おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【観劇レビュー】「ロマンシング サ・ガ2」舞台化で七英雄再評価

 この度、スーパーファミコンソフト「ロマンシング サ・ガ2」(通称:ロマサガ2)が舞台化されました。題して「SaGa THE STAGE ~七英雄の帰還~」。

公演日程は下記の通りです。

埼玉公演: 2018年9月21日 戸田市文化会館
東京公演:2018年10月2~8日 シアター1010
大阪公演:2018年10月17~21日 サンケイホールブリーゼ  

 筆者は10月6日に東京公演を鑑賞しましたので以下にレポート致します。

  •  筆者は2016年7月24日に舞台版「ドラゴンクエスト3」の記事、2017年4月17日に舞台版「ロマンシング サ・ガ3」の記事を掲載しましたが、本稿はそれらに続く記事となります。

     まずは、スーパーファミコンソフト「ロマンシング サ・ガ2」のあらすじを振り返っておきましょう。

     ゲームのアバンタイトルでは、七英雄の伝説というものが語られます。伝説によれば太古の昔、魔物を倒した7人の英雄、通称・七英雄がいました。七英雄は世界を救った後に姿を消しましたが、いつの日か再び世界を救う為に姿を現すと伝えられているそうです。そしてアバンタイトルでは

    「そして、彼らは来た ・・・・だが」

     という字幕の後に「ロマンシング サ・ガ2」というタイトルが表示されるんですが、この時点で惹き込まれてしまいます。

     ここで、七英雄のメンバーをご紹介しましょう。七英雄は太古の英雄ではありますが、ゲーム中の時代、世界に再び現れます。

     七英雄の名前は、JR山手線の駅名を逆から読んでカッコ良くしたものだそうです。私は以前、七英雄の名前の由来となった駅の写真を全部撮影しようと思ったことがありました。本稿では、七英雄のメンバーを紹介すると共に、名前の由来となった駅の写真を掲載致します。

     ワグナス(演・中村誠治郎):七英雄のリーダー。ゲームでは、居城に侵入した主人公を安全に送り返してくれることもある兄貴肌。名前の由来は品川駅。

     ノエル(演・佐藤アツヒロ):ロックブーケの兄。七英雄の中で最も礼儀正しい。舞台版ロマサガ2では主人公になっています。名前の由来は上野駅。

     ロックブーケ(演・山田菜々):ノエルの妹。ゲームでは、ストーリーの根幹に関わる重要な調査をしています。異性を意のままに操る能力を持っていることから、ゲームをクリアする上での関門となりました。名前の由来は池袋駅。

     クジンシー(演・細貝圭):人類と七英雄の激闘の戦端を開いた人物。ゲームでは、クジンシーが悪事を働いたことから七英雄が英雄ではないことが判明しました。名前の由来は新宿駅。

     ボクオーン(演・川田祐):人形を操る。BSフジで放送された宣伝番組によれば、演じている川田氏はヨーヨーの世界チャンピオンに輝いた経歴があるそうで、ゲーム中の操り人形が舞台版ではヨーヨーになっています。名前の由来は新大久保駅。

     ダンターグ(演・岩永洋昭):強さを求めて独自に行動しています。名前の由来は五反田駅。

     スービエ(演・平山佳延):ワグナスの従兄弟。海に生息しているせいか、ゲームでは他の七英雄と比べて主人公と遭遇しないまま、ゲーム終盤まで来てしまうことがよくあります。名前の由来は恵比寿駅。

     おまけ:サグザー(演・野村知広)七英雄ではありませんが、ノエルの友人。舞台版ロマサガ2でも、七英雄と行動を共にする場面がありました。名前の由来は浅草駅。上野駅と浅草駅と言えば、昭和2年に開通した地下鉄(現在の東京メトロ銀座線)の始発駅と終点でした。名前の由来が山手線の駅名でないことからも、サグザーが七英雄のメンバーではないことが分かります。

     ゲームでは、プレイヤーキャラクターの視点からストーリーが進展しますので、太古の昔、七英雄がいかなる人物達であったのかは伝聞による情報しか得られません。ゲーム中で、太古の七英雄についてプレイヤーキャラクターに教えてくれる者は次の3名です。

    ・七英雄と同じ時代を生きたオアイーブ(舞台では演・谷口あかり)
    ・スービエ
    ・モンスターの水龍

     しかし条件を満たさないと上記3名全員の話を聞くことはできません。その上、上記3名の証言はそれぞれの知っている情報しかないため、全てを突き合わせるとつじつまの合わない部分が生じます。例えるならば、昭和25年の映画「羅生門」のような状況と言えるでしょうか。水龍の話もまた伝聞の可能性がありますし、オアイーブは(ゲームでは)七英雄と対立した側の人物だったので、主観が入って証言に矛盾が生じるのもやむを得ないのかもしれません。

     以下、本稿ではネタバレにならないように敢えて曖昧に申し上げますが、3名の話によれば、太古の昔、七英雄は酷い目に遭わされた為、現在、復讐を企んでいるとのこと。オアイーブは七英雄と対立した側の人物でしたが、責任を感じた為、仲間と行動を共にせず、隠棲しているそうです。ただ、ゲーム中ではオアイーブが本当に責任を感じているのか怪しい部分もあったので、プレイヤーキャラクターがオアイーブに意見をぶつけています。

     このようにして七英雄の秘密が明らかになったことで、ゲーム中で起きている事件は、太古に起きた事件の余波であることが判明しました。言い換えれば、ゲーム中のストーリーの陰に隠れた部分には、七英雄を主人公にしたストーリーが存在していたということです。

     ここからはいよいよ舞台版ロマサガ2の話に移ります。舞台版ロマサガ2のポスターには「かつて彼らは「英雄」だった。」というキャッチコピーが記され、七英雄の姿が掲載されています。つまり七英雄を前面に押し出しています。

     前述の通り、ゲームのロマサガ2はプレイヤーキャラクター視点のストーリーと太古の七英雄のストーリーという2つの軸があった訳ですが、舞台版ロマサガ2はこの点を巧みに取り入れ演劇化しました。太古の七英雄パートと、ゲームで描かれたパートの二部構成にしたのです。

     第1部は、太古の七英雄の物語となりました。ゲーム中では太古の事件について証言に矛盾があり、プレイヤーキャラクターが太古の事件を目撃した訳ではないことから、真相は不明でしたが、この舞台版ロマサガ2によって観客は太古の事件の真相を目撃するのです。また、オアイーブはヒロインのポジションになり、自身が事件に責任を感じた理由も明らかにされました。

     ゲームと同様に七英雄が酷い目に遭ったところで第1部は終了し、休憩時間を挟んで第2部の開幕となります。第2部の冒頭では、ゲームのアバンタイトルと同じ文章のナレーション(前述の「そして、彼らは来た ・・・・だが」という文章)が語られ、ゲームで描かれたストーリーが繰り広げられます。

     第2部のストーリー上の特徴を、ネタバレにならない程度に2点申し上げます。

     1つ目は、ゲームでは七英雄の中で一番影の薄かったスービエの出番が多い点です。しかも、ゲームではチラッとしか出てこなかったキャラクター・海の主の娘(演・梅田彩佳)とラブロマンスを繰り広げているのです。このラブロマンスは、ゲームで上記キャラクターの母親(海の主)が語ったエピソードとは全く異なるエピソードでありましたので、新たな一面を見られて楽しめました。

     2つ目はオアイーブのポジションです。前述の通りゲームでは、自分では責任を感じていると言っていたオアイーブは、本当に責任を感じているのか怪しい点があった為、プレイヤーキャラクターから意見を言われていた訳ですが、舞台版ロマサガ2はこの点にも深く切り込みました。ゲーム中のオアイーブはプレイヤーにあまり良い印象を与えなかったのですが、舞台版では、太古の事件に対して本当に胸を痛めており、現代に於いても七英雄(特にノエル)を思い続けていることが伝わってきて、オアイーブの印象がガラリと変わりました。

     ここで話は変わりまして、舞台版ロマサガ2の特徴について、ストーリー以外の要素を2点申し上げます。

     1つ目は戦闘シーンです。ゲーム版ロマサガ2の戦闘では、主人公側のパーティーは陣形を組んで戦います。どういう陣形を組むかによってキャラクターの能力が左右されるのですが、舞台版ロマサガ2でも登場人物が陣形を組んで戦っているのです。ゲームをプレイした観客としては、ゲーム中の戦闘が目の前で再現されて嬉しいものです。

     2つ目は音楽です。劇中音楽はゲーム版ロマサガ2の劇伴の他、他のサガシリーズの劇伴も使われました。前者の例と後者の例を1つずつご紹介します。前者の例としては、ゲーム中、酒場で人魚が踊る場面の劇伴が、舞台では喧嘩を表す劇伴として使われていました。後者の例としては、登場人物が決意を固める際、要所要所で効果的に使われた曲が、ロマサガ1で主人公が神から与えられた試練を表す曲でした。両方ともゲーム中とは全く異なる使い方ですが、これがピッタリはまっていました。

     さて、以上を纏めて結論を申し上げます。舞台版ロマサガ2は、ゲーム中では伝聞でしかなかった太古の事件の真相を描くことで、七英雄の悲劇を明らかにしました。併せて、ゲーム中では明らかではなかったオアイーブの思いを描くことにより、オアイーブの愛と苦悩を描いた物語ともなりました。舞台版ロマサガ2の意義は、ポスターに「かつて彼らは「英雄」だった。」と書かれている通り、七英雄は本当に英雄であり、オアイーブとの愛、海の主の娘との愛、サグザーとの友情の中で生きた人間味溢れるキャラクターであったと再評価した点にあると言えるでしょう。

     本公演で個人的に一番印象深い名場面は、オープニングとラストで七英雄が勢揃いしてポーズをビシッと決める場面でした。これがとてもカッコ良かったです。この場面は、七英雄は悪人ではなく英雄であるとする、本公演の要諦を象徴していると言えるでしょう。

    (コートク)

    あわせて読みたい関連記事
  • ABEMAで舞台「弱虫ペダル」過去作すべて無料放送決定
    アニメ/マンガ, 放送・配信

    ABEMAで舞台「弱虫ペダル」過去作すべて無料放送 キャスト出演の特別番組も

  • 舞台『鋼の錬金術師』の製作発表会が開催 エド役の一色「格の違いを見せてやるよ」
    アニメ/マンガ, 舞台・上映

    舞台『鋼の錬金術師』製作発表会 エド役の決め手は「愛」と「怒り」

  • ミュージカル「青春-AOHARU-鉄道」ニコ生振返り上映会決定
    エンタメ, 舞台

    ミュージカル「青春-AOHARU-鉄道」シリーズ6作品 7月〜9月ニコ生上映会決…

  • 元宝塚の七海ひろきが「舞台『刀剣乱舞』禺伝 矛盾源氏物語」で歌仙兼定役として出演
    エンタメ, 舞台

    七海ひろきと彩凪翔が「舞台『刀剣乱舞』禺伝 矛盾源氏物語」に出演

  • 「テイルズ オブ アライズ オンラインシアター リベレイターズ -希望を託されし開放者たち-」
    エンタメ, 舞台

    ゲームとリアルが融合 ハイブリッド舞台「テイルズ オブ アライズ」レポート

  • 舞台「鬼滅の刃」其ノ弐 絆のメインビジュアル
    エンタメ, 舞台

    舞台「鬼滅の刃」第2弾のメインビジュアル解禁 柱たちや十二鬼月・累の姿も

  • ノベルゲーム・プロジェクト第二弾「滄海天記」
    ゲーム, ニュース・話題

    ノベルゲーム・プロジェクト第二弾「滄海天記」 Switchゲーム発売&舞台化が決…

  • 「刀剣乱舞」「弱虫ペダル」「テニスの王子様」などで注目の俳優・蒼木陣ファースト写真集発売
    エンタメ, 芸能人

    「刀剣乱舞」「弱虫ペダル」などで注目の蒼木陣 ファースト写真集発売決定

  • 舞台版「笑ゥせぇるすまん」上演日程決定 showroomも配信
    アニメ/マンガ, 舞台・上映

    舞台版「笑ゥせぇるすまん」上演日程がドーーン!!と決定 showroomも配信

  • エンタメ, 舞台

    「青春-AOHARU-鉄道 4~九州遠征異常あり~」登場全路線(キャスト)ビジュ…

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 映画「鬼の花嫁」
    エンタメ, 映画

    累計580万部「鬼の花嫁」実写化決定 永瀬廉&吉川愛がW主演

  • 例のあの和菓子、都道府県別の呼び方
    社会, 雑学

    全国で呼び名はどう違う?「今川焼」が19エリア制覇 ニチレイが“勢力図”を公開

  • 楽天モバイル、シニア向けに「オレオレ詐欺対策保険」を無料提供開始
    企業・サービス, 経済

    楽天モバイル、シニア向けに「オレオレ詐欺対策保険」を無料提供開始

  • Francfrancの「ビッグマックスープジャー」入り マクドナルド福袋2026が抽選受付スタート
    商品・物販, 経済

    Francfrancの「ビッグマックスープジャー」入り マクドナルド福袋2026…

  • チャコットが初の「ポケモン」コレクション発売へ 2026年1月23日スタート
    ゲーム, ホビー・グッズ

    チャコットが初の「ポケモン」コレクション発売へ 2026年1月23日スタート

  • 静岡新球団で何が起きているのか ハヤテ223とくふうHDがネーミングライツ巡り対立
    企業・サービス, 経済

    静岡新球団で何が起きているのか ハヤテ223とくふうHDがネーミングライツ巡り対…

  • トピックス

    1. 運営者の終活で老舗CGIサイトが終了へ 1995年開設「CGI RESCUE」、2026年3月に幕

      運営者の終活で老舗CGIサイトが終了へ 1995年開設「CGI RESCUE」、2026年3月に幕

      1995年から続く老舗CGI配布サイト「CGI RESCUE」が2026年3月末での終了を発表しまし…
    2. 違和感満載のサイケな銭湯でほっこり入浴 蒲田で開催「脳汁銭湯」体験レポート

      違和感満載のサイケな銭湯でほっこり入浴 蒲田で開催「脳汁銭湯」体験レポート

      旧き良き銭湯が異次元の入浴空間に変身するイベント「脳汁銭湯」が、11月26日から12月7日まで東京・…
    3. この涙は懐かしさ……なのか? 展示「あの職員室」で特大感情を揺さぶられたレポート

      この涙は懐かしさ……なのか? 展示「あの職員室」で特大感情を揺さぶられたレポート

      学生時代、入りたくても入れない「聖域」のような場所だった職員室。その風景を再現し、自由に探索できる展…

    編集部おすすめ

    1. 快活フロンティアの発表

      快活CLUB不正アクセスと“天才ハッカー美談”の危うさ──真面目な技術者を傷つける誤った称賛

      快活CLUB公式アプリへの不正アクセスで会員情報700万件超が漏えいした事件で、高校2年の男子生徒が逮捕された。ネットでは「将来有望なホワイ…
    2. 例のあの和菓子、都道府県別の呼び方

      全国で呼び名はどう違う?「今川焼」が19エリア制覇 ニチレイが“勢力図”を公開

      全国で呼び名が分かれる“中に具材を入れて焼いた円形の厚焼き和菓子”について、株式会社ニチレイフーズが47都道府県別に最も多く使われている呼称…
    3. セブン×ちいかわ「鬼辛カレー」を実食!全身が真っ赤に染まるのも納得の辛さ

      セブン×ちいかわ「鬼辛カレー」を実食!全身が真っ赤に染まるのも納得の辛さ

      セブン‐イレブンで12月2日から始まった「ちいかわと冬をたのしんじゃお!」キャンペーンで、作中に登場した「鬼辛カレー」が発売中。原作で話題の…
    4. 楽天モバイル、シニア向けに「オレオレ詐欺対策保険」を無料提供開始

      楽天モバイル、シニア向けに「オレオレ詐欺対策保険」を無料提供開始

      楽天モバイルと楽天損害保険は12月1日、「最強シニアプログラム」を強化し、オプションパック「15分かけ放題&安心パック」加入者を対象とした「…
    5. 静岡新球団で何が起きているのか ハヤテ223とくふうHDがネーミングライツ巡り対立

      静岡新球団で何が起きているのか ハヤテ223とくふうHDがネーミングライツ巡り対立

      静岡県を拠点とし、プロ野球ウエスタン・リーグに参加している新球団「くふうハヤテベンチャーズ静岡」を巡り、ネーミングライツ契約を含む資本業務提…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト