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塗膜の抗菌効果を可視化する評価系を開発

update:
   
日本ペイントホールディングス株式会社
――院内感染等を予防する材料の開発への貢献が期待――



発表のポイント
- 塗膜上での細菌の増殖をリアルタイムで可視化し、抗菌効果を評価することに成功。
- 従来の国際標準化機構規格では評価できなかった塗膜表面における細菌の空間分布の情報を連続的に取得。
- 抗菌塗膜の正確な性能評価による、感染症予防への貢献が期待される。

[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7223/359/7223-359-12d017a059776a6ad5ec68415da63b00-1195x556.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
抗菌塗膜上で細菌の増殖が抑制される様子をリアルタイムで可視化

概要
 東京大学大学院系研究科の中村乃理子助教、太田誠一准教授らと日本ペイント株式会社の宮前治広研究員らの研究グループは、塗膜の抗菌効果をリアルタイムで可視化する評価系を開発しました。
本研究では緑色蛍光タンパク質(注1)を発現する大腸菌と蛍光観察装置を用いることで、数センチメートル四方の塗膜上で細菌が増殖する様子を連続的に観察することに成功しました。従来の国際標準化機構(ISO)(注2)規格では評価できなかった塗膜上における細菌の空間分布の時間変化の解析が可能になりました。撮影した蛍光画像を複数の定量的な指標に変換し、塗膜の大きさや培養液量が評価結果に与える影響を系統的に検討し最適化しました。最適化した観察条件に基づき、感染症予防のために開発された抗菌塗膜(注3)の効果の実証に成功しました。今後、さまざまな抗菌塗膜の効果をより正確に評価し普及を促進することによる、感染症予防への貢献が期待されます。
本研究成果は、2025年1月31日(英国時間)に英国科学誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されます。

発表内容
研究の背景
 COVID-19に代表されるような感染症の予防のためには、医療施設や公共交通機関などで人が頻繁に触れる場所に抗菌、抗ウイルス性の塗膜を用いることが有効です。従来、このような抗菌塗膜の性能評価にはISO規格が用いられてきましたが、この手法は塗膜上で増殖した菌を培地で洗い出してから寒天培地上で再度培養して評価するため、空間的な菌の分布やリアルタイムの情報を得ることは不可能でした(図1a)。また、塗膜上に播種する細菌の密度などさまざまな要因が評価結果に影響することが明らかにされてきましたが、これらの要因の系統的な検討に基づく最適化は不十分であるという問題がありました。以上の理由から、抗菌塗膜の性能をより正確に評価し、かつ、消費者に視覚的に訴え製品の普及に貢献するような新たな評価系が求められていました。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7223/359/7223-359-5a6d7f148e63aede96b421b9bb9721a5-1064x774.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:塗膜の抗菌性能の評価系 (a)従来の国際標準化機構規格 (b)本研究で開発した手法



研究内容
 本研究グループは、緑色蛍光タンパク質を発現する大腸菌を使用し、LED光源、光学フィルター、デジタルカメラを組み合わせた蛍光観察装置で画像を取得することにより塗膜上で増殖した細菌の空間分布をリアルタイムで可視化することに成功しました(図1b)。従来の蛍光顕微鏡を用いた観察では数マイクロメートル四方という非常に小さな面積の塗膜上の細菌の空間分布しか評価することができず、観察対象も励起光が透過できる透明な塗膜に限られていましたが、本手法では独自の観察装置を用いることにより数センチメートル四方の不透明な塗膜上の細菌の空間分布を連続的に取得することに成功しました。取得した蛍光画像を蛍光タンパク質の平均輝度、塗膜中央に引いた直線上の輝度分布、塗膜全体における輝度のばらつきという定量的な指標に変換し、塗膜の大きさや培養液量が評価結果に与える影響を系統的に検討しました。最適化した観察条件に基づき、ISO規格でもすでにその性能が評価されている抗菌塗膜上で細菌の増殖が大幅に抑制される様子をリアルタイムで可視化し抗菌効果を実証することに成功しました(図2)。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7223/359/7223-359-e6f3e40f2217d15957f0089caea13cc5-1113x1092.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2:(a)抗菌塗膜上で増殖が抑制された緑色蛍光タンパク質発現大腸菌の蛍光観察像。(b)抗菌剤非配合塗膜上で増殖する緑色蛍光タンパク質発現大腸菌の蛍光観察像。(c) 画像解析によって得られたそれぞれの塗膜上での平均輝度の時間変化。


本手法は蛍光タンパク質を発現させた他の細菌種にも幅広く適用することができ、今後、病原性細菌を用いたより実用的な評価が可能になります。本手法を用いることにより、さまざまな抗菌塗膜の性能をより正確に評価し、また、リアルタイムでその効果を可視化することで製品の普及を促進し感染症予防に貢献することが期待されます。
本研究は、東京大学と日本ペイントホールディングス株式会社との産学協創協定における具体的活動として設置された社会連携講座「革新的コーティング技術の創生」の共同研究テーマの1つとして推進されました。この社会連携講座は、2020年10月1日~2025年9月30日までの5年間、設置しています。 

発表者・研究者等情報                                        
東京大学 大学院工学系研究科
太田 誠一 准教授
中村 乃理子 助教
山岸 達希 修士課程
永田 渉 修士課程
赤羽 祐紀 研究当時:修士課程
徐 へミン 研究当時:修士課程
大塚 彩加 修士課程

日本ペイント株式会社
菱川 大輝 研究員(技術統括本部 開発部)
吉本 理紗 研究員(マーケティング本部 広報部)
宮前 治広 研究員(技術統括本部 鉄構塗料技術部)

論文情報                                          
雑誌名:Scientific Reports
題 名:Systematic study on the evaluation method of surface antibacterial activity based on the fluorescent observation of bacterial growth
著者名:Noriko Nakamura, Tatsuki Yamagishi, Wataru Nagata, Yuki Akahane, Hyemin Seo, Ayaka Otsuka, Daiki Hishikawa, Risa Yoshimoto, Nobuhiro Miyamae, Seiichi Ohta*
DOI:10.1038/s41598-024-81945-3
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-024-81945-3

用語解説
(注1)緑色蛍光タンパク質:
紫外線あるいは青色光によって励起され緑色の蛍光を発する天然由来のタンパク質です。細胞や生物に簡便に導入することができ、バイオテクノロジーやイメージングの分野で非常に重要なツールとなっています。

(注2)国際標準化機構(ISO):
技術、製造、医療、環境など幅広い産業分野において品質、安全性、効率性、相互運用性を確保するための規格を開発、発行する非政府の国際機関です。1947年に設立され、スイスのジュネーブに本部を置いています。

(注3)抗菌塗膜:
本研究では、日本ペイント株式会社より市販されている抗ウイルス・抗菌材料を配合した室内壁面用塗料「PROTECTON(R)インテリアウォールVK-500」を使用しました。

問合せ先
(研究内容については発表者にお問合せください)

東京大学大学院工学系研究科
准教授 太田 誠一(おおた せいいち)
Tel:03-5841-0483 E-mail:s-ohta@sogo.t.u-tokyo.ac.jp

東京大学大学院工学系研究科 広報室
Tel:03-5841-0235 E-mail:kouhou@pr.t.u-tokyo.ac.jp

日本ペイントホールディングス株式会社 広報部
Tel:050-3131-7416 E-mail:nphd-kouho@nipponpaint.jp

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