ガストン・ルルーの小説「オペラ座の怪人」を原作にした、城田優さん演出・主演(Wキャスト)のミュージカル「ファントム」東京公演が2019年11月9日開幕。その前日となる8日に公開ゲネプロと、主要キャストによる記者会見が行われました。

 ミュージカル「ファントム」はアーサー・コピット脚本、モーリー・イェストン作詞作曲により、1991年にアメリカのヒューストンで初演。ブロードウェイでの上演がないにもかかわらず、これまでに世界各地で1000を超える公演が行われた大ヒット作です。日本では宝塚歌劇のほか、今回の公演と同じく梅田芸術劇場による企画制作で上演されています。

 今回の公演は、2014年の公演で主演した城田優さんが演出と主演(加藤和樹さんとのWキャスト)を務めるという意欲的なもの。そればかりでなく、メインキャラクターのファントム(エリック)、クリスティーヌ・ダーエ、フィリップ・ドゥ・シャンドン伯爵がWキャストとなっており、それぞれ異なる舞台が楽しめます。

 公開ゲネプロを前に記者会見に登場したのは、ファントム役の城田優さんと加藤和樹さん、クリスティーヌ役の愛希れいかさんと木下春香さん、シャンドン伯爵役の廣瀬友祐さんと木村達成さん。組み合わせごとに左右に分かれて並んでくれました。

 公演の演出とWキャストで主演を務める城田優さんは、2016年のミュージカル「アップル・ツリー」で演出家デビューしていますが、キャストを兼任するのは初めて。そのため、ダニエル・カトナーさんの演出で自身が主演した2014年の前回公演と比べ「今までとは違った、変な緊張感があります」とのこと。演出家と俳優とのバランスがなかなか難しかったようです。

 キャストの皆さんも演出家としての城田さんについて、普段とは違う新たな一面を発見したようです。稽古で言われた言葉では「お芝居しすぎないように」や「考えるな、感じろ」というような、役がそのまま生活しているような雰囲気を求められたとのこと。

 シャンドン伯爵役の廣瀬さんは、演出家・城田優の感想を聞かれ「とても大きく、高い存在」と語り、報道陣から「どの辺りが?」と聞かれ「……鼻(が高い)?」とボケて、思わず城田さんがコケる場面も。城田さんによると、非常にチームワークの良いカンパニー(一座)になっているとのことで、それを象徴するような場面でした。

 また、今回の公演では、劇場に入ったところから「ファントム」の世界に入っていけるような仕掛けが施されています。ロビーにはパリの街角にあるようなストリートオルガン(時価数百万円という本物)が音楽を奏で、1階席に降りていく階段には舞台と同じパリの街灯が並びます。


 客席に入ると、開演の少し前からアンサンブルの皆さんがお芝居を始めていて、客席の通路がパリの雑踏の雰囲気。城田さん曰く「観客の皆さんもパリの空気、そしてクリスティーヌが目にする光景に触れてもらいたい」という願いから、このような演出がなされているのだそう。

 公演中の諸注意も、パリ警察署長のルドゥ警部によるもの。舞台や客席にいるアンサンブルの皆さんのお芝居で、オペラ座での観劇に際しての注意、という風に演出されています。

 8日の公開ゲネプロでは、加藤和樹さん(ファントム)、愛希れいかさん(クリスティーヌ)、広瀬友祐さん(シャンドン伯爵)による舞台。城田さんは演出家の席に陣取ります。

 演出家席には、城田さん用のアメが入った箱が用意されていました。「エリック先生のあめちゃん」の文字と、城田さんの似顔絵が描いてあります。

 ミュージカル「ファントム」は、原作「オペラ座の怪人」よりさらにエリック(ファントム)の心や生い立ちを深く掘り下げた作品。このため、より悲劇性の高いドラマチックな展開となっています。

 パリに出てきたクリスティーヌは、街で偶然その歌声を聞いたシャンドン伯爵から名刺を渡され、オペラ座でレッスンを受けてみないか、と旧知の支配人ゲラールを紹介します。

 しかしオペラ座はオーナーが変わってしまい、ゲラールは解任。代わってアラン・ショレが支配人となり、その妻カルロッタが新しいプリマドンナ(看板女優)となっていました。

 門前払いされかけたクリスティーヌでしたが、シャンドン伯がオペラ座の重要なパトロンだと知ったアランにより、衣装部屋の下働きとしてオペラ座で働くことを許されます。仕事の合間に歌うクリスティーヌ。その美しい歌声にオペラ座の地下に住む「オペラ座のファントム」ことエリックは亡き母を思い出し、魅了されたのでした。

 エリックとの秘密のレッスンで歌の才能を伸ばしていくクリスティーヌ。ビストロでのオーディションで見初められ、ついに「フェアリー・クイーン」の主役タイタニアに抜擢されます。


 この後、クリスティーヌとシャンドン伯との月夜のダンスシーンでは、シャンドン伯役の廣瀬さんがフレッド・アステアのような軽やかなダンスを披露。非常にロマンティックな場面となっています。

 シャンドン伯とエリック(ファントム)は、クリスティーヌをめぐって光と影の存在。エリックは初舞台を前にシャンドン伯と抱き合うクリスティーヌの姿を見て、己の境遇を噛み締めます。

 カルロッタの奸計により、クリスティーヌのデビューは散々なものに。その混乱に乗じてエリックは、クリスティーヌを自分の世界であるオペラ座の地下深くへと連れ去るのでした。

 クリスティーヌを救い出したジェラールは、彼女にエリック出生の秘密を語ります。ここでの愛希れいかさんによる美しいダンスも見もの。幼い頃からクラシックバレエを学び、宝塚歌劇団月組のトップ娘役を2018年11月まで6年以上務めた実力が垣間見えるシーンです。

 明るく華やかなパリの街と、地下深くに生きるエリックとの対比が非常に印象的に描かれており、本当は光の当たるところを歩きたかったであろうエリックの悲劇性が際立ちます。ステージのバックに控えるフルオーケストラの演奏も素晴らしい出来。

 そして、特筆すべきなのはアンサンブルの皆さん。場面ごとに異なる役を演じ分け、しかも客席(パリの街)に降りて観客の近くでお芝居を続けるのですが、それぞれの場面で「どのような人物が、どのようにその場に存在しているのか」という背景を感じさせる立ち居振る舞いが印象的でした。

 ミュージカル「ファントム」は、東京公演がTBS赤坂ACTシアターで11月9日~12月1日、大阪公演が梅田芸術劇場メインホールで12月7日~12月16日に行われます。アフタートークショーやスペシャルカーテンコールもあり、Wキャストそれぞれの公演日を含めた詳細は、公演特設サイトを確認してください。

取材協力:梅田芸術劇場

(取材・撮影:咲村珠樹)