おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

背水の陣からの復活劇 螺鈿職人がSNSで起こした伝統工芸の奇跡

 京都府京都市にある工房「嵯峩螺鈿・野村」にて、漆と貝を用いた伝統工芸品「螺鈿(らでん)」の職人として活動する野村拓也さん(以下、野村さん)。

 家族経営という工房では、3代目店主である父を先頭に、母、姉とともに働いています。また、野村さんは職人仕事と平行して、オンラインストアの運営管理に、体験教室の講師も担当。さらには自身のTwitterを通じて広報活動を行っていますが、そんなSNS運用のなかで得た「気づき」についての投稿が、今回大きな反響を呼んでいます。

  • 「これはガチなんですが、数年前までは20才前後の方がうちの商品買うなんてまぁなかったです。最近はお祝いとかプレゼントとかで店頭に来ていただいたり、オンラインストアで沢山の若い方に買って頂いているんですが、伝統工芸の世界で言うと控えめに言って奇跡なんです」

    そんなつぶやきとともに、「嵯峩螺鈿・野村」の商品「螺鈿イヤリング」を紹介した野村さん。購入者の年代の変化についての「気づき」ですが、その大きな要因となったのがTwitter。折しものコロナ禍を受け、2020年7月に開設されたものです。

    京都にある「嵯峨螺鈿」の螺鈿職人を担う投稿者。

     「元々、当店のお客様は、従来は年配層が中心でした。『螺鈿』は、正倉院展で一般公開される『宝物』が有名ということもあり、美術品に興味をお持ちの方が多いという背景もあります」

     「ただ、コロナ禍により、これまでのお客様が出歩けなくなってしまいました。そこで背水の陣の気持ちで始めたのがTwitterでした。運よくバズったり、日頃より応援していただいている方のおかげもあって、売上を戻すことができました」

     その中で、「20歳前後の方」といった「新規顧客」を、Twitterで開拓できたという野村さん。それは、自身が職人として関わる伝統工芸品に対しての、「考え方の変化」にも繋がったそう。

     「伝統工芸の商品は高価なものが多いので、『若い人には買ってもらえない』『古いものには興味を持ってもらえない』と、販売側が一方的に諦めていたことに気づきました。実際に発信してみると、『キレイ!』『お店で見てみたい!』『秒で注文しました!』など、若い方から嬉しいお声をいただいたんです」

     続けて、「最近も、『就職祝いで親に買ってもらいました』『今年頑張った自分へのご褒美で買いました』といった投稿もあって、今回ツイートしたんです」と語る野村さん。

    Twitterで紹介したのは「螺鈿イヤリング」というアクセサリー。

     確かにコロナ禍は、伝統工芸品を含めた多くの店を営む方を、現在進行形で苦しめています。しかし、そんな状況下においても、「嵯峩螺鈿・野村」のように、SNSというネットに活路を求めて、巻き返したという事例もまた存在します。

     野村さんも認めたように、そこには、開設直後にバズったという「運」という要素も含まれています。ただそれも、従来の価値観を一度かなぐり捨てて、Twitterという未知の世界へ飛び込んだ「行動の結果」。さらにいえば、実力がもともとあったからこそ起きた奇跡と言えるのではないでしょうか。運だけあっても実力がともなわなければ、奇跡がおきてもきっと逃していたことでしょう。もしかすると、奇跡が起きたことさえ気づかなかったかもしれません。

     余談ですが、本稿を執筆するにあたり、筆者は野村さんから、「嵯峩螺鈿・野村」で取り扱う様々な螺鈿商品の画像をご提供いただきました。

    装飾具や小物に加え、容器も販売されています。

    「嵯峨螺鈿・野村」では様々な螺鈿アイテムを取り扱い。

    Twitter開設直後に反響を集めたシルバーリング。

     そこには、螺鈿で作られた装飾具・小物・容器など、色鮮やかな商品の数々。紙面の都合上、泣く泣く掲載を断念したものもありますが、中には、カフスのような「男性向け」の商品の姿も。

    カフスといった「男性向け」も販売展開しています。

     実は「嵯峩螺鈿・野村」に対しては、「女性向け」という印象を抱いていた筆者。私もまた多くのTwitterユーザー同様に、「キレイ!」「お店で見てみたい!」という気持ちを抱くこととなりました。

    <記事化協力>
    野村拓也さん(@takuyanomurardn)
    嵯峩螺鈿・野村

    (向山純平)

    あわせて読みたい関連記事
  • 京都大作戦2025、痴漢対策で監視カメラ設置 警察への映像提供も視野
    エンタメ, 音楽・映像

    京都大作戦2025、痴漢対策で監視カメラ設置 警察への映像提供も視野

  • 「よしもと祇園花月」の閉館発表に悲しみの声 京都唯一のお笑い常設劇場
    エンタメ, 舞台

    「よしもと祇園花月」の閉館発表に悲しみの声 京都唯一のお笑い常設劇場

  • 西陣織とコラボした「薬屋のひとりごと」の長財布が発売!猫猫と壬氏をイメージしたデザイン
    アニメ/マンガ, 商品・グッズ

    西陣織とコラボした「薬屋のひとりごと」の長財布が発売!猫猫と壬氏をイメージしたデ…

  • マイサケ
    企業・サービス, 経済

    オリジナル日本酒がつくれる「My Sake World」京都に誕生、クラファンは…

  • 画像提供:宗教建築が好きなアライさんさん(@araisan_syukyo)
    インターネット, おもしろ

    おもちゃの飛行機が手水鉢でプカプカ 京都の飛行神社が話題に

  • 画像提供:京都 玉の湯公式X(@kyoto_tamanoyu)
    インターネット, おもしろ

    常連客に感謝!銭湯側が飛び跳ねて喜ぶ510円の支払い方

  • 「青のミブロ」キャラを探して京都を巡る!スギ薬局とのコラボバス停広告探訪記
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    「青のミブロ」キャラを探して京都を巡る!スギ薬局とのコラボバス停広告探訪記

  • 京言葉で“はんなり”追い詰める警察官……! 4コマ漫画「いけず警察24時」が話題
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    京言葉で“はんなり”追い詰める警官 4コマ漫画「いけず警察24時」

  • 画像提供:亀屋良長 吉村良和さん(@yoshimura0303)
    インターネット, おもしろ

    可愛さ爆発!ズラリと並んだキティちゃんのお干菓子がもったいなくて食べられない!

  • 「志を繋ぐ碑」の設置について
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    京都アニメーション、宇治市に「志を繋ぐ碑」を設置

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく
    社会, 経済

    雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

  • 声優とAIの共存を模索 81プロデュースとイレブンラボが業務提携、オリジナルの声を守り多言語展開へ
    アニメ/マンガ, 声優

    声優とAIの共存を模索 81プロデュースとイレブンラボが業務提携、オリジナルの声…

  • Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行
    インターネット, サービス・テクノロジー

    Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

  • 駅ホームでの“撮り・録り”が危険に? JR東日本が注意喚起ポスターと動画を展開
    社会, 経済

    駅ホームでの“撮り・録り”が危険に? JR東日本が注意喚起ポスターと動画を展開

  • イベント「清水 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎祭」(清水駅前銀座商店街)
    エンタメ, 映画

    仲村トオルが清水に凱旋 映画「ビー・バップ・ハイスクール」40周年イベント開催

  • アクリルロゴディスプレイSounds PlayStation
    ゲーム, ホビー・グッズ

    あの起動音が再び 「アクリルロゴディスプレイSounds PlayStation…

  • トピックス

    1. Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

      Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

      Googleは12月16日、個人情報がダークウェブ上に流出していないかを確認できる「ダークウェブ レ…
    2. Gmailを受診している画面

      Gmailの仕様変更でPOP受信が終了 自分は対象?POP利用チェック

      Gmailの仕様変更により、外部メールを取り込むPOP受信機能が2026年1月より利用できなくなりま…
    3. イベント「清水 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎祭」(清水駅前銀座商店街)

      仲村トオルが清水に凱旋 映画「ビー・バップ・ハイスクール」40周年イベント開催

      映画「ビー・バップ・ハイスクール」(1985年)の劇場公開40周年を記念したイベント「清水 ビー・バ…

    編集部おすすめ

    1. 雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

      雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

      国土交通省と気象庁は12月16日、雨や洪水などの危険を伝える「防災気象情報」について、2026年(令和8年)の大雨シーズンから新たな運用を始…
    2. コミケの名物現象がまさかのグッズ化 「食べられるコミケ雲(わたあめ)」爆誕

      コミケの名物現象がまさかのグッズ化 「食べられるコミケ雲(わたあめ)」爆誕

      夏コミ名物、会場の熱気と参加者の汗が昇華して天井付近に発生するという伝説の現象「コミケ雲」。まさかそれを口にできる日が来るとは、誰が想像した…
    3. Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      情報処理推進機構(IPA)は12月10日、多くのウェブサービスで使われている開発技術に重大な問題が見つかり、国内でも悪用したとみられる攻撃が…
    4. ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライブ配信アプリ「Pococha(ポコチャ)」で活動するライバーをサポートしている事務所4社が、所属ライバーの“退所後の活動”を不当にしばっ…
    5. パラマウントのプレスリリース

      まるで三角関係?Netflixと“婚約発表”したワーナーにパラマウントが求婚 関係を分かりやすく解説

      アメリカの映画製作・配給会社であるパラマウントが12月8日、同じくアメリカのメディア企業ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)を1株…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト