おたくま経済新聞

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フォロワー1万人超の“焼き芋アカ”が美容アカに SNSで繰り返される「アカウントロンダリング」の構造

 SNS上には今日も、「○○が当たる!」といったプレゼント告知があふれています。いまや日常の景色と言ってもいいでしょう。

 ところが、その裏ではアカウント名や属性を次々と変えて、違う顔で活動を続ける──いわば「アカウントロンダリング」と呼べる動きが密かに進んでいます。

  •  おたくま経済新聞は今年5月、「さつまいも1年分プレゼント」でフォロワーを集めていた「とろ蜜物語」を名乗るアカウントを調査し、当選者が確認できないことに加え、案内とは異なる産地のさつまいもを扱う販売ページへ誘導していた点など、不自然な運用実態を報じました。

     その後もときどき経緯を追っていたところ、この「とろ蜜物語」から派生した複数のアカウントが、説明のないまま全く別の“キャラクター”へと姿を変えていることが判明。

     SNSでは時に、フォロワー数の多い「謎の個人アカウント」が突然現れることがあります。その背景には、今回の事例のような動きが潜んでいるのかもしれません。編集部が追い続けてきたアカウントの変貌ぶりを、ここでお伝えします。

    ■ ケース1:広報アカウントが突然「美容オタク」に

     まず注目したいのが、2025年1月頃には「【公式】とろ蜜物語 広報部」を名乗っていたXアカウント(@sweetpotato_off)の現在です。

    「とろ蜜物語 広報部」を名乗っていたXアカウント(@sweetpotato_off)

     調査当時は、焼き芋専門店の広報を名乗り、「さつまいも1年分プレゼント」などの企画を連発していたこのアカウント。ところが現在は名前を「あや」に改め、「美容オタク/ダイエット」を自称する個人アカウントに変貌しています。

    名前を「あや」に改め、「美容オタク/ダイエット」を自称する個人アカウントに変貌

     投稿内容も、さつまいもとは無関係な美容グッズやダイエット器具の紹介が中心で、リンク先にはアフィリエイトタグ付きのURLが並びます。

     一見すると“ただの美容アカウント”にしか見えませんが、スクリーンネーム(@sweetpotato_off)は広報部当時のものをそのまま使用。つまり、フォロワー約1.9万人を引き継いだまま別ジャンルにジョブチェンジしている形です。

     なお、このアカウントは、さらにさかのぼると2024年12月頃には「AYRAN」(@AYRAN_off)というパソコン専門店を名乗り、スマホなどのプレゼント企画を行っていたことも確認しています。

     パソコン専門店→焼き芋広報→美容インフルエンサーと、短期間で“転職”を繰り返していることになります。

    ■ ケース2:第二の広報アカウントは「愛用品紹介アカ」に

     同様の変化は、もう一つの広報アカウントでも起きていました。

     「【広報部】とろ蜜物語 焼き芋専門店公式」を名乗っていたアカウント(@elunylad1976)です。こちらも2025年2月頃には公式アカウント(@healing_every)と連携しながら、やはり「さつまいも1年分」などのキャンペーンをポストしていました。

    【広報部】とろ蜜物語 焼き芋専門店公式を引用したポスト

     ところが現在、このアカウントの名前は「にこ」に変わり、プロフィールには「愛用品&便利グッズ紹介してるよ」との一文。投稿内容も、日用品や家電などの“オススメ商品”が中心で、やはりアフィリエイトリンクが目立ちます。

    アカウントの名前は「にこ」に

     ここでもスクリーンネームは当時のまま。フォロワー約7700人を抱えた広報用アカウントが、説明なく個人の“紹介アカ”へ衣替えしているわけです。

     企業アカウントが事業再編などで名称を変えること自体は珍しくありませんが、通常は「〇月〇日よりアカウント名を変更しました」「運営主体が変わります」といった告知がなされます。しかし「あや」「にこ」いずれのアカウントにも、そうした説明は一切ありませんでした。

    ■ 大本の「とろ蜜公式」はそのまま継続中

     一方、大本である「とろ蜜物語 焼き芋専門店公式」(@healing_every)は、名称を変えずに活動を継続しています。フォロワーは約3.7万人。以前ほど頻繁ではないものの、現在も「さつまいもプレゼント企画」と称する投稿で拡散を促し、フォロワーを増やしているようです。

     ちなみに、編集部がこれまでに確認した限り、「当選しました」という報告は見つかっていません。並行して行われていた「ハズレなしデジタルギフトキャンペーン」では、「1円あたりました」という投稿は複数確認できましたが、「さつまいも1年分」といった大型企画に関しては、該当する投稿はどう探しても見つかりません。月2~3回のペースでキャンペーンを繰り返していたことを考えると、通常であれば少なくとも数件は当選報告が出てくるはずです。その点はやはり不可解です。

    大本である「とろ蜜物語 焼き芋専門店公式」(@healing_every)は、名称を変えずに活動を継続

     加えて、過去の記事で指摘した疑問点も解消されていません。もとは「癒しアニマル」という動物画像の無断転載アカウントだった形跡があること。プロフィールなどでは「南九州産」と記し販売ページに誘導していたのに、編集部で購入し確認したところ扱われていたのは千葉・茨城県産だったこと。さらに、直販の通販ページがわずかな期間で「りんご専門店」へ姿を変えていたこと。こうした点はいずれも、運営実態の見えにくさをより際立たせています。

     当時誘導されていたLINEアカウントは2つ存在しました。1つは現在も残っていますが、もう1つは一定期間後、「お小遣い稼ぎ」を名乗るアカウントやグループを紹介する方向へと転じ、その後削除されています。

     あわせて誘導先のグループも観察しましたが、投稿や活動は確認できず、現在も空の状態で残っています。一方、「お小遣い稼ぎ」を宣伝していたアカウントは消えずに残存しているものの、表示されている所属国は「タイ」になっています。

    ■ 違和感しかない一連の変更は「アカウントロンダリング」か

     さて、今回のアカウント群の一連の変化を整理すると、以下のような流れが見えてきます。

    1.動物画像やプレゼント企画などでフォロワーを集める

    2.アカウント名を変え、「焼き芋専門店」などの企業風アカウントに“なりすまし”

    3.フォロー&RTキャンペーンでフォロワーをさらに増加

    4.一定の規模になったところで、今度は「美容アカ」「OLの愛用品紹介アカ」など、別ジャンルのアカウントへと変更

    5.既に集めたフォロワー基盤を使って、アフィリエイトリンクなどで収益化を狙う

     このように、アカウントの過去をなかったことにして、フォロワーだけを引き継いで別の顔で活動する手口は、まさに「アカウントロンダリング」と言うべき現象。

     もちろん、アカウントが何らかの事情で第三者に渡った結果、現在の運営者が全く別人になっている可能性も否定はできません。しかし、スクリーンネームが変わっていないこと、同じようなアフィリエイト投稿に切り替わっていることなどから、同一グループによる計画的な運用である可能性が考えられます。

     そもそも論、Xの利用規約では、ユーザーがサービスを利用するための権利は「譲渡不能の個人ライセンス」と規定されており、X社の書面による同意なく、他者に譲渡・販売・貸与・共有することは禁止されています。また、本来は「とろ蜜物語」という企業風なアカウントで運用していたことから、もし同一運用者であったとしても、変えるときには表向きに一言断りを入れるのが正しい運用です。

     ……いずれにせよ、フォロワーから見れば「いつの間にか別人になっていたアカウント」であることに変わりはありません。

    ■ ウソのプレゼント企画に応募することの危険性

     では、こうしたアカウントの動きが、一般ユーザーにとってどんな問題をはらんでいるのでしょうか。

     それは「実態の分からない業者にフォロワー数や拡散力を提供してしまう」「誘導された先で、品質に問題のある商品を購入してしまう恐れがある」「アカウントの過去投稿との整合性が取れていないため、トラブルが起きても責任の所在が見えにくい」といった点が挙げられます。

     とりわけ食品の場合、「産地表示」や「保管状態」は安全性に直結します。前回記事でも取り上げたように、案内していた産地と実際取り扱っていた商品の産地が一致していなかったり、品質管理に疑問の残る商品が届いたりするケースも確認しています。

     「フォロー&RTで○○が当たる!」という甘い言葉の裏側で、誰が何のためにアカウントを運用しているのか。そこを見極めないままRTしてしまうことは、こうしたビジネスモデルを支える一助になってしまうのです。

    ■ ポイントを押さえて自衛を

     今回の事例を踏まえ、筆者は以下のポイントを意識したセルフ防衛をおすすめします。

    ・「企業名」もしくは「企業名+公式」で検索し、公式サイトや他公式SNSとアカウントから誘導導線があるか確認する

    ・過去の投稿を遡り、急に業種やキャラクターが変わっていないかチェックする

    ・「○○1年分」「全員にプレゼント」など、過度にお得すぎる企画には一歩引いて見る

    ・プロフィールや投稿で、運営元の所在地や会社名が一切分からないアカウントは特に警戒する

     特に今回のように、企業を名乗っていたアカウントが説明なく個人アカウントへ変身している場合、その時点で信頼性は大きく損なわれていると考えてよいでしょう。

    ■ おいしい話ほど、まずは一呼吸置いて

     アカウント名や取り扱うジャンルの変更は、SNS運営側も柔軟な運用として一定の許容範囲に置いています。しかし、企業を思わせる外見でフォロワーを集め、その信頼基盤を無告知のまま別目的へ転用する手法は、規約やガイドラインの想定外を突く運用です。本来なら透明性が求められる領域で、説明がないまま役割を変える点にこそ問題が残ります。

     ユーザー側が慎重になると同時に、プラットフォーム運営側にも、企業・キャンペーン系アカウントの認証方法や過去の運用履歴の可視化、アカウント売買や成り済まし行為への対策といった観点から、より透明性の高い仕組みづくりが求められているのではないでしょうか。

     もちろんSNS上には、真面目にキャンペーンを行う企業アカウントが多数存在します。一方で、その成功例に便乗しようとする正体不明のアカウントも少なくありません。

     「さつまいも1年分」「りんご1年分」「最新スマホが当たる」……。おいしい話ほど、まずは一呼吸置いて「誰が何のためにやっているのか?」を確認するクセをつけておきたいところです。

    参考記事:「さつまいも1年分、応募の先にあったもの 正体不明のSNSアカウントを追った101日間

    ※画像のぼかし処理について:「とろ蜜物語」などで使用されていた画像の多くは、クリエイターズマーケット等で取り扱われている素材でした。そのため、各クリエイターの権利に配慮し、画像にぼかし処理を施しています。

    (取材・執筆:山口弘剛/編集:宮崎美和子)

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  • 山口 弘剛‌Writer

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    鹿児島出身・鹿児島在住。私生活では妻と共に2人の子どもを子育てしながら、地元のサッカークラブを熱烈応援中。仕事は元アパレル店長、元ゲームショップ店長を経験。現在はライター、イラストレーターとして活動。

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