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国内アスペルギルス症の原因菌種に新知見~病原菌の祖先についても解明~

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国立大学法人千葉大学


■研究の概要
 千葉大学真菌医学研究センターの柴田紗帆特任助教、高橋弘喜准教授らの研究チームは、日本国内でこれまで未報告だった真菌種 Aspergillus latus(アスペルギルス・レイタス、以下A. latus)が、実際には過去10年間にわたりヒトのアスペルギルス症の原因菌として存在していた可能性を明らかにしました。この成果は、アスペルギルス症の診断精度向上と新たな治療戦略の開発に寄与することが期待されます。
 本研究成果は2025年6月10日付で国際学術誌Medical Mycologyに掲載されました。

■研究の背景
 真菌(カビ)による感染症は、2022年に世界保健機関(WHO)からその脅威について警鐘が鳴らされています。中でも、アスペルギルス症は免疫不全患者などに発症する深在性真菌症であり、難治性疾患である肺アスペルギルス症は世界中で年間300万人罹患しているとも言われています。その原因菌として A. fumigatusやA. nidulansなどが広く知られています。しかし、外見上類似しているために見過ごされやすい「隠蔽種(cryptic species)」(注1)の存在は、診断・治療に影響を及ぼす可能性があります。治療効果を上げるため、正確な種同定が求められています。
 A. latus は、2種の異なる種や系統の交配により生じた「異質倍数体」(注2)であり、それぞれの親種由来のゲノムを保持している点が特徴です。こうしたゲノム構造により、高い遺伝的多様性を有しており、近縁種と比較して病原性が高く、多剤耐性(注3)の傾向を示すことが報告されてきました(図1)。真菌(カビ)はヒトと遺伝的に近縁であることから、使用可能な抗真菌薬はポリエン系,フロロピリミジン系,アゾール系ならびにキャンディン系の4系統に限られており、多剤耐性化は治療を困難とする重要なリスク要因と考えられています。さらに、異質倍数体の雑種であることから、形態学的な特徴や従来の分子マーカーでは識別が困難で、他種と誤同定されやすいという課題もあります。その上で A. latus は日本国内での臨床報告がなく、その存在や臨床的意義は不明とされていました。

[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/1000/15177-1000-ce03753f68b47ae13a53ba0e3e01e835-480x551.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:A. latusの特徴

■研究の成果
 A. latusは先行研究によりA. spinulosporusと未知の種による雑種であると推定されていました。そこで、研究チームは千葉大学真菌医学研究センターに保存されていた、2012年から2023年にかけて日本国内で肺アスペルギルス症患者より分離されたA. spinulosporusの23株について、再解析を実施しました。その結果、7株(30%)が A. latus であったことが判明しました(図2)。
 同定には、従来の形態学的観察に加え、カルモジュリン(CaM)遺伝子(注4)に基づく分子系統解析z(注5)および全ゲノム解析を組み合わせることで、より高精度な分類を実現しました。この過程において、これまで未知の種との交雑によって生じたと考えられていた A. latus が、実際には既知の2種 A. spinulosporus(図2上水色部分)とA. sublatus(図2上オレンジ部分)の交配により成立した雑種であることが、世界で初めて明らかとなりました。
 さらに、国内由来の A. latus 株を用いた抗真菌薬感受性試験の結果、アムホテリシンB(ポリエン系)、フルシトシン(フロロピリミジン系)およびカスポファンギン(キャンディン系)に対しては感受性が低い一方、副作用が少なく、剤形の選択肢の多いアゾール系薬剤には比較的高い感受性を示す傾向が確認されました。


[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/1000/15177-1000-c588d32479572b82d9f0577beb4bc5b1-214x377.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2:分子系統解析と形態観察の結果

■今後の展望
 本研究により、 A. latus が日本国内にも分布し、アスペルギルス症の原因菌となりうることが初めて明らかになりました。今後は、分子系統解析やゲノム解析を取り入れた診断体制の構築により、真菌感染症に対する診断精度の向上と、患者ごとに最適な抗真菌薬の選択が可能になると期待されます。
 さらに、本研究によって A. latus の祖先種が既知の2種であることが明らかとなったことで、これまで困難とされていた本雑種の進化的起源の解明が現実的となりました。今回の発見により、多剤耐性化の分子的機構や病原性の獲得過程といった、臨床上で重要な性質の理解が大きく進展することが期待されます。

■用語解説
注1)Cryptic species(隠蔽種):形態的に極めて類似しているが、遺伝的には異なる別種の微生物。
注2)異質倍数体:異なる祖先の交配により生じ、両祖先に由来するすべての染色体セットを引き継ぎ、染色体数が倍化した生物。
注3) 多剤耐性:本来であれば効果を持つはずの複数の薬に対して、感受性が低下し効かなくなる状態のこと。
注4) CaM遺伝子:カルモジュリン遺伝子。分子系統解析でアスペルギルス属の真菌の種同定に有用とされる遺伝子領域。
注5) 分子系統解析:生物のDNAの配列(遺伝子の並び)を比較することで、生物が進化してきた系統を理解するための解析手法。

■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の助成金の支援を受けて遂行されました。
・ 科学研究費助成事業 「アスペルギルス症における宿主体内の原因菌進化の解明:ゲノム変異と選択圧の影響」(24K19262)
・ 発酵研究所 2025年度 一般研究助成(G-2025-1-006)

■論文情報
タイトル:Aspergillus latus: a cryptic causative agent of aspergillosis emerging in Japan
著者:Saho Shibata, Momotaka Uchida, Sayaka Ban, Katsuhiko Kamei, Akira Watanabe, Takashi Yaguchi, Vit Hubka, Hiroki Takahashi
雑誌名:Medical Mycology
DOI:10.1093/mmy/myaf052

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