各企業が、商品やサービスの宣伝、またはファンの獲得などを目的に、SNSでアカウントを持つことは今や当たり前となりましたが、先日ネットを騒がせたのは、100円ショップ「Seria公式」を名乗るXアカウント。後に公式ではないことが判明し大騒動となりました。
「Seria公式」を名乗るXアカウントは、事実判明までのわずか数日間で2万4千超のフォロワーを獲得。フォローした中には、一般のみならず、企業公式アカウントも多数含まれていました。
多くの人が欺かれた今回の事件は一体なぜ起きてしまったのか?誰も怪しいことに気がつかなかったのか?一連の出来事について、騙された人、騙されなかった人、そしてセリア本社を一つずつ取材。
最後の最後、「偽Seriaの中の人」にも直撃しました。
■ 「公式」を名乗り多くのフォロワーを集めるも、本社は「偽アカウント」と注意
まずは今回の事件のあらましから。事の発端は2023年9月8日、突如として開始された「Seria公式」を名乗るアカウントの発信から始まります。
立ち上げ当初からはっきりと「Seria【公式】」と名乗り(後に【公式】部分は削除)、プロフィール写真には企業ロゴ、IDにも「Seria_PR」と「PR」を使用。さらに初投稿にはハッシュタグ「#企業公式相互フォロー」が添えられるなど、企業がよく行うフォロワー獲得方法と体裁をとっていたのです。結果として、一般ユーザーのみならず、他の企業アカウントまでもが信じてしまうことに。
さらに途中なんと「公式YouTubeチャンネル」の開設(現在は削除済み)までも実施。積極的に行動を起こし、次々とフォロワーを獲得していきました。
しかし、事態が一変したのは9月14日。真の公式であるセリア本社が、ホームページにて「SNSの偽公式アカウントにご注意ください」というアナウンスを発信。
これを受けて偽アカウント側は「皆様にはお伝えしておりませんでしたが、このアカウントは本社が運営しておらず、セリアの店舗で管理しております」と言い訳をはじめ、謝罪を行いました。
その後は、「店舗で働く身として商品をもっとPRしたかった」と、アカウントを作るに至った理由を述べ、「本社と協議を行っている」と状況説明も行いましたが、公式と信じて疑わなかった一般ユーザーらから批判が殺到。
そして2日後の、9月16日17時に「同日18時をもってアカウントを削除」することを突然告知。しかし、時を待たずして17時半にはアカウントを削除。自分で言い出した最後の予告も破る結果となっています。
■ 問題は2つ
今回の出来事で問題視されている点は大きく2点。「大手企業の公式を名乗る偽アカウントが作られてしまったこと」と「多くの企業がこの偽アカウントを本物だと信じてしまったこと」です。
SNSにおける企業公式アカウントとは、いわば「会社の顔」。当然ながら気分や思い付きで出来るものではなく、そこには企業の看板を背負うという責任が付いて回ります。企業のイメージを決定づける存在と言っても過言ではありません。
そんな重大な役割を、企業のいち社員が自身の独断で運用をしようなんて、どれだけ無理があることか……考えれば容易にわかりそうなもの。「Seria」の看板を借りて、さも公式らしく振舞っていたようですが、14日のセリア公式からの発表直後には、今後の運用方針をフォロワーから募集するという脆さまで出してしまっています。
一方で、公式であるという確証が得られないまま、この偽アカウントをフォローしてしまった、他の企業アカウント側の対応もネット上では問題視されています。
前述の通り、企業公式アカウントには、SNSという公共の場における会社の顔としての役割があり、運用には非常に慎重にならざるを得ないのが普通です。
しかしながら、多くの企業公式アカウントが、「このアカウントは本物なのか?」という内容の精査をすることなく、フォローし、やり取りをしてしまいました。
中にはフォロワー数がまだ300以下の頃に、やりとりしている企業も存在しています。こうした出来事が積み重なり、他の企業公式アカウントや、一般ユーザーが「あの企業がフォローしているなら本物だろう」という判断で追随。
フォローした各企業公式アカウントの「中の人」に、当然悪意はありませんが、それでも今回フォローしてしまったのは軽率な行動だったと言えるでしょう。たった数日で偽アカウントに2万4千ものフォロワーが付いてしまう事態に、少なからず加担してしまったわけですから。
■ フォローしてしまった中の人、フォローしなかった中の人
今回編集部では、この偽アカウントをフォローしていた複数の企業公式アカウントの中の人、そして逆に「怪しんで」フォローしなかった中の人まで幅広く取材を行いました。
なお、取材協力にあたっては、匿名が条件となっています。
▼フォローしてしまった中の人たち
フォローしてしまった企業アカウントの中から、今回取材に協力してくれたのは4社・4名の現役中の人です。いずれも数年レベルで中の人を担当している、いわば企業公式アカウント運用を知り尽くした「中の人」たち。
話を聞くと、まずは「公式アカウントだと思いフォローしてしまい、それによって一般の方も勘違いされたとしたら本当に申し訳ないという罪悪感はあります」と、誤認を招いてしまう行動を取ってしまったことを全員が深く反省していました。
経緯としてはやはり「別の企業がやり取りしているのを見て、Seriaアカウントの存在を知り、そこから【公式】と表記されていること、商品情報を投稿していく予定がすでに決まっていること、ロゴやヘッダーの画像、アカウント名に『PR』と入っていたこと、全国展開している企業という安心感から公式だと思ってしまいフォローしました」とのこと。
違和感を覚え始めたのはその夜から次の日だったといいます。一度投稿したポストを削除し、それに対して弁解をおこなうなど、企業公式らしからぬ言動が見られたからだそうです。しかしそれでもかなりのスピードでフォロワー数が伸びていたので、「まぁ大丈夫だろう」と思ってしまったことを、全員が全員後悔していました。
そして「信じてしまった企業アカウント中の人」全てが共通して語ったのは、「他の企業さんがフォローしているのを見たから」「大手さんがフォローしていたから」というフォローに至った理由。「仲の良い公式さんがフォローしてるから大丈夫だろう」という考えが働いてしまい、普段ならば行うはずの本物確認(公式サイトのSNSアカウント紹介を確認するなど)を怠ってしまったことでした。
実はこうした事態は、我らメディアの世界でもかつて起きています。おたくま経済新聞もひっかかってしまった中の一つです。さかのぼること2015年、大手食品メーカー公式を名乗るアカウントが注目される出来事がありました。
当時その件について、大手メディアが報道。追従するように大小問わず報じる流れとなり、おたくま経済新聞では一足遅く記事を公開。
すると記事公開からわずか5分後に、普段ならば行う「直接のアカウント確認」を怠っていたことに気づいたのです。他社の記事で「公式アカウント」と紹介されていたことで、自社確認を怠っていました。すぐさま大手食品メーカーに問い合わせたところ、答えは「偽者」。
記事公開わずか1時間ほどで訂正・謝罪を行い、それによって先行していた他社もようやく事態を把握。ほぼ全社が訂正するという出来事がありました。
この時の教訓から学んだのは「確認は必ず自社(自分)で直接行うこと」これに限ると、身にしみた出来事でした。
▼フォローしなかった中の人
次に、今回「フォローしなかった中の人」にも、何を感じてフォローしなかったか聞いてみました。取材に応じてくださったのは1社・1名の中の人です。
「偽Seria公式」の存在には、9月11日のフォロワー数が爆増しはじめたタイミングで気がついたといいます。
最初に不審を抱いたのは文章。「文章を見て、プロの代理店やライター業、広報担当ではないだろうな……」と感じていたそうです。そして強い不審を抱くきっかけになったのがYouTubeの開設。ここで勘がはたらき、観察側に徹していたそうです。結果としてその判断は正しかったことになります。
加えて「知っている他の企業公式がフォローしていたことで、結果X全体の警戒心が緩んでしまったのだと思います」「今後の話題性の拡がり、経営リスクの視点が重要視されたときに、SNSアカウントでの“企業公式”同士の馴れ合いが抑制される向きも出てくるのではないか」とも語っていました。
普段であれば互いの企業を盛り上げる「馴れ合い」ですが、今回は悪い方向に利用されてしまいました。「偽Seria公式」中の人は、悪用する意図はなかったにせよ、もしもこのテクニックが本当に悪い人に利用されてしまったら……。被害は計り知れません。
■ 偽アカウント「中の人」に直撃 正体はSeriaの店長?
騙された企業、騙されなかった企業と複数取材を進めるのと同時に、偽アカウント中の人に対しても、DMを通じて根気強く連絡をとっていました。
送ったのは「中の人はいったい何者なのか?」「なぜアカウントを開設しようとおもったのか」の2点。
すると数日後の9月16日17時08分に最初の回答が届きました。時系列は、偽Seria公式アカウントが17時に、「アカウントを18時に削除する」と投稿した直後です。
中の人からのDMに書かれていたのは「私はSeriaの店長でして」の文言。本人の告白によるとどうやら一店舗の店長が、Seriaの商品をもっと知って欲しいという一心で、アカウントの開設に至ったそうです。
続けて「公式と名乗ってしまったことでたくさんの企業やその他の方にご迷惑をお掛けしました」と謝罪しつつも、「円満にこのアカウントを削除させて頂くため、記事にはしないでください」という保身の一言。続けて「この話は本部からの連絡です」という圧力とも取れる一言も書かれていました。
■ 中の人(自称・店長)の説明が事実かどうか、セリア本社に取材
この内容について、編集部ではセリア本社に取材しています。
まず「Seriaの店長というのは本当か」という部分については、現時点確認できていないそうです。
「ホームページでご案内の通り※、作成者と思われる人物からの連絡であり、確実な個人特定が難しい状況です」という回答でした。(※編集部註:9月19日にセリア公式HPで公開された「当該偽アカウントは削除されました」というお知らせ)
そして、「記事にはさせないよう本社が指示を出した」という点についても質問しています。
これについては「当社の公式アカウントではないため、本社は関与しておりません。よって指示することもございません」というハッキリとした回答が得られています。
つまり、Seria店長を名乗る人物は、勝手にセリア本社の名前を使って編集部に圧力をかけようとしたようです。
ここまで多くの人を巻き込んでおきながら、「記事化しないで」「円満に解決したい」、さらには「勝手に名前をつかって圧力もかける」とは……。
■ 編集部とのやりとりの最中アカウントを削除
さて、話をDMでのやりとりの最中に戻します。突然DMに返事が届いたとき、編集部ではすぐに気づくことができました。そこであわてて返信しつつ、取材の過程ででてきた疑惑についても質問。
偽Seria中の人(自称・店長)は「企業公式アカウントの大ファン」という説もありますが、同時に一部からは「不審点があったにも関わらず初期から企業と交流できたのは、元どこかの中の人だったか、現役中の人とつながりがある人なのではないか?」という説もあったからです。
この疑惑について問い、さらに問題の当事者として、いち社会人として、説明義務を果たすようにも促しました。
そして2分後に次のメッセージを送ろうとした瞬間、DM画面に出てきたのは、「メッセージを送信しようとしているアカウントは削除されました」の文字。
そう、やりとりの最中に、アカウントを削除してしまったのです。予告の18時よりも前にアカウントを削除したのは、恐らく編集部とのやりとりが原因。正直これにはあきれてしまいました。
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【9月16日の出来事】
・17時:
偽Seria公式アカウントが「円満に解決する為、このアカウントは削除いたします~削除日時9/16(土)18:00」と告知
・17時08分:
編集部のDMに「偽Seria公式」中の人からメッセージが届く
「記事にしないで」、「記事にしないことはできない」といったやりとりをする
・17時30分:
編集部から最後の質問を送信
・17時32分:
編集部から再度メッセージを送信/送信できない状態に→アカウント削除を確認
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■ 実際のやりとり
次に証拠としてやりとりの一部を画像で掲載しますが、当時時間がなかったことから多少の誤字があります。
そして重ねての説明となりますが、前述のとおりセリア本社は中の人が店長であるか否かについて、「確実な個人特定が難しい状況」としています。加えて記事化への圧力も完全に否定。その点踏まえてご覧ください。
また、回答には「嘘」が含まれている可能性があることから、画像だけが記事と離れて転載されることを抑止する目的で、「無断転載禁止」と記載しています。現在掲載を許可しているのは、記事と画像がセットで扱われる、提携媒体のみ。著作権法の引用範囲内で使用する場合(学術研究など)には、引用ルールを厳守した上、注意事項もあわせて慎重に取り扱ってください。
■ SNSの利用は高いリテラシーと慎重な判断力が必要
今回この偽アカウントは、そのプロフィール、肩書き、スクリーンIDと数回の発信内容のみで、多くの企業公式アカウントを欺き、結果2万4千フォロワーも集めることに成功しました。
企業公式アカウントが必要かどうかは、当然その企業の方針にもよるので、必ずあるべきとは一概には言えませんが、Seriaのアカウントを多くの企業、そして一般ユーザーが心待ちにしていたことも、今回の事件を引き起こした要因のひとつでしょう。
どれだけフォロワーが多くとも、どれだけ本物っぽくても、公式ホームページからリンクが貼られている等、確証がない限りは、それが公式だと安易に信用してはいけません。これはもちろん、企業だけでなく著名人のアカウントも同様。今回を教訓に、公式アカウントも、一般ユーザーも、今後はより高いリテラシーと慎重な判断力を持って、SNSを利用するべきと言えそうです。
なお、この記事を執筆している最中の9月18日、削除されたはずのアカウントが今度は「偽のセリア、ニセリア」と名前を変えて復活していました。本人は「前垢の人とは関係ない」と言い張っていますが……この事件、もう少し尾を引くことになるかもしれません。自称Seria店長の行く末やいかに。
■ 【追記:続報について】
本稿の内容には続報があります。次の記事で公開しています。
▼Seriaの偽アカウントが売買されたか?削除されたはずが非公開で復活→「このアカウントを購入しました」と宣言
https://otakuma.net/archives/2023092506.html
<参考・引用>
セリア公式HP「SNSの偽公式アカウントにご注意ください」
(宮崎美和子/山口弘剛)