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チオキサントン類を短工程で合成できる新たな手法を開発 ~アライン中間体がチオカルボニル基に2度挿入される特異な反応~

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東京理科大学


【研究の要旨とポイント】


アライン中間体とチオ尿素の反応によって、チオキサントンを簡便に合成できる新たな手法を開発しました。

反応機構の詳細解明にも成功し、チオカルボニル基に2分子のアライン中間体が挿入される特異な反応機構を経て合成されることを明らかにしました。

本研究をさらに発展させることで、さまざまなチオキサントン類およびその誘導体を合成できるようになるため、創薬科学、材料化学など、広範な分野での応用が期待されます。

【研究の概要】
東京理科大学 先進工学部 生命システム工学科の吉田 優准教授、同大学大学院 先進工学研究科 生命システム工学専攻の川田 真由氏(2024年度 修士課程2年)、田端 慎也氏(2023年度 修士課程修了)、星 幸崇氏(2024年度 修士課程1年)の研究グループは、2分子のアライン中間体(ベンゼン環の一部が三重結合となった短寿命化学種)とチオ尿素との反応によって、チオキサントン類を簡便に合成できる手法を開発しました。

チオキサントンは有機硫黄化合物の一種で、紫外線硬化剤や有機半導体などさまざまな分野で利用されています。その有用性から、これまでに多くの合成法が報告されていますが、官能基を有するチオキサントン類やπ共役系を拡張した誘導体の合成は依然として困難でした。そこで、本研究グループは、アライン中間体の反応を利用する新たな合成法を提案し、その方法を検討しました。

本研究では、炭酸セシウムと18-クラウン-6の存在下で、o-シリルアリールトリフラートから生成したアライン中間体をチオ尿素と反応させた後、加水分解することで、目的のチオキサントンが得られることを明らかにしました。また、官能基を有するo-シリルアリールトリフラートを出発物質として用いると、それらの官能基を有するチオキサントン誘導体が得られることも確認しました。本研究成果をさらに発展させることにより、多様な官能基、機能を有する有機硫黄化合物を容易に得られるようになり、有機化学、創薬、材料化学など、さまざまな分野への応用が期待されます。

本研究成果は、2025年1月9日に国際学術誌「Organic Letters」にオンライン掲載されました。
[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/102047/143/102047-143-c799af4c5b5f1c06bb65014b4ac2ec9b-2079x550.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


【研究の背景】
チオキサントン類は、2つのベンゼン環を硫黄原子とカルボニル基でつなげた構造を持ち、医薬品、有機材料、光触媒などに応用されています。チオキサントンが持つ重要性から、新規合成法の開発に向けた研究が進められてきましたが、π拡張誘導体のような高度に官能基化されたチオキサントンの合成は依然として困難とされています。

これまで、本研究グループは、高機能有機硫黄化合物の合成を目的として、アライン中間体を利用したさまざまな反応を研究し、優れた成果を収めてきました(※1)。今回、2分子のアラインとチオ尿素との反応によって、チオキサントン類を短工程で合成する方法を考案しました。

※1: 東京理科大学プレスリリース(2024年5月23日)
『高機能有機硫黄化合物の合成に有用なo-ブロモベンゼンチオール等価体の新合成法を開発 ~炭素-硫黄結合、炭素-臭素結合を一度に形成する効率的な合成法~』

【研究結果の詳細】
- チオキサントン類の合成

合成に使用するチオカルボニル化合物のスクリーニングを行いました。その結果、炭酸セシウム、18-クラウン-6存在下で、o-シリルアリールトリフラートとチオ尿素と反応させることで、目的のチオキサントンが合成できることを見出しました。チオキサントンの生成時には、o-シリルアリールトリフラートから生成したアライン中間体2分子とチオ尿素の間で、C-S結合、C-C結合が形成され、その後の加水分解によって、カルボニル基が生成することがわかりました。また、o-シリルアリールトリフラートの官能基を種々変化させると、それに対応したさまざまなチオキサントン類が合成できることも明らかになりました。

2. 反応機構の詳細解明
今回明らかとなった反応機構の概略は以下の通りです。
(1): o-シリルアリールトリフラートからアライン中間体(中間体I)が生成
(2): 中間体Iとチオ尿素との反応により、4員環(中間体III)が生成[1度目のアライン中間体の挿入]
(3): 中間体IIIの開環により、チオラート部分を有するアミジニウム中間体(中間体IV)が生成
(4): 中間体IVと中間体Iとの反応により、イミニウム中間体(中間体VII)が生成[2度目のアライン中間体の挿入]
(5): 中間体VIIの加水分解により、チオキサントンが生成

本研究グループは、この一連の反応により、さまざまな官能基を有するチオキサントン類が合成できることを明らかにしました。また、π拡張した誘導体や非対称構造を持つ誘導体など、広範な有機硫黄化合物の合成が可能であることも実証しています。

本研究を主導した吉田准教授は、「チオカルボニル化合物とアラインの反応性は未開拓であり、限られた知見しかありませんでしたが、さまざまな有機硫黄化合物の合成を実現する可能性を秘めていると考え、本研究に至りました。本研究の成果により、合成できるチオキサントン類の幅が広がり、創薬科学、材料科学などの広範な分野の発展に寄与し、人々の生活を豊かにする新しい分子が創出されていくことが期待されます」と、研究成果に期待を寄せています。

※本研究は、日本学術振興会の科研費(23K23354)、徳山科学技術振興財団の助成を受けて実施されました。

【論文情報】
雑誌名:Organic Letters
論文タイトル:Thioxanthone Synthesis from Thioureas through Double Aryne Insertion into a Carbon-Sulfur Double Bond
著者:Mayu Kawada, Shinya Tabata, Yukitaka Hoshi, and Suguru Yoshida
DOI:10.1021/acs.orglett.4c04490
※PR TIMESのシステムでは上付き・下付き文字や特殊文字等を使用できないため、正式な表記と異なる場合がございますのでご留意ください。正式な表記は、東京理科大学WEBページ(https://www.tus.ac.jp/today/archive/20250203_3210.html)をご参照ください。

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