おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

「つま楊枝の頭」はどうしてあの形? つま楊枝メーカーに聞いてみた

 つま楊枝の「頭」の部分に施されたデザイン、あれはどんな意味があるんでしょう?中には「先端を折って『箸置き』のように使う」や「柳家金語楼の発明」と解説するウンチク系の記事もありますが、実際のところはどうなのか、国産つま楊枝メーカーに問い合わせてみました。

  •  つま楊枝の「頭」について、お話をうかがったのは、大阪府河内長野市にある菊水産業株式会社。輸入物が多くを占めるようになった現在も、材料を含めた国産つま楊枝製造を続けているメーカーで、新型コロナウイルス禍に対応した「つまようじ屋の非接触棒」でも話題になりました。

     河内長野市は、古くから農家の副業として黒文字楊枝(クロモジという木で作るお茶席などで使われる楊枝)の生産が盛んな土地で、国産つま楊枝の製造シェアは、過去は国内でのシェア95%を占めていたという、つま楊枝の一大生産地で地場産業として発展しました。しかし、現在一般的に流通している、頭の部分がこけしのようになっている「こけし楊枝」は輸入物が主体となっており、地場産業として地元で国産つま楊枝を作っているのは菊水産業のみ。全国的に見ても菊水産業を含めて2社しかないそうです。

     さて、その「こけし楊枝」のデザインは何のため?単刀直入にうかがうと「飾りです」と、拍子抜けするくらい単純な答えが返ってきました。しかしこのデザイン、製造上の必要に迫られて考案されたものだったのです。

     菊水産業さんによると、このデザインが誕生したのは1961(昭和36)年頃のこと。当時の爪楊枝組合によって考案されたんだそうです。

     それまで、つま楊枝の作り方は、倍の長さを持つ木材の両端を細く削り、真ん中を丸ノコで切断していたそうです。しかし、この製法だと頭の部分になる切断面が毛羽立ってしまい、そこから「ささくれ」ができて商品が痛むことが多かったといいます。

     そこで丸ノコに代わり、グラインダー(砥石)を高速回転させ、ささくれを削り取ることで断面は綺麗になりました。しかし、今度はグラインダーとの摩擦熱で切断面が焦げて黒くなり、汚れているように見える、という新たな問題が発生。汚れに見えて売れなくなるかもしれない、と当時のつま楊枝事業者たちは頭を悩ませました。

     この黒い部分をどうにか処理できないか……と思っているところで偶然目に入ったのは、民芸品の「こけし人形」。切断面をこけし人形の「黒い頭」に見立てることはできないだろうか、という逆転の発想が生まれました。

     民芸品のこけし状に側面を溝をつけるように削ってみたところ、黒い切断面が黒髪の頭のように見え、かわいいデザインとして成立しそうです。これならいける!と、切断後の側面に溝付きの砥石で溝を彫り、現在の「こけし楊枝」が誕生したんだとか。


     当時はなかなか受け入れられず大変苦労したそうですが、河内長野産のつま楊枝は国内製造シェアの9割を占めていたこともあり、全国的に「こけし楊枝」のデザインが徐々に定着していった、ということのようです。

     ちなみに、落語家・コメディアンの柳家金語楼が発明した、という説を検証するため、独立行政法人工業所有権情報・研修館が提供するオンラインデータベース「J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)」で検索してみたのですが、柳家金語楼(ヤナギヤ キンゴロウ)および本名の山下敬太郎(ヤマシタ ケイタロウ)では、つま楊枝(ツマヨウジ)に関する実用新案・意匠・特許は確認できませんでした。

     検索結果で最も古い出願日が1971年だったので、検索の範囲外になっている可能性もありますが、柳家金語楼発明説は、今回調べた限りでは検証不可能なもののようです。

     つま楊枝の「頭」に施されたデザインは、折って「箸置き」のように使うためのものではなく、製造工程で避けられない「切断面の焦げ」をこけしの頭に見立てた、デザイン上の工夫であることが分かりました。品質向上に努めるメーカーの姿勢が生んだ、逆転の発想だったのですね。

    <記事化協力>
    菊水産業株式会社(@kikusui_sangyo)
    <参考>
    独立行政法人工業所有権情報・研修館「J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • ドレッシングは縦より横振りが効率的? キユーピー公式の検証が話題に
    インターネット, びっくり・驚き

    ドレッシングは縦より横振りが効率的? キユーピー公式の検証が話題に

  • 白菜の黒い斑点はポリフェノールだった 農林水産省が「捨てないで」と呼びかけ
    ライフ, 雑学

    白菜の黒い斑点はポリフェノールだった 農林水産省が「捨てないで」と呼びかけ

  • 缶コーヒーの「#マーク」に隠された意味 コカ・コーラ社に聞いた“色が変わる理由”
    ライフ, 雑学

    缶コーヒーの「#マーク」に隠された意味 コカ・コーラ社に聞いた“色が変わる理由”…

  • ほっかほっか亭、「書体をデザインした人」を捜索へ
    企業・サービス, 経済

    ほっかほっか亭、「書体をデザインした人」を捜索へ 創業50周年に“感謝を伝えたい…

  • メガネレンズの「HOYA」の呼び方はホーヤ?ホヤ?
    企業・サービス, 経済

    メガネレンズの「HOYA」の呼び方はホーヤ?ホヤ?

  • あなたは知ってた?プレイステーション2本体のPSロゴに搭載されたギミック
    ゲーム, ニュース・話題

    あなたは知ってた?プレイステーション2本体のPSロゴに搭載されたギミック

  • 画像出典:バンダイナムコアミューズメント公式Xアカウント(@bnam_jp)
    ゲーム, ニュース・話題

    太鼓の達人の意外な事実をバンダイナムコ公式が紹介

  • ファミマの都市伝説、赤い看板と青い看板
    企業・サービス, 経済

    ファミマの「酒 たばこ」の看板の色で店舗の前世が分かる説 本当か確かめた

  • 「スイカゲーム」のオレンジ色のフルーツは柿だった 任天堂公式が明言
    ゲーム, ニュース・話題

    「スイカゲーム」のオレンジ色のフルーツは柿だった 任天堂公式が明言

  • 画像提供:strider@2048さん(@GrandMaster2048)
    インターネット, おもしろ

    ファミコンの2コンのマイクに関する雑学 本物の穴は1個だけ

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • ニキータ・ビア氏の投稿
    インターネット, サービス・テクノロジー

    X、API改定しリプライ浄化 報酬目当ての投稿アプリを出禁

  • 「ゆるキャン△」タイアップ 林野火災予防リーフレット
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    消防庁が「ゆるキャン△」とタイアップ 山火事予防を呼びかけるリーフレット制作

  • 派閥争い終結か!?きのこの山とたけのこの里、マックフルーリーで共闘
    商品・物販, 経済

    派閥争い終結か!?きのこの山とたけのこの里、マックフルーリーで共闘

  • ねるねるねるねアイスバー
    商品・物販, 経済

    テーレッテレー♪ねるねるねるねがアイスに変身 “あたりつき”40周年記念商品を発…

  • 福岡市、生活保護をめぐるSNS情報を否定 投稿者の開示請求へ
    インターネット, 社会・物議

    福岡市、生活保護をめぐるSNS情報を否定 投稿者の開示請求へ

  • 狂愛ストーリー「ホタルの嫁入り」テレビアニメ化 ノイタミナ枠で放送
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    狂愛ストーリー「ホタルの嫁入り」テレビアニメ化 ノイタミナ枠で放送

  • トピックス

    1. 九州の2大巨頭が夢のコラボ 「ブラックモンブランマンハッタン」食べてみた

      九州の2大巨頭が夢のコラボ 「ブラックモンブランマンハッタン」食べてみた

      九州で育った方なら、誰もが知る2つのソウルフード、竹下製菓のアイス「ブラックモンブラン」と、リョーユ…
    2. ニキータ・ビア氏の投稿

      X、API改定しリプライ浄化 報酬目当ての投稿アプリを出禁

      SNS「X」が、ここ最近リプライ欄を埋め尽くしていた「意味不明な“ヨイショ”投稿」に、ついにメスを入…
    3. 覚悟して食べた昆虫食 セミ・ゴキブリ・カブトムシの中で一番おいしかったのは?

      覚悟して食べた昆虫食 セミ・ゴキブリ・カブトムシの中で一番おいしかったのは?

      東京・吉祥寺を歩いていたところ、思わず二度見してしまう自動販売機に出会いました。売られていたのはジュ…

    編集部おすすめ

    1. 生成AI「Grok」を巡りXが安全対策を強化 編集部が体験した監視の実態

      生成AI「Grok」を巡りXが安全対策を強化 編集部が体験した監視の実態

      昨年12月末、画像編集機能を搭載したことで物議をかもした、X(旧Twitter)の生成AI「Grok」。そのGrokをめぐり、Xの公式安全対…
    2. ねるねるねるねアイスバー

      テーレッテレー♪ねるねるねるねがアイスに変身 “あたりつき”40周年記念商品を発売

      クラシエ株式会社(フーズカンパニー)は、発売から40周年を迎えるロングセラー菓子「ねるねるねるね」を記念し、「ねるねるねるねアイスバー」を2…
    3. 福岡市、生活保護をめぐるSNS情報を否定 投稿者の開示請求へ

      福岡市、生活保護をめぐるSNS情報を否定 投稿者の開示請求へ

      福岡市は1月13日、SNS上で拡散されている「福岡市で生活保護を断られた母子3人が亡くなった」とする動画や投稿について、「事実ではありません…
    4. クレーンゲーム機「クラウン602」

      タイトー、幻のクレーンゲーム機を全国指名手配 有力情報に賞金10万円

      ゲームセンターの片隅に、あるいは閉店した商店の倉庫に、ひっそりと眠っているかもしれません……。タイトーが今、全国に向けて“指名手配”している…
    5. ぐるなび、個人情報流出を否定 SNS投稿巡り調査結果公表

      ぐるなび、個人情報流出を否定 SNS投稿巡り調査結果公表

      飲食店情報サイト「ぐるなび」を運営する株式会社ぐるなびは1月8日、同社の個人情報流出を巡るSNS上の投稿について、公式サイト上で「調査の結果…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト