おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

渡部陽一も思わず早口に!? 初の映像作品は山形の「ものの婦」

update:

 戦場カメラマンの渡部陽一さんが初の映像作品を監督。山形県のものづくりを支える女性たちを追った動画「ものの婦」が、2018年2月26日に公開されました。普段ゆっくりと噛みしめるように話す渡部さんが、撮影中に思わず早口になってしまったという、その内容。


  •  山形県のものづくりを追う動画を撮影することになった渡部陽一さん。いわゆるスチール撮影では豊富な経験を持つ渡部さんですが、動画(ムービー)の撮影はこれが初めて。撮影用のリグなど、初めて見る撮影機材ばかりで、まず使い方などを教わったそうです。

     スチール写真と映画を両方手がけた人物もいますが、基本的には違う方法論で撮影されることが多く、なかなか難しいものです。渡部さんによると、普段の写真撮影では「一撮入魂」といった感じだそうですが、今回の映像作品については「相手の方の声だけでなく、振る舞いの動きのシルエットであったり、周りの気配だったり、色の変化であったりを捉えることができる」という違いを魅力として感じたそうです。

     撮影では、ものづくりの現場で日々情熱を持ち、ひたむきに戦い続ける女性職人を現代社会における「武士(もののふ)」と捉えて、そのようなコンセプトで渡部さんは臨んだそうです。ものづくりの「もの」ともかかってるような気がしますね。

     今回の撮影で訪ねたのは、杜氏の夫と完全手作りの酒造りに励む女性や、生まれも育ちも東京でありながら、強い信念のもとアポなしで弟子入りを志願し、剪定鋏職人の道を歩み始めた女性、現役最年長の段通職人の女性、そしてブランドのハイエンドモデルを製造する時計工場で、最難関の技能検定をクリアしたマイスターの女性など。いずれも道を極めたり、極めようとする人々です。


     戦場でも「ひと」に迫る撮影手法で知られる渡部さん。同じように、ものづくりに取り組む山形の女性たちの表情や、ものを生み出すその手に注目して迫っていきます。確かに、真剣に仕事に臨むその表情は「もののふ」のよう。さすがに被写体の女性たちは、あまりにグイグイ接近してくるので最初は面食らったそうですが、渡部さんの「おぉ、素敵です」「笑顔がバッチリ撮れました」などといった柔らかい言葉で、徐々に緊張がほぐれていったそうですよ。


     そしてスタッフに撮影の指示を出す渡部さん、いつもの噛みしめるようなゆっくりした口調ではなく、キビキビと早口になっています。被写体となった「ものの婦」の女性たちの空気に影響されていったんでしょうか。早口になったとはいえ、柔らかな口調は変わらず、周りの人に対する気配りも変わりません。その辺りは、やはり性格なんでしょうね。

     BGMは、山形を代表する民謡「花笠音頭」のクラシックアレンジ。ピアノとチェロが響き合う、温もりのある曲調です。青い段通にタイトルが浮かび上がるカットは、往年の「新日本紀行」を思い出させます。このタイトル文字やナレーションも渡部陽一さんによるものです。

     制作を終えた渡部さんインタビュー

     ――山形 の「ものの婦」を実際に撮影して、どんなことが印象に残っていますか?

    「一番は目の動きですね。最初、カメラを脇に置いて話し出すと、優しいお母さんの目になるんです。でも、いざカメラを回し出すと、職人さんの目になる。僕は個人的に接近型の撮影が好きなんですけど、目を撮影する中で気付いたのは、一点に集中しつつも、わずか1センチぐらいの瞳の中で、カチャカチャ細かくフォーカスが動いているんですよ。その目の動きに、どの職人さんのお話の中でも出ていた、山形の『ものの婦』がその地で継承してきた、作ったものを使う人への“気配り”というキーワードが現れている気がしました」

    ――「ものの婦」をインタビューするシーンは、どんな思いで臨みましたか?

    「職人さんを何よりもリスペクトするのは、毎日コツコツ何十年もかけて磨き続けた技を、そこに根付かせていくことなんですね。そういう自分が決断した道をぶれずに極めていく気持ちというものは、一体どこから生まれてきて、今も整え、保っているのか。継続の力、不動の力を知りたいと、職種を問わず感じていました。お話する中で、山形の『ものの婦』は厳しさもあり、職人として向き合って行く考え方も根付いていると感じましたが、特に印象に残っているのは、私はモノを作りたかった、という非常にシンプルな言葉です。モノを作りたいから、私 ここで暮らして、家族の時間を大切にしていると。僕だけでなく、日本のどの地域の方も、日常の中で本当に大切なことってなんだろう、大切にしたいと思っていることってなんだろうって考えることがあると思います。そんな不安を取り払い、温かい期待を抱かせる魅力が、山形にはたくさんあると感じました」

     戦場で様々な人を見つめてきた渡部陽一さんの目が、山形で何を捉えたのか。そこに注目すると、この動画「ものの婦」は、非常に興味深いものになると思います。

     画像提供:山形県

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 山形県山辺町公式Xアカウントが投稿した写真
    インターネット, 社会・物議

    桜の名所にタイヤ痕、公園でドリフト走行か 山形県山辺町がマナー遵守呼びかけ

  • 画像提供:スタジオセディック庄内オープンセット公式SNS(@shonai_os)
    インターネット, おもしろ

    秘境ロケ地の魅力とは?山形「スタジオセディック庄内オープンセット」が正直お知らせ…

  • 「うちはこういう企業です」山形県の機械メーカー「江口産業」が「QRコードキューブ」で会社紹介。
    インターネット, おもしろ

    うちはこういう会社です!機械加工メーカーの技術PR作品 江口産業作「QRコードキ…

  • 生きているかのように自在に動く蟹の陶器を作った陶芸家がTwitterで話題。
    インターネット, びっくり・驚き

    モクズガニの可動陶器 “自在置物”テーマにした高い技術に目を奪われる

  • 山形県で和菓子店を営む土屋さん。この日は花火をイメージした創作和菓子を投稿。
    グルメ, 商品・サービス

    夏の風物詩を和菓子で表現 異色の経歴を持つ「和菓子表現家」が魅せる色鮮やかな「花…

  • インターネット, 社会・物議

    「殺人ゲームの始まりです」 各地に予告相次ぐ

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…
    アニメ/マンガ, 声優

    朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

  • モランボン、肉主役の「肉肉麻婆豆腐の素」発売 社内の豆腐派を説得して実現
    商品・物販, 経済

    モランボン、肉主役の「肉肉麻婆豆腐の素」発売 社内の豆腐派を説得して実現

  • 麻婆豆腐ごはん中辛
    商品・物販, 経済

    お湯を注いで5分、丸美屋の“即席麻婆ごはん” 開発2年半のこだわり詰めて発売

  • KADOKAWA、がおう氏の書籍絶版・配信停止を発表 未成年トラブル報道受け
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    KADOKAWA、がおう氏の書籍絶版・配信停止を発表 未成年トラブル報道受け

  • 「YOASOBEER PROJECT」の新TV-CMおよびWEB-CM「UNDEAD」篇
    エンタメ, 音楽・映像

    YOASOBI×サントリー新CM公開 ダウ90000の蓮見・園田・上原がゲーム開…

  • トレーディングカード「Map Design GALLERY CARD/有人離島」
    商品・物販, 経済

    ゼンリン、日本の「有人離島トレカ」を発売 レア度は“人口”で決まる

  • トピックス

    1. 黄身を割ったら味が化けた 松屋「今治焼豚玉子飯」は予想以上の満足感

      黄身を割ったら味が化けた 松屋「今治焼豚玉子飯」は予想以上の満足感

      松屋が7月29日に、新メニュー「今治焼豚玉子飯」を発売しました。愛媛県今治市発祥のご当地グルメで、市…
    2. 兵庫県・宝塚大劇場(撮影:おたくま経済新聞)

      アラフォー男性、人生初の宝塚観劇 花組公演「悪魔城ドラキュラ」ライブ配信で体験してみた

      7月20日、宝塚歌劇団花組公演「悪魔城ドラキュラ ~月下の覚醒~」「愛, Love Revue!」を…
    3. 「使わなくなった旧Switch」どうする? Xで注目、“寄贈”という選択肢

      「使わなくなった旧Switch」どうする? Xで注目、“寄贈”という選択肢

      徐々に流通量が増えてきたNintendo Switch2。入手後、もともと持っていたNintendo…

    編集部おすすめ

    1. 朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      アニメ「鋼の錬金術師」エドワード・エルリック役などで知られる声優・朴璐美さんが、7月27日に自身のX(旧Twitter)を更新。新幹線車内で…
    2. 男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      生理やPMS(月経前症候群)などの不調を我慢せず、自分に合った「もう一つの選択肢」を持てる社会を目指すツムラの取り組み「#OneMoreCh…
    3. 子の夏休み=親は常に戦闘モード “戦士のような母”の後ろ姿が話題に

      子の夏休み=親は常に戦闘モード “戦士のような母”の後ろ姿が話題に

      子どもにとっては待ちに待った夏休み。しかし親にとっては……。我が子が夏休みに突入したある母の後ろ姿が、まるで“戦士”のようだとXで話題を集め…
    4. KADOKAWA、がおう氏の書籍絶版・配信停止を発表 未成年トラブル報道受け

      KADOKAWA、がおう氏の書籍絶版・配信停止を発表 未成年トラブル報道受け

      株式会社KADOKAWAは7月23日、イラストレーター・がおう氏に関する一連の報道を受け、同氏が関与した複数の出版物について、紙書籍の回収・…
    5. トレーディングカード「Map Design GALLERY CARD/有人離島」

      ゼンリン、日本の「有人離島トレカ」を発売 レア度は“人口”で決まる

      株式会社ゼンリンが7月18日に、日本の「有人離島」をモチーフとしたトレーディングカード「Map Design GALLERY CARD/有人…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト