艦船模型の楽しみはいろいろありますが、この世に存在しないオリジナルの艦船を作る「架空艦」というジャンルは、モデラーの発想力によって生み出される様々なフネが魅力です。

 洋上に浮かぶ自動車教習所、その名も「教習揚陸艦」や、古代の出雲大社をモチーフにした「城郭艦いづも」など、シャレの効いた架空艦がTwitterで話題を集めています。作者の「ぱぷー」さんに話をうかがいました。

 ぱぷーさんは高校時代から数十年のキャリアを持つ、経験豊富な艦船モデラー。初期の頃から設計図通りに組み立てるのが性に合わず、イマジネーションによる「架空艦」を作っていたそうです。

 架空艦の中でも、最近の柱となっているのが「城郭戦艦」シリーズ。戦国時代の文化や感性のまま歴史が進み、戦艦を文字通り「くろがねの城」として作っていたらどうなるだろう……という、一種のパラレルワールド的設定で作られる艦船模型です。

 ぱぷーさんの城郭戦艦はモデラー間でも話題となり、2013年にはモデラーグループの「岡山未完成チーム」に集う有志で「全国城郭戦艦研究会」が発足しました。現在は開店休業中とのことですが、未完成チーム展示会や静岡のモデラーズ合同展示会を中心に10名ほどで活動していたといいます。

 なお、メンバーはいつでも募集している、とも話してくれました。過去に「全国城郭戦艦研究会」が参加した展示会の様子は、「城郭戦艦」「静岡モデラーズ展示会」「未完成チーム展示会」などのキーワードでで検索できるそうですので、興味を抱いた方はご覧になってみるといいかもしれません。

■ フルスクラッチの「教習揚陸艦」ができるまで

 2005年ごろから作り始めたという「城郭戦艦」は、これまでに17隻が完成。そのほか、今回Twitterで話題となった「教習揚陸艦」のような発想で作られた作品が7隻あるとのこと。まずは教習揚陸艦がどのように作られたのか、うかがいました。

 「まず教習コースの選定から入りました。いくつかの教習所のコース図を入手し、細長い形に収まりそうなものを選定、できるだけコースが破綻しないように配置を考えました」

 元ネタが強襲揚陸艦なので、滑走路となる直線コースと艦首の坂道発進用スキージャンプ勾配は、配置する場所が最初から決まっていたとのこと。実際の教習所に見えるよう、S字やクランクといったそのほかの要素をどこに配置するか、調整に苦心したそうです。

 船体の形状や大きさは、作成した教習コースをもとに設計し、3Dモデリングしたのちに3Dプリンタで出力。出力したままの状態では、どこかの国の強襲揚陸艦にありそうな形にまとまっています。

3Dプリンタで出力した船体(ぱぷーさん提供)

 出力した船体に、教習コースを作っていきます。まずは全体を水性塗料で塗装し、教習コースの路面はひと手間加え、舗装面のムラを出すため筆塗りしているのだとか。

教習コースを作っていく(ぱぷーさん提供)

 コース外の芝生は、鉄道模型レイアウト(ジオラマ)を作る際に使われるシーナリーパウダーによるもの。各種の標識は厚紙を切り出し、細いポールなどは洋白(金属)線をカットしてマーカー塗装されています。

ディティールを詰めていく(ぱぷーさん提供)

 船体作りに約2か月、小物に1か月を費やし、およそ3か月がかりで完成した「教習揚陸艦」。艦橋構造物前に駐車スペースがあるので、ここが校舎のような存在になっているんですね。

完成した教習揚陸艦(ぱぷーさん提供)

■ 護衛艦いずもと出雲大社をコラボメイク「城郭艦いづも」

 もう一つの作品「城郭艦いづも」は、文字通り海上自衛隊の護衛艦「いずも」と、艦内に祀られている出雲大社にちなみ、古代の出雲大社を艦橋構造物にしたらどうなるか、という作品。護衛艦いずもが完成した時から温めていた、コラボメイク作品なんだそうです。

城郭艦いづも(ぱぷーさん提供)

 初期の頃には、実際の神社のように甲板全体を森にしてしまうというアイデアもあったそうなのですが、あえてシンプルな本殿だけという姿に。「なにしろ簡単ですし、この方が『目立つ』と思ったからです」とぱぷーさんは語ってくれました。

組み上げた本殿(ぱぷーさん提供)

巨大な階段(ぱぷーさん提供)

 こちらは護衛艦いずもの船体に、古代の出雲大社にあったという、巨大な高さの本殿を艦橋構造物の代わりに作っていきます。3Dプリンタで各パーツを出力し、組み立てていくのですが、改めて本殿へ続く階段の巨大さに目を奪われます。

飛行甲板に設置したところ(ぱぷーさん提供)

 飛行甲板に本殿を取り付けた様子を見ると、本当に高いところに位置することが分かります。実際の船として実現したとしたら、艦橋では航行中、大きな揺れに見舞われそうです。

■ 「艦船模型になじみのない方でも楽しんでもらえるように」

 この「教習揚陸艦」と「城郭艦いづも」は、10月29日・30日に大阪ATCで開催された、艦船模型のみとしては日本最大級の「第11回艦船模型合同展示会」で展示されました。会場での反響はもちろん、来場した方が作品をツイートしたことで、大きな反響を呼んでいます。

 ぱぷーさんによると、以前静岡ホビーショーで併催された「モデラーズ合同展示会」に、城郭砲艦「射尽シ魔」、城郭戦艦「あづち」に「めざし(船を並列に係留することを俗称で「メザシ」というのをネタにしたメザシ型の潜水艦模型))」を出展した際も来場者、特に外国人から大ウケだったとのこと。

 ご本人としては、このような作風の作品が家族連れなど、艦船模型になじみのない方でも楽しんでもらえるように、という気持ちで出品しているのだそう。その上で、次のように語ってくれました。

 「今回も軍用艦や細密・超絶作品の多い中、一服の清涼剤、箸休め的な『笑っても良いコーナー』づくりを目指しました。さすがにここまで反響があるとは思っていませんでしたが、今のご時世、たまには力を抜いて楽しんでいただけたらと思います」

 SNSでは誹謗中傷や炎上など、気持ちが暗くなるような投稿も見かけますが、ぱぷーさんの架空艦たちは、そんな気分を和らげてくれるような働きがありそう。模型が持つ自由さを感じさせてくれますね。

 今回ご紹介した「教習揚陸艦」と「城郭艦いづも」は、岡山市にあるオルガビル4階で2022年11月12日・13日に開催される、岡山未完成チーム主催の「第41回未完成チーム模型展示会2022」でもゲスト展示されるとのことです。

<記事化協力>
ぱぷーさん(@papu_pecline)

(咲村珠樹)