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【新作アニメ捜査網】第20回 終戦記念日特別企画ストライクウィッチーズ2

今年もまた8月15日の終戦記念日を迎えました。今回の「新作アニメ捜査網」では、第2次世界大戦をモチーフの一端としたテレビアニメ『ストライクウィッチーズ2』をご紹介致します。


  • 独立UHF局やBS日テレ等で放送されている『ストライクウィッチーズ2』は、2008年第3クールに今はなきアニメスピリッツ枠で放送された『ストライクウィッチーズ』の続篇です。ストーリーは、1作目は1944年、2作目は1945年を舞台とし、1939年9月1日(史実ではドイツがポーランドに侵攻した日)に侵攻してきた謎の魔物・ネウロイと戦う少女達を描くというものです。少女達はストライカーユニットという機械を装備して空中を飛翔し、ネウロイと戦います。

    本作の原作者・島田フミカネは同趣旨の『スカイガールズ』(OVAは2006年、テレビアニメは2007年)でもキャラクター原案を務めています。『ストライクウィッチーズ』第1作に登場したナレーションや、第1話で主人公が軍隊にスカウトされるという展開は、『スカイガールズ』と似ています。萌えと軍事を融合させた出版物やフィギュア等がここ数年多数発売されており、『スカイガールズ』『ストライクウィッチーズ』もその流れに位置する作品と言ってよいでしょう。因みに両番組とも、旧日本海軍や海上自衛隊とゆかりの深い横須賀が登場します。

    さて、『ストライクウィッチーズ』二部作の主要登場人物は11人いますが、それらのキャラクターは第2次世界大戦時に実在したパイロットを女性化したキャラクターです。11人のうち枢軸国のパイロットをモデルにしたのが7人、聯合国側が4人となっており、主人公及びその上官は日本軍人がモデル、主要登場人物が所属する部隊の隊長はドイツ軍人がモデルになっています。第2次世界大戦時の日独伊三国同盟を中心として国家を擬人化した『ヘタリア Axis Powers』というアニメもありましたが、『ヘタリア』にしても『ストライクウィッチーズ』にしても、日本が枢軸側であったが故に、第2次大戦をパロディ化した場合、枢軸国が中心となるのでしょう。

    付け加えると、女性化と擬人化は現代のヲタク業界において重要な地位を占めていると言っていいでしょう。『ストライクウィッチーズ』第1作が放送された2008年第3クールには、三国志の武将を女性化した『恋姫†無双』(第1作)と『一騎当千 Great Guardians』(第3作)もありましたから、2008年第3クールはさながら歴史上の人物の女性化大会の様相を呈していました。

    『ストライクウィッチーズ』二部作には、実在の軍人を女性化したキャラクターの他に、実在した兵器も多数登場します。『ストライクウィッチーズ』第1作には空母赤城(太平洋戦争の緒戦で活躍した第一航空艦隊の旗艦)、第2作には戦艦大和が登場。また、主人公の上官である坂本美緒少佐(声・世戸さおり)は、紫電改というストライカーユニットを装備しています(紫電改は太平洋戦争末期に活躍した戦闘機)。坂本少佐や、空母赤城の杉田淳三郎艦長(声・麦人)は旧日本海軍の第2種軍装を着用しています。

    ここで私は1人の映画人を思い出します。かつて、空母赤城、戦艦大和、紫電改といった兵器が登場する映画を30年近くに亘って制作し続けた映画人がいました。その名を圓谷英二という。

    明治34年に生まれた圓谷は、少年時代より飛行機に強い関心を持ち、模型飛行機作りに熱心に取り組んでいました。圓谷は15歳の時、飛行機の操縦を勉強するため日本飛行学校に入学するも、同校は閉鎖されてしまいます。その後、圓谷は映画界入り。日中戦争中には、陸軍の依頼による飛行機の操縦方法を教育する映画を作る際に飛行機の操縦をマスターしました。昭和15年には榎本健一主演の映画『孫悟空』(本篇監督・山本嘉次郎、特技監督・圓谷英二、音楽・鈴木靜一)において、孫悟空が飛行機に乗って空を飛ぶ場面を作ったりもしますが、時代が時代だけに、圓谷の技術は戦意昂揚映画において重宝されるようになってしまいます。昭和17年には映画『ハワイマレー沖海戦』(本篇監督・山本嘉次郎、特技監督・圓谷英二、音楽・鈴木靜一)が公開。この作品で、空母赤城をはじめとする第一航空艦隊が真珠湾を攻撃するシーンが描かれ、圓谷の技術が存分に発揮されますが、圓谷は、戦意昂揚映画が若者の出征に繋がったことを心に病んでいたと伝えられます。戦後、圓谷は松林宗惠監督らと共に、戦争にまつわる映画を次々と発表します。例えば昭和34年の映画『潜水艦イ-57降伏せず』(本篇監督・松林宗惠、特技監督・圓谷英二、音楽・團伊玖磨)で太平洋戦争末期に和平工作を試みながらもあと一歩のところで間に合わなかった無念を描き、続く昭和35年の超大作映画『太平洋の嵐』(本篇監督・松林宗惠、特技監督・圓谷英二、音楽・團伊玖磨)では真珠湾攻撃からミッドウェイ海戦までを映像化。真珠湾攻撃のシーンでは、縮尺500分の1、建造費1500万円の真珠湾のミニチュアセットが登場し、圓谷は総天然色での真珠湾攻撃シーンの撮影に取り組んでいます。第一航空艦隊の航空隊がハワイの山の周囲を飛ぶ描写は、『ハワイマレー沖海戦』において第一航空艦隊の航空隊がハワイの山の周囲を飛ぶ描写と全く同じ画面の構図となっています。そして、作り手の戦争への思いが最も強く打ち出されるのが、クライマックスのミッドウェイ海戦において第一航空艦隊の空母が沈没するシーンです。ミッドウェイ海戦シーンのため、東宝の世田谷撮影所では面積1万平方メートルのプールが建造され、そこで長さ13メートルの空母のミニチュアを浮かべて撮影されました。

    話は少しだけ『ストライクウィッチーズ』の話題に戻りまして、『ストライクウィッチーズ』第1作第11話「空へ…」の終盤では、空母赤城が敵の空爆を受けて炎上してしまいます。この時、赤城の飛行甲板が被弾する描写のキャメラアングルが、実は『太平洋の嵐』のミッドウェイ海戦シーンで空母飛龍の飛行甲板が被弾する描写のキャメラアングルとそっくりだったりします。そして『ストライクウィッチーズ』第1作の最終回「ストライクウィッチーズ」(副題が番組そのものと同じ)で赤城は沈没。『ストライクウィッチーズ』では赤城乗組員がどれほど戦死しているかは描かれていませんが、これに対して空母沈没の際の乗組員の死を痛切に描いたのが『太平洋の嵐』です。尤も、『太平洋の嵐』では赤城沈没シーンはチラッとしか描かれず、時間をかけて描かれたのは赤城の僚艦である空母飛龍の沈没シーンでしたが。

    『太平洋の嵐』のミッドウェイ海戦シーンで、空母飛龍は奮闘もむなしく、敵機の攻撃により航行不能に陥ってしまいます。そして遂に聯合艦隊司令部から飛龍の処分命令が下る。しかし炎上する飛龍の中には多くの乗組員が残っていました。それにも拘らず、無情にも駆逐艦による魚雷発射の時刻が到来してしまいます。魚雷発射を前に駆逐艦では喇叭が鳴らされます。画面は炎上する飛龍の内部に切り替わり、喇叭の音を背景にして飛龍乗組員達の姿が描かれます。この場面がとても悲しく、私は涙が止まりません。遂に魚雷は発射され、飛龍は沈没。沈没した飛龍の艦橋では、第2航空戦隊司令官と飛龍艦長の霊が、「これからも、こんな墓場が増えるんでしょうかなぁ」「もう増やしたくないがなぁ」と語り合うのでした。この場面に、戦争に対する作り手の悲しみが表れています。

    昭和36年には、第3次世界大戦を映像化して戦争の恐怖と平和を訴えた映画『世界大戦争』(本篇監督・松林宗惠、特技監督・圓谷英二、音楽・團伊玖磨)が公開。昭和38年には、松山の第三四三航空隊を主役に据えた映画『太平洋の翼』(本篇監督・松林宗惠、特技監督・圓谷英二、音楽・團伊玖磨)が公開されます。第三四三航空隊が使用した戦闘機こそ、『ストライクウィッチーズ2』で坂本少佐が使用している紫電改であります。この映画には戦艦大和も登場します。更に、『太平洋の翼』の登場人物は架空のものであるものの、実在した第三四三航空隊には、『ストライクウィッチーズ』二部作の主人公・宮藤芳佳(声・福圓美里)のモデルとなった人物や、坂本少佐のモデルとなった人物も在籍していました。『太平洋の翼』は、三船敏郎演じる千田中佐から見た若者達の奮戦を描いていますが、映画の後半、主要登場人物の若者達は全て戦死してしまい、年長者の千田中佐は生き残ります。そしてこの映画のラストは、千田中佐のナレーションによって締め括られます。
    「その後17年、日本の海と空は平和だ。尊い平和だ。(略)二度と若者にこのような苦しみを味わわせてはならない」

