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いらすとや使用例マニアが「いらすとやマップ」を作成 1400件調査して見えてきた注目傾向

 イラストレーターのみふねたかし氏が手掛け、クセのないやわらかなタッチとシチュエーションの豊富さでフリー素材の代名詞的な存在となっている「いらすとや」。

 街中の看板やポスターなどさまざまな場面で使用され、もはや目に入らない日はないほどの勢いですが、そんな「いらすとや」の使用事例を調査しているマニアがいます。

  • ■ 「いらすとや」が街に浸透していく様子を見つめたい

     「いらすとや使用例マニア」として活躍する三浦靖雄さんは、会社員として働くかたわら、街中で使われている「いらすとや」の使用例を調査。発見した使用例とその場所をGoogleマップに紐づけ、「いらすとやマップ」として公開しています。

    街中の「いらすとや」使用例マニア、三浦靖雄さん

     三浦さんが「いらすとやマップ」を作り始めたきっかけは、それまでネット内での使用が主だった「いらすとや」の絵が、ある頃から現実世界でも見かけるようになった気づきだったそうです。

     「スマホが普及していったときのような、世界の大きな変わり目に直面しているんじゃないか」と考え、「いらすとや」の使用例から「浸透の様子を見つめたい」と、このユニークな使用例収集が始まったそうです。

    「いらすとやマップ」

     これまでに見つけた使用例は、なんと1400件以上。空いた時間や休みの日を使って探しているといいますが、それにしてもものすごい量です。いったいどうやって……。

     「当初はたまたま出かけた街や旅行先で探していたのですが、趣味として楽しむにはそれだけでは観測例が全然足りないなと。なので今は休日に『今日はいらすとやを探す日』と決め、知らない街へ出かけてしらみ潰しに歩いて探しています」(三浦さん)

     探し方のコツは、まず「街の不動産屋」に行くことだといいます。不動産屋の店頭では、高い確率で使用されており、必ずチェックする場所なのだそう。そして複数のエリアが道で結ばれているような中規模公園もチェックするポイント。8割を超える確率で見つけることができるといい、市街地から少し離れていても必ず探しに行くそうです。

    ■ 街中の「いらすとや」使用例、もっとも多かったのは……

     三浦さんいわく、これまで調査してきた中でもっとも多かった使用例は「監視カメラや防犯カメラ」のイラストで、1400例中28例。ちなみに2位の「灰色の鳩」は8例と少数だといい、突出したニーズの高さが浮き彫りとなっています。

    「防犯カメラ」を示す看板に使われる「いらすとや」の素材(提供:三浦靖雄さん)

     「『防犯カメラ設置中』という文言とともにイラストが添えられていることが多いですね。ここに防犯カメラがあるぞ、ということを伝えて抑止力にするには、文字だけよりもイラスト付きのほうが目に留まりやすいということなのでしょう」(三浦さん)

     そして、2位の「灰色の鳩」は、「鳩に餌をあげないで」というお願いの看板に使われており、駅前に多いとのこと。8個で多いと言ってよいのかどうか、というところは疑問も残りますが、三浦さんはその背景にある大事なポイントを指摘します。

     「『いらすとや』には2万5000個以上の素材があるので、同じ素材を街で2回以上見かけることそのものがレアなんです。そう考えると、8個も見かけるってすごくないですか? さらに『監視カメラ』は28例ですから、その数字の異例さがわかると思います」(三浦さん)

    ■ マニアが思わず唸った「いらすとや」使用例3選

     そんな街中の「いらすとや」使用例。三浦さんが特に印象に残ったものを教えてもらうと、その深い魅力の片鱗が浮かび上がってきました。

    ―― 文字を使わず、「いらすとや」だけでメッセージを伝える

    文字を使わず、「いらすとや」の素材だけでメッセージを伝える看板(提供:三浦靖雄さん)

     「利用者へのお願いや案内など、何か伝えたいメッセージがある時に文字に添えられて使用されることが多い『いらすとや』ですが、東京都調布市の公園で見かけたケースでは、文字を一切使わず、イラスト素材だけでメッセージを伝えています。『いらすとや』の柔らかさと分かりやすさに全幅の信頼を寄せている、非常にレベルの高い使用例ですね」(三浦さん)

    ―― 伝えたいメッセージに合わせて、「いらすとや」の素材をリミックス

    「いらすとや」の素材をトリミングし、他の素材とかけあわせてメッセージを伝える看板(提供:三浦靖雄さん)

     「『いらすとや』では、元の素材の雰囲気を壊さない範囲で加工することが認められているので、伝えたいメッセージに応じて“リミックス”するケースもあります。東京都江東区の海浜公園で見つけたこちらの例では、『耳掃除を嫌がる子供』の素材から綿棒をトリミングすることで『バイクの騒音に耳をふさぐ少年』の姿を作り出しています。街中の“いらすとやクリエイター”の仕事が光る例ですね」(三浦さん)

    いらすとや「耳掃除を嫌がる子供のイラスト」

    ―― マニアックすぎる素材がニーズにぴったりハマった事例

    マニアックないらすとや素材「オポッサムの家族のイラスト」が使われた商店の値札(提供:三浦靖雄さん)

     「『いらすとや』の特徴であり、愛される理由のひとつに『いや、絶対に需要ないだろ!』『いつ使うんだよ!』と突っ込みたくなる“謎素材”の存在があると思いますが、東京都荒川区日暮里で見かけたケースでは、皮材料専門店の軒先に使われていました。ネタでしかないと思われていた素材も、実は誰かのほんのわずかな需要をこぼすことなくすくい上げていることに気づいて、あらゆるニーズに応える『いらすとや』の真髄を見ました」(三浦さん)

    ■ 「いらすとや」の使用例から、「大きな時代の流れ」を直接観察できる

     三浦さんが収集する「いらすとや」の使用例からは、人々のさまざまな生活、そしてその中で生じる「やわらかく伝える」ことへのニーズの高さが見て取れました。あらためて三浦さんに、この活動への思いをたずねました。

    ニコニコ超会議2024「マニアフェスタ」ブースで「いらすとや」使用例を解説する三浦さん(写真左)

     「現在、世界は『いらすとや』が普及していく非常に大きな時代の流れに直面しています。この時代に生まれた我々は、その過程を直に観測することができてとても幸せなんです。恐竜の研究者はどんなに恐竜を愛していても一生、恐竜をその目で見ることはできない運命ですが、我々は違います。自分の目で観察することができるのです!この大きな時代のうねりを共に観察しましょう!」(三浦さん)

     歴史学者のような壮大なコメント……!でも確かに「いらすとや」の使用例は、現代を生きる私たちの生活を映し出す鏡のような存在なのかもしれませんね。

    三浦さんが制作した「いらすとや」使用例をまとめた冊子

     三浦さんの調査結果は、冒頭で紹介した「いらすとやマッピング」のほかに、三浦さんが自らまとめた冊子でも見ることができます。主にイベントの場で配布を行っており、直近での配布予定はないとのことですが、「送料を負担すればお送りすることは可能です」とのことなので、興味のある方は三浦さんのXアカウント(@torinikukaraage)まで問い合わせてみてください。

    <記事化協力>
    三浦靖雄さんXアカウント(@torinikukaraage
    かわいいフリー素材集 いらすとや

    <参考>
    いらすとやマップ

    (天谷窓大)

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  • 天谷窓大フリーライター

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    得意分野はエンタメ、メディア、フード業界。「焼き芋アンバサダー」としてフードフェスのプロデュースも手掛けるほか、熱波師、フリー素材モデルとしても活動。X @amayan

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