取することで数多くの生活習慣病の発症率を低下させることが報告されている重要な栄養素であり[※2]、世界的に関心が高まっています。世界保健機関(WHO)は1日に摂取するべき食物繊維量を25g以上と定めています[※3]。日本においては、食物繊維の摂取量が不足しており、特に穀物からの食物繊維摂取が減少傾向にあります[※4]。また、食物繊維の質も重要な要因であり、食品形態での食物繊維摂取が推奨されています[※5]。
近年、「発酵性食物繊維」の健康機能性が注目されています。発酵性食物繊維は腸内細菌によって利用され、短鎖脂肪酸などの有益な代謝物質が腸内で産生されることにより、腸内環境の改善を通じて健康促進に寄与します。このため、多様な発酵性食物繊維の摂取が求められています。
<研究の経緯>
高食物繊維小麦粉は、様々な食品に利用できるため、不足しがちな食物繊維の摂取に役立つ素材です。また、発酵性食物繊維の一種であるレジスタントスターチを多く含むことから、高い腸内環境改善効果が期待されます。今回の研究では、高食物繊維小麦粉に含まれる食物繊維の組成(種類やその割合)を解析し、腸内環境改善効果の可能性を培養試験において検証しました。
<研究の内容>
◇ 研究1 高食物繊維小麦粉に含まれるレジスタントスターチと他の食物繊維素材との腸内環境改善効果の比較検討(培養試験)
小麦粉の加工を想定し、水を添加後に加熱した高食物繊維小麦粉に含まれるレジスタントスターチの腸内環境改善効果を、難消化性デキストリン、大麦由来β-グルカン、小麦ふすま由来アラビノキシランと培養試験にて比較しました。
レジスタントスターチ添加による酢酸の産生量は、難消化性デキストリンと同等であり、大麦由来β-グルカンや小麦ふすま由来アラビノキシランよりも高い[※6]ことが分かりました。また、有用菌であるBifidobacterium属の増加[※6]も確認しました。これにより、高食物繊維小麦粉に含まれるレジスタントスターチは、他の食物繊維と比較して、酢酸を産生する基質としての効果が同等もしくはそれ以上であり、腸内環境改善効果を持つ可能性が示されました。
◇ 研究2 高食物繊維小麦粉から製造したパンに含まれる食物繊維の組成解析
高食物繊維小麦粉から製造したパンを使用し、喫食時の食品に含まれる食物繊維の種類、及び割合を分析しました。
高食物繊維小麦粉から製造したパン由来の食物繊維には、レジスタントスターチ以外にも発酵性食物繊維として知られるフルクタンやアラビノキシラン、アラビノガラクタン、β-グルカン[※7]が含まれることを確認しました。高食物繊維小麦粉に含まれる食物繊維のうち、約84%は発酵性食物繊維であることが明らかになりました(図1)。
◇ 研究3 高食物繊維小麦粉に含まれる発酵性食物繊維による腸内環境改善効果の検証(培養試験)
小麦粉の加工を想定し、水を添加後に加熱した高食物繊維小麦粉由来の食物繊維を種類、及び性質ごとに分け、培養試験による発酵性の評価を実施しました(株式会社メタジェンに委託)。
高食物繊維小麦粉に含まれるレジスタントスターチ、及びその他の食物繊維は、腸内発酵性があり、短鎖脂肪酸産生菌であるBifidobacterium属の存在比率を増加させるなどの腸内環境改善効果が培養試験において確認されました。また、レジスタントスターチと複数の発酵性食物繊維が含まれることでその効果が向上することが明らかになりました(図2)。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/72829/7/72829-7-792b2a43e58be0d737d9d8ead5b9bfde-449x348.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1.高食物繊維小麦粉から製造したパンに含まれる食物繊維の内訳
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/72829/7/72829-7-30027a96698c85db669dc115a09cc097-844x473.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2.培養後の総短鎖脂肪酸濃度、Bifidobacterium 属の存在比率(異なるアルファベットで示された群間でp <0.05 、n=9 、Wilcoxon の符号順位検定)
<今後の期待>
今回の研究成果により、高食物繊維小麦粉が腸内環境改善効果を有する可能性が示されました。この発見は、日常の食事における食物繊維の質と量を高め、健康促進に寄与する新しい食材としての可能性を広げることに繋がります。今後は、培養試験に留まらず、実際のヒト臨床試験を通じてさらなるエビデンスを蓄積し、消費者の皆様にとって身近な食品としての応用を進めて参ります。
また、この研究は高食物繊維小麦粉の健康増進への寄与の可能性を示すものであり、食品業界全体における新たな製品開発や健康食品の創出に貢献することが期待されます。日清製粉グループは、これからも科学的根拠に基づく研究を推進し、高食物繊維小麦粉を通じた「“おいしい”の先に健康がある世界」を目指し、研究開発を進めてまいります。
<用語の説明・補足事項>
※1 ヒトの消化酵素で分解されずに大腸まで届き、腸内細菌のエネルギー源となる食物繊維
※2 出典:「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書,厚生労働省
※3 出典:Khatri et al., Indian. J. Med. Res, 2023, 158(1), 5-16
※4 出典:日本人の食物繊維摂取量の編纂,食物繊維研究会誌,1997, 1, 3-12 令和元年国民健康・栄養調査報告,厚生労働省
※5 出典:「Carbohydrate intake for adults and children」 WHO guideline, WHO
※6 最小二乗平均差のTukeyのHSD検定でp <0.05
※7 出典(フルクタン、β-グルカン):Gill et al., J. Gastroenterol. Hepatol, 2021, 18, 101-116
出典(アラビノキシラン、アラビノガラクタン):Harris et al., Eur. J. Nutr, 2019, 59, 297-307