初詣、成人式と神社とのかかわりが深くなるこの季節、宮城県仙台市に古くからある神社に奉納された、ちょっと変わった「巫女さん」がTwitterに投稿され、ネットで耳目を集めています。

 現在地に鎮座して350年あまり、江戸時代から残る「照星閣」という別名でも知られる総欅造の御社殿などが歴史ロマンをくすぐる、宮城県仙台市の榴岡(つつじがおか)天満宮。かつては伊達政宗が御社殿を造営し、奉納した記録もあるそうです。そんな歴史ある神社で出会った、風変わりな「巫女さん」の姿をTwitterに投稿したのはRominaさん(@Romina)。1月の鷽替え神事に際して授与される一刀彫と御朱印帳を受けるため、参拝した際に撮影した写真を「榴岡天満宮の祈祷・御朱印の受付所で見つけたので、写真に撮らせてもらった。すごいなぁ……。」とツイートしたのですが、歴史ある神社とはギャップのある、なんとも近未来的なフォルムの巫女さん……まさかのガンプラです。「機動戦士Zガンダム」で、ネオ・ジオン(アクシズ)のハマーン・カーンが乗っていたモビルスーツ、AMX-004「キュベレイ」が巫女さんのような姿になっているのです。

 この巫女さんガンプラの作者は、仙台駅の近くで花屋を営むかたわら、プラモデル製作を趣味にしている高橋正樹さん。Rominaさんの「巫女ガンプラ」ツイートに反応したのは、妻の由香さんでした。巫女ガンプラが手にしている神楽鈴に使われている極小の鈴は、手芸が得意な由香さんが取り扱っているお店をアドバイスしたのだそうです。年末にマンションをリフォームして、趣味の部屋を作ってしまうほどモノづくりを愛してやまないご夫妻ですが、作品も大事に取っておく由香さんと対照的に、正樹さんは先にプレゼントする相手を決めてから、イメージに合わせて作品を作りはじめるのだそう。

 しかし今回は少し様子が違っていました。正樹さんの過去作をネットで見て気に入った榴岡天満宮の宮司さんから直々に「当社へも奉納してほしい」というお願いがあり、歴史ある神社にふさわしいよう細部にまで凝ったガンプラの製作がはじまりました。宮司さんと正樹さんは同い年のご近所育ち、おたがいに顔は知っていたけれど、仲良くなったのはここ5年程なのだそうです。


 制作秘話を聞くうちに驚きの事実が判明しました。実は榴岡天満宮に正樹さんが奉納したガンプラは、Rominaさんが出会った巫女キュベレイだけではなく、巫女と対を成すもう1体、宮司のガンプラも奉納されていたのです。恰幅のいいフォルムが印象的なこのモビルスーツは、ティターンズのパプテマス・シロッコが「機動戦士Zガンダム」で、主人公カミーユ・ビダンの乗るZガンダムと最終決戦を繰り広げた、PMX-003「ジ・O」。巫女と宮司、どちらも「機動戦士Zガンダム」に登場したモビルスーツで統一されています。




 正樹さんによると、作品のタイトルは宮司が「祠・旺(ジ・O)」、巫女が「宮辺霊(キュベレイ)」。それぞれ1/100スケールのマスターグレードキットをベースにしたそうで、正樹さんによれば「祝詞と言えば(?)ハマーン様です!」とのこと。


 製作にあたっては、屋外での塗装のため湿気や天候が塗料の乾燥に影響して、仕上がりが左右されてしまうことが苦労した点だという正樹さん。宮司のジ・Oの袖の造形と巫女の髪飾りの塗り分けにも手間取り、巫女が手に持っている神楽鈴、宮司が携える大麻(おおぬさ)は自作したそうです。巫女キュベレイの肩部フレキシブル・バインダーには、内側にしっかりと奉納者の名前と日付も入っていて、かなり芸が細かいですね。出来上がった2体のガンプラを見た由香さんは「ガンダムから巫女を連想したというのもスゴイ!」と思ったそうです。



 自身の経験では初めてとなる、依頼されてからのプラモ製作に取り組んだ正樹さんは、依頼主の宮司さんには何を作っているか一切明かさず、「ジオングを作って欲しい」とのリクエストも無視。しかも1体だけでなく2体を同時に、大安の日取りとなる2018年10月17日を選んで、正樹さんは奉納しました。何も聞いていなかった宮司さんはたいそう驚いたそうです。製作日数は2体で合計38日間だったとのこと。

 話題になったことで、これから近くはもちろん遠くからも多くの人が2体の神職ガンプラを見るために榴岡天満宮へと足を運ぶことが予想されます。投稿者のRominaさんによれば、ガンプラが奉納されている授与所のすぐ隣は祈祷を待つ人のための控え室だそう。また、ガンプラは保護するケースなどに入っていないむき出しの状態とのこと。電話で榴岡天満宮に確認したところ、しばらく様子を見るが当面ケースに入れる予定はないというお話でした。

 投稿者のRominaさんと、製作者の高橋正樹さんより、榴岡天満宮へ神職のガンプラを見に訪れる方へのメッセージがあります。

投稿者・Rominaさん「展示されている場所がツイートにある通りあくまで「祈祷・御朱印の受付」ですし、ケース等で守られているわけではないので、手で触れたり、榴岡天満宮にご迷惑をかけないようにしてください」

製作者・高橋正樹さん「気さくな宮司様と是非仲良くなって頂ければと思います。ただ、宮司様はそれほどガンダムに詳しいというワケではございませんので、ガンプラ談義を持ちかけるのは遠慮してください」

 神職さんの格好をした2体のモビルスーツ「祠・旺(ジ・O)」と「宮辺霊(キュベレイ)」 は、発想も素晴らしく細部までこだわりを感じる作品でしたが、すでに神社に奉納されたもの。つまり現在のオーナーは、榴岡天満宮の御祭神である学問の神様「菅原道真」公だということになります。見学する際は作品に手を触れないのはもちろんのこと、この季節は受験シーズンでもあるので、くれぐれも一生懸命にお参りしている受験生の邪魔になることがないよう、配慮が求められますね。

<記事化協力>
Rominaさん(@Romina)
高橋正樹さん、由香さん(@banana_cafe_918)ご夫妻
榴岡天満宮(宮城県仙台市宮城野区榴ケ岡105-3)

(山口さゆり)