航空機業界においては、より安価でかつ機能性の高いエンジンが求められており、常に新たな素材およびその加工法の開発が行われている。特に、CO2削減にも貢献しつつ同時に過酷な環境下でも耐え得る軽量で高強度、かつ低コストで製品化可能な新材料およびその加工法の確立が求められている。
本開発は、物質・材料研究機構（NIMS）構造材料研究拠点 設計・創造分野 超耐熱材料グループ 鉄井 利光NIMS特別研究員の研究成果である鋳造性に優れているTiAl合金の更なる最適化を図り、最終製品形状に近い形状（ニアネット形状）の鋳造物から機械加工でジェットエンジン向けタービンブレードを製造する低コスト量産技術の確立を目指し、科学技術振興機構（JST）のA-STEP企業主体マッチングファンド型の支援を受けてAeroEdge株式会社（本社：栃木県足利市、代表者：代表取締役社長 森西 淳）にて行われた。
本開発では、NIMSの技術シーズを基に、鋳造性に優れ、かつ必要な機械的特性を達成する新たなTiAl合金を開発した。そして、ニアネット形状での鋳造を実現し、従来法と比較し機械加工工数の大幅削減により、材料・加工両コストを同時に抑制し、従来技術では成し得ないレベルの低コストTiAlタービンブレードを実現した。
鋳造性や機械的特性を向上させるため、含有金属の組成を変えて鋳造し、スクリーニングを行った。その結果現行のTiAl合金よりも高い湯周り性、低い欠陥発生率で良好な鋳造性が見出された。併せて、各種添加元素の特性に及ぼす影響を検討し、最終的に新しいTiAl合金として成分および、それらのばらつき範囲も定めることで量産への適用目処を得た。
この新TiAl合金特有の良好な鋳造性を検証するために、TiAl合金では実績のない重力鋳造の検討を行った。重力鋳造により得られた新TiAl合金の鋳造素材では、鋳造試験において製造したブレードすべてで湯回り不良は発生せず、欠陥発生率も10％以下と優れた鋳造性が確認できた。大掛かりな設備を必要としない重力鋳造を適用することで、鋳造プロセスコストの大幅な削減が可能となる。
また、低コストの汎用溶解法として一般的に用いられるセラミックるつぼを使用することを検討した。TiAl合金の高活性な溶湯が酸化物であるセラミックと反応し混入する酸素がTiAl合金の物性を低下させるため、TiAl合金では従来、セラミックるつぼは使用されていなかった。既存のTiAl合金および新TiAl合金においても、酸素の除去方法の検討を行い、鋳造品の酸素濃度を低減することに成功した。
さらなる低コスト手法として、機械加工時に出てくる切粉のリサイクル利用を検討した。リサイクル切粉を一定量添加し、鋳造を行ったが、主要元素の濃度変化は見られなかった。酸素濃度がリサイクル原料を使用しない鋳造品に比べて若干高くなったものの、上記の酸素除去方法により、酸素濃度については改善できる見込みである。
上記開発を行った結果、量産に向けて設定した全ての目標を達成した。
今後、短期的には本開発で得られた低コストのタービンブレード鋳造方法を現行材料に適用し、量産に向けて、顧客の協力のもと、試作品の評価、鋳造・分析等の各種工程開発を行う。中長期的には、本開発において開発した新合金での認証取得と現行エンジンへの実用化を目指す。また、次世代エンジンへの新合金の適応を目指していく。
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