今回は、今大人気のブラウザゲーム『艦隊これくしょん~艦これ~』を取り上げます!このゲームは、DMMと角川ゲームスがタッグを組んで世に放ったブラウザゲームです。タイトルは、一見『艦隊これくしょん』が正式名称で『艦これ』が略称なのかと思ってしまいそうですが、『艦隊これくしょん~艦これ~』までが正式名称だそうです。
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ゲームの概要は、プレイヤーが提督となって太平洋戦争中の艦船を率い、索敵、雷撃、砲撃、艦上攻撃機や艦上爆撃機による航空攻撃を用いて、謎の敵と戦うというものです。こう説明すると普通の戦争シミュレーションゲームのようですが、本作最大の特徴は、艦船が美少女に擬人化されていることです。ここ数年、国家を擬人化した『ヘタリア Axis Powers』や駅を擬人化した『ミラクル☆トレイン ~大江戸線へようこそ~』等、擬人化はサブカルチャーにおいて1つの勢力を形成しており、本作もそういった中の1つと言え得るでしょう。また、第二次世界大戦中のパイロットを女性化したキャラクターが、太平洋戦争中に実在した軍艦と共に、謎の敵と空中戦を繰り広げるアニメ『ストライクウィッチーズ』と雰囲気が似ている印象も受けます。『ストライクウィッチーズ』が空のアニメなら『艦これ』は海のゲームといったところですね。
本作に登場する、艦船を擬人化した美少女キャラクターは艦娘(かんむす)と呼ばれており、外見以外は普通の艦船と同じです。海を航行し、破損すればドックで修復され、解体されれば資材となります。これだけ見れば明らかに普通の艦船なんですが、外見が女の子なんですよね(笑)。艦娘は大砲を装備していたり、飛行甲板を持っていたりするので、砲撃や航空機の出撃はそれを用いるのでしょうが、航行する時は、普通の船のように下半身が水中、上半身が海面上に現れているのか、それとも、忍者のように水面を足で歩いているのか、どっちなんでしょうね?
ところで艦娘は、ゲーム中の発言を聞く限りでは、どうやら太平洋戦争中の記憶を保持しているようです。特に図鑑のコーナーにおいてその傾向が強いです。今から申し上げることは私の個人的意見なのですが、『艦これ』の世界はOVA『紺碧の艦隊』方式のような印象を受けます。『紺碧の艦隊』は、冒頭、太平洋戦争中に聯合艦隊司令長官・山本五十六が戦死する場面から始まり、山本が記憶を保持したままパラレルワールドに転生する展開を辿ります。『艦これ』の艦娘もまた、太平洋戦争中の記憶を保持したままパラレルワールドに美少女キャラクターとして転生したように思えます。
さて、ここで『艦これ』の特徴を列挙し、その魅力を明らかにしたいと思います。
――その1、図鑑
昔から品物をコレクションすることは多くの人の楽しみでした。それは例えば切手だったりプロ野球カードだったり仮面ライダーカードだったりしたのですが、我々若者の世代の間ではデータが蒐集の対象になる、という現象も起きました。その現象を広く世の中に知らしめたのがゲームボーイソフト『ポケットモンスター』でありました。同ゲームソフトは、獲得したポケモンがポケモン図鑑に表示されることで、プレイヤーの蒐集意欲を高めましたが、『艦これ』においても同様の仕組みが組み込まれています。即ち、プレイヤーが獲得した艦娘と装備が図鑑に表示されるのです。ゲームのタイトルが『艦隊これくしょん』であることからも明らかなように、艦娘をコレクションすることが本作の要点の1つだと言えましょう。
――その2、キャラクター
本作には多くの艦娘が登場しますが、それらがみな個性的な台詞を喋り、親しみやすい存在となっています。ついつい、多くの艦娘の多くの台詞を聞きたいと思ってしまいます。ピクシブやツイッター上にはプレイヤーが描いたイラストや漫画が沢山アップロードされ、艦娘達がゲーム中世界を飛び越えて生き生きと躍動する状況が出現しています。
尚、艦船には同型艦や姉妹艦というものがありますが、『艦これ』では同型艦や姉妹艦を同じ服装で表現し、別人だけど同じコンセプトということを巧みに表現しています。姉妹艦を本当の姉妹にしてしまうところは、擬人化の強みですね。
――その3、航空機
『艦これ』では艦船が擬人化されていますが、太平洋戦争中の航空機については、ややデフォルメされているものの、ほぼそのままの形で登場しています。戦闘シーンでは空母の艦娘と共に画面上に登場しますが、これがカッコイイんですよね~。
――その4、戦闘
『艦これ』のゲーム中において重要な位置を占めるのが戦闘シーンです。本作における戦闘は、画面左の自軍と画面右の敵軍の艦船がお互いに攻撃を加え合うもので、図式的には、ロールプレイングゲームにおいてプレイヤーのパーティーが魔物の群れと戦う場面に似ていると言えます。本稿では特に印象深い要素として、雷撃、航空攻撃、夜戦の3つをご紹介したいと思います。
まず、魚雷による雷撃。両軍合わせて発射する場面は、敵が発射した魚雷が自軍の艦船に命中するのではないかとドキドキする瞬間です。このドキドキ感をゲーム化したおもちゃとしてエポック社の魚雷戦ゲームがありますが、『艦これ』もまたこの延長線上にあると言えましょう。
次に航空攻撃。太平洋戦争中、日本海軍の空母が搭載した艦上攻撃機と艦上爆撃機は非常に高い威力を発揮しましたが、『艦これ』においてもそれは同様で、艦上攻撃機と艦上爆撃機の攻撃力はとても強く、敵をなぎ倒す様子は爽快です。自軍が放った航空機と敵軍が放った航空機が空中で激突するシーンも大迫力です。
最後に夜戦。夜戦になると艦娘達は非常に強い攻撃力を発揮します。どこかで聞いた話ですが、日本海軍で見張りをしていた人は昼でもサングラスを着用し、夜間の視力を高めたそうです。日本海軍が夜戦で勝利を挙げた例として1942年11月のルンガ沖夜戦が有名です。『艦これ』においても、艦娘がそういった伝統を受け継いでいると言えそうです。
ところで、艦娘は中破、大破すると服が破れます。『一騎当千』とか『クイーンズブレイド』みたいな深夜アニメと同様に、そこを見せ場の1つにしているんですね(笑)。
――その5、史実を踏まえた描写
『艦これ』は史実を知らなくても充分堪能できる作品ですが、史実を意識した描写も多く見られます。以下に、幾つか具体例を列挙したいと思います。
空母赤城(声=藤田咲)は図鑑において「慢心…ですって?」、ゲーム中において「この勝利で慢心していては駄目。索敵や先制を大事にしないと・・・って、頭の中で何かが?」「装備換装を急いで!!」「誘爆を防いで!」という台詞を言っていますが、この台詞は1942年4月のセイロン島沖海戦と同年6月のミッドウェー海戦の様子を物語っています。セイロン島沖海戦において赤城をはじめとする南雲機動部隊(後述)はセイロン島の英軍基地への攻撃と、英東洋艦隊との戦いという2つの状況に直面していましたが、航空機の兵装(地上の基地に攻撃を加えるための兵装と、敵艦に攻撃を加えるための兵装)を転換している最中に敵の空襲を受けたり、索敵が不充分だったりといった、下手すれば敵にやられてしまうかもしれないほどの失敗をやらかしていました。しかし南雲機動部隊はこの戦いに勝利したため、これらの教訓が反省されることはなく、ミッドウェー海戦で同じ失敗を繰り返して空母4隻を失う羽目になってしまいます。この時、日本側空母の艦内は兵装転換の最中だったため爆弾がゴロゴロ転がっていて誘爆したそうな。古人曰く、勝って兜の緒を締めよ、と。
『艦これ』ではプレイヤーに任務が発令されるコーナーがあるのですが、その中には
「南雲機動部隊」を編成せよ! 一航戦「赤城」「加賀」二航戦「飛龍」「蒼龍」からなる第一機動部隊を編成せよ!
