コミケをはじめとする同人誌即売会でのサークル参加。隣同士になったサークルさんと交流を深めたり、スペースを訪ねてきてくれた人と会話したりといった楽しみがありますが、困った人と遭遇する場合も。勝手に新刊を押し付け、こちらの新刊との交換を要求するという仰天の人物エピソードを漫画家がTwitterに発表しました。

 この体験談漫画をTwitterに投稿したのは、漫画家のぬこー様さん。これは決して1度だけの体験ではなく、しばしば遭遇する機会があったため、総称して「コミケ名物『強制新刊交換くん』」と表現しています。

 漫画の冒頭では、初心者の頃に色々なことを手取り足取り教えてくれた「パコおじ」さんが説く、相手の迷惑にならないスマートな交流の仕方が紹介されます。初対面であれば、まずほかの参加者と同じように待機列に並び順番を待ちましょう。

オフパコおじさんが説くスマートな交流の仕方(ぬこー様さん提供)

 順番が来たら、先に新刊を購入し、お金と本とを受け渡すついでに、用意しておいた自分の新刊と名刺を渡して一言だけご挨拶。あちらが遠慮して(頒布した新刊の)お金を返そうとしても断り、話したい気持ちを抑えてクールに立ち去ること、としています。もっと話したかった場合は、後日SNSでお礼のDMを送ればいいというマナーです。

 10年が過ぎ、パコおじさんの教えを守っていたからか、色々な人とのつながりができ、今も活動ができている……とスペース内で感慨にひたっていると、突然背後から話しかけられます。「すみません。ぬこー様ちゃんですよね?」

10年後に見知らぬ人からスペース内で声をかけられる(ぬこー様さん提供)

 振り向けば見知らぬ顔。相手は「あなたのフォロワーの〇〇〇と申します」と名乗りますが、やはり誰だか分かりません。おそらく初対面だと思うのですが、いきなり「これよかったら。うちの新刊セットです」と同人誌をプレゼントされました。

 それで終わりかと思いきや、あいてはこちらを物欲しそうに見つめ「あの……交換……」との言葉。どうやら先方は、初めからぬこ様さんの新刊目当てで勝手にスペース内に入り込み、交換を持ちかけてきたようです。そもそも、許可なくサークルのスペース内に立ち入るのは重大なマナー違反。

さも当然とばかりに交換を要求される(ぬこー様さん提供)

 今回だけは……と思いつつ、応じてやろうとすると、今度は「うちの新刊のほうが500円高いんで差額分もらっていいですか?」。さすがにこのセリフで、ぬこー様さんもキレてしまいました。とはいっても殴り倒す訳にはいかず、怒りを抑えて「このクソ野郎!」と心の中で中指を立てるのでした。

さらには差額まで要求(ぬこー様さん提供)

心の中で中指を立てる(ぬこー様さん提供)

 ぬこー様さんにうかがうと、こういった手合いは多いようで「差額要求するレベルはさすがにそんなに多くないですが、初対面で新刊交換をお願いしてくる人は多いです。僕はもう応じてないので減ってきましたが押しに弱い作家さんは今も応じてるんじゃないでしょうか」とのこと。

 どうやら名の知られている作家さんをターゲットに、このような「新刊の交換」を持ちかける連中が少なくないようです。「同じサークル参加者のよしみで」という感じを出しながら、図々しく乗り込んでくる手口ですね。

 さらにうかがうと、中には「僕は被害受けてないですが、そもそも知り合いでもないサークルに本を渡してお金を請求してる中年女性がいました。交換ですらないです。運営さんが何度か注意してやっとやめたと聞きました」というケースも。もはや押し売りで、何のためにしているのか意図が分からなくなりますね。

 これに対し、漫画の冒頭で示された交流のマナーは、とてもスマートで相手に迷惑がかからない方法。パコおじさんについて、ぬこー様さんは次のように語ってくれました。

 「漫画には描いてないんですが、けっこう細かいところまで指導してもらいました。長く活動することがファンにとって1番うれしいこと、そのためには経営的な目線を持つことが大事などなど。とにかくファンを大事にする人でした」

 ぬこー様さんは「お互い気持ちよく交流できるよう配慮してほしいです」と話します。相手の事情を考えない一方通行な思いは、やはり誰かを不快にさせてしまうもの。おそらく「強制新刊交換くん」の耳には届かないのかもしれませんが、次のような心情も吐露してくれました。

 「やはりいきなり初対面の人に交換要求されるともやっとしますし、何よりお金を払って買ってくださってる一般参加者の方に申し訳ない気持ちになります」

 筆者も長年コミケにサークル参加しているのですが、隣同士になったサークルさんや、お友達から「新刊の差し入れ」をいただくことは普通にあること。しかしそれは極力手隙の時間を見計らい、ほかの一般参加者の目につかないよう、手早くさりげなく行われることがほとんどです。

 というのも、応対で忙しい時に会話で時間を占有するのは「ほかの人と交流する時間」を奪うことですし、なによりスペース前に居続けるのは邪魔になるから。親しいのであれば、逆にほかの機会で話すことができるのですから、コミケなど即売会では「その時でしか会えない人」との時間を優先させたいものです。

 もうすぐ冬の「コミックマーケット101」が、東京ビッグサイトで開催されます。今回もまた一般参加は事前チケット購入制となりますが、ほかの誰かの貴重な機会を奪うことのないよう、節度ある交流を楽しみたいですね。

<記事化協力>
ぬこー様さん(@nukosama)

(咲村珠樹)