1980年代に放送されたアニメ「聖戦士ダンバイン」。ファンタジー色の強い「異世界もの」と「ロボットもの」を融合させた富野由悠季監督の意欲作で、生物的なフォルムを持つオーラバトラーは注目を集めました。

 その主人公ショウ・ザマがシリーズ前半で愛機としたオーラバトラー「ダンバイン」が羊毛フェルト作品になりました。オーラバトラーならぬ「ウールバトラー」の誕生です。

 羊毛ダンバインの作者は、羊毛フェルトでロボットやメカを作り続けるtakebonさん。Twitterでたまたまかっこいいダンバインの作品を目にしたことがきっかけで、羊毛フェルト化することを思い立ったといいます。

 海と陸の間にある異世界バイストン・ウェルで開発されたオーラバトラーは、昆虫をデザインモチーフとした人型の生体メカ。搭乗者のオーラ力(生体エネルギーの一種)を動力源として動き、その出力や性能はオーラ力の強さに依存します。

 直線や平面で構成されることの多い通常のロボットに対し、生体メカという設定から生物的曲面で各部がデザインされているオーラバトラー。「羊毛フェルトの質感ともマッチするのではないかと思い、作ることにしました」とtakebonさんは語っています。

ダンバインの全身(takebonさん提供)

 今回、ダンバインを作るにあたり、takebonさんはアニメの姿ではなく、イラストに描かれた姿をモチーフとしました。アニメより中間色やグラデーションが多用される表現は、羊毛フェルトでも難しいもの。

 羊毛フェルトの場合、形を作ってから彩色すると毛細管現象により滲んでしまい、うまくいきません。このため、事前に染色した羊毛を少しずつ混ぜて刺していくことになります。今回は10色ほどを用意。

 「グラデーション用の羊毛を刺す際は、針を深く刺すとそこに色が集中してグラデーションにならなくなるので、浅く薄く刺すように気をつけました」

 また、生体メカということもあり、装甲は生物的な曲線で構成され、関節など可動部は筋肉組織になっている、というのがオーラバトラーの特徴。これまで作ってきたメカに比べると、さまざまな違いがあったそうです。

 「ふくらはぎのふくらみやアキレス腱の筋、爪の付け根の色などは気をつけました。あとこだわった点としては、肩の付け根や股関節などの筋繊維の表現です。単色の羊毛では繊維感が出ないので、2色の羊毛でこよりを作り、それを短く切って刺していきました」

 筋繊維の立体感を出すため、単色ではなく2色使って陰影をつけ、さらに長さを整えて刺し込んでいく過程は、聞いているだけで大変だったことが想像できますね。爪の付け根部分にも、肉の存在を示すような差し色が刺し込まれています。

 オーラバトラーが飛翔する際に広げる羽根は、昆虫のように薄く透明なもの。羊毛を刺し固めて作る羊毛フェルトにとって、このような「透け感」を表現するのは難しいのですが、葉脈のようになった部分はしっかりと、そして膜状になった部分は軽く羊毛を絡ませることによって、光が透ける表現を実現しています。

羽の透け感もうまく表現されている(takebonさん提供)

 ソードを掲げたポーズも「聖戦士」らしくて素敵です。しかしこのポージングも、決定するまでは試行錯誤があったんだそう。重心位置の調整が大変だったようです。

 「背中に大きなオーラコンバータというパーツがあるのですが、これが重くて自立させるのが難しいんです。自立させつつ自然な姿で、かつカッコよく見せるポージングは最後まで苦労しました」

背部の大きなオーラコンバータ(takebonさん提供)

 これまでにない「透ける羽根」といった新しいチャレンジを含め、およそ4か月がかりで完成したダンバイン。見れば見るほど、細かい部分まで神経の行き届いた仕上がりに驚かされますね。

 「羊毛フェルトはリアルな動物やポケモンなど可愛いキャラを作る方が多いなか、ロボットを作る人は少ないです。なので、まだ誰も羊毛フェルトで作っていないメカを作りたいと思っています」と語るtakebonさん。次回作が何になるのか、楽しみです。

<記事化協力>
takebonさん(@takebon11)

(咲村珠樹)