    戦後も生き延びた年長者・千田中佐の立場は、或る意味で圓谷と共通しているような印象を受けます。というのも、圓谷は戦意昂揚映画が若者の出征に繋がったことを心に病んでいたからです。『太平洋の翼』は、生き残った年長者が戦死した若者に送った鎮魂歌だったと言えます。

    ここで視点を変えて『太平洋の翼』を見てみましょう。圓谷英二は、少年時代以来生涯に亘って大空への思い入れを持ち続けました。『太平洋の翼』の空中戦シーンは、多数の戦闘機が入り乱れて画面狭しと飛び回るもので、圓谷の面目躍如たる出来栄えとなっています。この点において、『ストライクウィッチーズ』二部作は恰も圓谷の後継者であるかのようです。『ストライクウィッチーズ』第1作第1話「魔法少女」における空母艦載機が空母上空を飛び回る描写は、臨場感溢れる効果音、スピード感に満ちた動画、視聴者自身が空を翔け抜けているかのような錯覚を与えるキャメラワーク(圓谷英二も、昭和31年の映画『空の大怪獣ラドン』、昭和32年の映画『地球防衛軍』、昭和36年の映画『モスラ』等でこの手のキャメラワークを駆使していました)等によって優れた航空描写となっておりました。続く第1作第2話「私にできること」では、空母の飛行甲板から飛び立つ艦載機、迸る水柱、艦橋から指揮を下す艦長、主人公が艦内から水柱を見守る描写(昭和44年に公開され、圓谷英二が特技監督を務めた映画『日本海大海戦』にもそういう合成シーンが出てきますね)等、軍事描写が手に汗握るものでした。そして第1作最終回では炎上する空母赤城と、大空を飛び回って繰り広げられる航空戦が対比され、空間的広がりのある戦闘シーンとなりました。番組全体を通して見れば、臨場感溢れる効果音を伴って画面狭しと自由自在に大空を飛び回る航空機と、大海原を進む重厚で雄大な空母の対比が見事であり、無限に広がる蒼天を背景にして飛翔する少女達の姿には、勇気や希望が満ち溢れています。そして少女達の胸には、大空への憧れがあったように思えてなりません。『ストライクウィッチーズ』における大空の描写は、圓谷英二の大空への思い入れを受け継いでいるかのようです。

    最後に、私の思うところを述べて、本稿を終わりにしたいと思います。
    8月15日には多くの参拝者が靖国神社や千鳥ヶ淵戦没者墓苑に駆けつけ、行列をなしました。成美堂出版から平成18年に出版された『昭和史の地図』という本に「暑かった8月15日」というコラムがあるのですが、昭和20年の8月15日も猛暑、現在の8月15日も猛暑ということで、太平洋戦争を偲ぶには恰好の日にちと言えましょう。一方で、8月15日といえば同人誌即売会コミックマーケットの最終日でもあり、こちらでは多くのヲタクが行列をなしました。

    また、8月15日とは関係ありませんが、池袋のサンシャインシティは、第2次世界大戦後、いわゆるA級戦犯の死刑が執行された場所である巣鴨プリズンの跡地に建てられました。サンシャインシティの隣にある東池袋中央公園には「永久平和を願って」という石碑が建立されています。そして道路を挟んで石碑の向かい側にある場所こそ、乙女ロードであります。
    そして乙女ロードに位置している有名アニメグッズ専門店の本店の軒先にある自動販売機は、第2次世界大戦時の日独伊三国同盟をパロディ化した『ヘタリア』仕様になっており、この石碑の方面(厳密に真正面ではありませんが)を向いています。

    現代のヲタクが趣味を謳歌できるのも平和のおかげであり、私達は平和に感謝しなければならないと思います。
    それと共に、国家のために尽くした先人達のおかげで現代日本の平和と繁栄があるのであり、先人達への敬意を忘れてはならないと思います。8月15日にコミケの行列に並ぶ人や、日付に関わらず池袋の乙女ロードに行く人は、ちょっとぐらい平和や先人達に思いを馳せてもバチは当たらんのじゃなかろうか。

    ■ライター紹介
    【コートク】

    戦前の映画から現在のアニメまで喰いつく、映像雑食性の一般市民です。本連載の目的は、現在放送中の深夜アニメを中心に、当該番組の優れた点を見つけ出して顕彰しようというものです。読者の皆さんと一緒に、アニメ界を盛り上げる一助となっていきたいと考えています。宜しくお願いします。

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