木にとまるノコギリクワガタ。その見た目は、よく自然の中で見かけるノコギリクワガタそのままですが、こちらなんと木彫刻でできています。着彩は一切せず、自然の木のままの色で「背中の赤っぽいところや 口のオレンジ色も、別の種類の木を嵌め込んで再現しています」とのこと。
作者の福田亨さんは、さまざまな種類の天然木材を使って絵画や図柄などを表現する伝統装飾技法の「木象嵌(もくぞうがん)」を、立体彫刻へ応用した「立体木象嵌」を考案。3年半ほど前に、平面だった木象嵌の技法を彫刻として立体的にしてみようと思い立ち、自身が好きだった蝶を作ったのがきっかけだったとか。
ノコギリクワガタ捕まえた!
と見せかけて 木彫刻です。
着彩も一切無しで、自然の木のままの色です。
背中の赤っぽいところや 口のオレンジ色も、別の種類の木を嵌め込んで再現しています。#立体木象嵌 #木彫 #昆虫 pic.twitter.com/nBXQe0H9Z2— FUKUDA Toru 福田 亨 (@TF_crafts) June 3, 2019
触角の細部まで木で全て表現されていることに匠の技を感じつつも、折れないようにする工夫した点を聞いてみたところ、細い部分は折れにくいように木目の取り方に気をつけており、また、木には削る向きがあるそうで、その向きに逆らわないように目に沿って削っているとのこと。本物そっくりに見える一番のポイントになる羽のツヤについては、ニスは塗膜の厚みの関係で、木を感じられないツヤ感になってしまうため、使用していないそうです。
そして、作品作りに欠かせない木は、表現する昆虫によっても木の種類を変えているといいます。「150種類以上の木の中から、モチーフや作品のテーマなど色んな要素を踏まえて選びます。色味が似ていても風合いが違うものもあるので材種選択はじっくり考えます」と福田さん。季節によって湿度が変わる分、わずかに素材の木が収縮することもあるそうですが、質感はあまりかわらないとのこと。昆虫を表現する際に、特に生きている情景、雰囲気を作り上げる難しさや正確な形取りや動きを捉える難しさがあり「始めから完成までずっと難しい」と、木の質感を最大限生かしつつも、本物に近づける苦労が垣間見えました。
最後に、福田さんが昆虫に魅了され、作り続けている理由を聞いたところ「形が面白くバラエティ豊かな色彩で、生態も面白いです。身近な生き物なので観察しやすいモチーフだと思います。数あるモチーフの中でも実物をよく観察できるのはとても大きいと感じています」と語って下さいました。
<記事化協力>
福田 亨さん(@TF_crafts)
(黒田芽以)