というものがあります。南雲機動部隊というのは太平洋戦争中に活躍した南雲忠一が司令長官を務めた機動部隊(空母を基幹とする艦隊)のことで、ミッドウェー海戦までは第一航空艦隊、ミッドウェー海戦以後は第三艦隊が、南雲が率いる機動部隊でしたが、一般的に南雲機動部隊として有名なのは第一航空艦隊の方であり、『艦これ』も第一航空艦隊を想定しています。一航戦と二航戦はそれぞれ第一航空戦隊(司令官=南雲忠一)と第二航空戦隊(司令官=山口多聞)の略で、一航戦は空母赤城、加賀、二航戦は空母飛龍、蒼龍を擁して第一航空艦隊を構成していました。『艦これ』における赤城は「一航戦、赤城、出ます!」という台詞も喋っています。『艦これ』では
「「第五航空戦隊」を編成せよ! 「翔鶴」「瑞鶴」を基幹とし、駆逐艦2隻を加えた第五航空戦隊を編成せよ!」
という任務も登場しますが、空母翔鶴、瑞鶴を擁する第五航空戦隊(司令官=原忠一)は、第一航空艦隊に所属したり外れたりしており、第一航空艦隊から離れた時には、日米機動部隊が初めて激突した珊瑚海海戦(1942年5月)に参戦しています。南雲機動部隊において各戦闘に参加した上記6空母を纏めると次の通りです。
(図:https://otakuma.net/?attachment_id=50387)
この他、『艦これ』における任務を見ると、
「「三川艦隊」を編成せよ! 「鳥海」「青葉」「加古」「古鷹」「天龍」を含む高速艦隊を編成せよ!
「西村艦隊」を編成せよ! 「扶桑」「山城」「最上」「時雨」を基幹とした西村艦隊を編成せよ!
というものもあります。ここで言う三川艦隊は1942年8月の第一次ソロモン海戦で大活躍した三川軍一率いる艦隊、西村艦隊は1944年10月のレイテ沖海戦で西村祥治が率いた艦隊を表しています。
――まとめ
本作に登場する艦娘達は、一部に太平洋戦争を生き延びた艦船もいますが(例、戦艦長門、空母鳳翔、駆逐艦雪風、等)、その多くは太平洋戦争で沈没した艦船です。その艦船がフィクションの世界を舞台に元気な姿で活躍するという構図は、アニメ『宇宙戦艦ヤマト』と共通していると言うことができます。そこに、戦争で悲劇の結末を迎えた艦船に対する日本人のメンタリティがあるとは言えないでしょうか。そして、ゲームそのものが一種の供養の役割を果たしていると私は考えています。
――おまけ
以前、私は空母赤城や戦艦大和などの軍艦が登場する映像作品に関する記事を書いたことがありますので、もし宜しければご覧戴けると幸いです。
【新作アニメ捜査網】第20回 終戦記念日特別企画 ストライクウィッチーズ2
https://otakuma.net/archives/3492999.html
【新作アニメ捜査網】第34回 特別企画 戦艦大和の沈没
https://otakuma.net/archives/4484573.html
役所広司主演『山本五十六』公開記念 太平洋戦争映画・テレビドラマ大全
https://otakuma.net/archives/2012010501.html
――参考文献
『太平洋戦争海戦全史』2006年、学研パブリッシング発行
『第二次大戦海戦事典』福田誠編著、1998年、光栄発行
――画像
『艦隊これくしょん~艦これ~』HP http://www.dmm.com/netgame/feature/kancolle.html
(文:コートク)