イオンが7月31日、2026年のおせち商戦に向けた新商品発表会を都内で開催。トップバリュ史上最大となる「75品目」のおせちや、有名シェフとコラボしたおせち、人気漫画とのコラボおせちなど多数がお披露目されました。
発表会ではおせちのコラボをした有名シェフ3名が登壇するトークセッションのほか、各おせちの中からイオンいちおしの具材をピックアップした「おせちランチ」の試食会も実施。注目のおせちを、一足早く体験しました。
■ なぜ夏シーズンにおせちの新作発表なのか?背景にある顧客の声
近ごろお盆の時期に「年末年始用のおせちを早めに選びたい」という声が増えており、2024年の8月1日から9月1日の期間に実施したおせちの早期予約は、前年比で約3倍に伸長。
今年も自社ECサイト「イオンショップ」にて、8月1日から一部おせち商品の早期予約が開始されます。9月1日からは「イオン」「イオンスタイル」など約380店舗とWebサイトで、本格的な予約が展開される予定です。
そして今年は前年の反響を受け、客の選択肢を広げたいという想いから、予約可能なおせちの品数を4品目から6品目へと拡大。
最大9連休となる、今年度の年末年始シーズン。帰省先や自宅などで家族、親戚が一同に介する機会が増えると予想されることから、イオンは世代を問わずに楽しめる多彩なおせちが多数用意されます。
発表会はまず、イオン株式会社 取締役 執行役副社長 商品・物流担当の土谷美津子氏が登壇。おせち市場の動向と、消費者ニーズについての説明から始まりました。
今年度はお盆と年末年始の連休がそろって長期に及び、さらに猛暑や物価上昇にともなって「巣ごもり需要」が高まるとの予想から、イオンは例年になく年末年始を重視する考えでいるとのこと。
一見、季節外れにも思える夏シーズンに、なぜおせちの新作発表および早期予約を開始するのでしょうか。
土谷氏は背景に「年末に買おうと思ったら欲しいおせちが売り切れた」「子どもが楽しみにしていたメニューが買えなかった」「帰省してきた孫たちと一緒におせちを選びたかった」といった顧客の声があると指摘。
「おせちという日本の伝統文化、これを大切に守りながら、より自由に選んでいただけるという場を整えていきたい。ちょうどいい多様な選択肢ということを考えている」としました。
伝統を守りつつ新しいことに挑戦したおせちの一例として上がったのが、2024年に初めてトップバリュが取り組んだ「饗宴(きょうえん)」。
過去最多73品目を盛り込んだ同商品は、重量が3キロ近くもある特大サイズのおせち。しかし消費者から“コスパ”が高いとして、非常に高い評価を得たとのことです。土谷氏は「オードブル感覚で、よりおせちを楽しんでいただけたのではないか」とも述べました。
一方でお買い得な1万円の「慶」や、1〜2人用の「結」も好調だったとのことで、消費者の2極化が見て取れる、とも話しています。
おせちについてはメインで食べる人もいる一方で、オードブルの1つとして食べる人も多く見受けられると指摘。「おせちの定義が伝統を守りながら、楽しさ重視の時代に変わってきてるなというふうに感じています」と所感を述べています。
昨年反響を呼んだ「饗宴」は品目数を73から75に増やし、再び登場。課題となっていた「解凍が難しい」「冷蔵庫に入りきらない」といった点についても、チルド配送をすることで対応するとのことです。
さらに北海道から沖縄まで各地の味と伝統を盛り込んだおせちも用意するなどして「伝統を守りながら楽しさを重視する」というコンセプトを追求。
土谷氏は「おせちの様式を変えるのではなくて、暮らしの変化に応えて食卓の笑顔を守るということを、私たちはこれから取り組んでいきたい」と結びました。
■ 和・洋・中の一流シェフ3名が共演する豪華な三段重が登場
続いて登壇したのはイオントップバリュ株式会社 取締役 商品開発本部 本部長の高橋幹夫氏(高橋氏の高の字は正しくははしごだか)。トップバリュの2026年の新春おせちの詳細について述べました。
目玉の1つとなっているのが、和・洋・中それぞれの一流シェフが監修した「集」。
一の重となる「和の重」を日本料理「一凛」の料理長を務める橋本幹造氏が、二の重となる「洋の重」を、リストランテ「アクアパッツァ」の日高良実氏(日高氏の高の字は正しくははしごだか)が、三の重となる「中華の重」を「慈華 (itsuka)」の田村亮介氏が監修した、豪華な三段重です。
和、洋、中と重ごとに世界観が異なる中、1つ共通して盛り込まれているのはローストビーフ。1つの素材にそれぞれの異なるこだわりが込められており、食べ比べて楽しむことができるようになっているとのことです。
また「和の重」の橋本氏は、「プロのひと品」シリーズの和風与段重「頂華(ちょうか)」も監修。こちらは厳選した素材を使用しており、本体価格が5万円と、トップバリュ最高級のおせちとなっています。
一方で価格や量ゆえに手を出せない、という声を受けて、和風二段重「煌華(こうか)」も用意。こちらは「頂華」のこだわりをそのままに、本体価格2万9800円の二段重、という少し求めやすい品として登場しています。
そのほかのラインナップとしては、食品添加物不使用の和風二段重「瑞(みずき)」、吟味した国産原料を用いた和風三段重「極(きわみ)」、伝統的な純和風おせち「愉(たのしみ)」などが用意されているとのことです。
■ 「冷凍して解凍する」の難しさ……一流シェフのこだわりを記者自らの舌で実感
発表会は高橋氏のプレゼン時に名前が挙がった3名のシェフに、イオントップバリュ株式会社 商品開発本部 副本部長の池内基恵氏をくわえた、4名でのトークセッションに。
セッション開始前に記者が着席するテーブルには、トップバリュのおせちの中から、いちおしの具材をピックアップした「おせちランチ」がサーブされました。
御膳に並んだのは各おせちから選りすぐった全15品。3シェフが監修した「集」からは「かがみ鯛のエスカベッシュ」「海老チリ」「ローストビーフ」が選ばれています。
そのほか最高級おせちの「頂華」からは「里芋煮・れんこん煮・椎茸煮」「笹巻団子(ミルク・紫芋・柚子)」、最大級のおせち「饗宴」からは「ハンバーグ(トマトソース)」が選ばれています。
トークセッションが始まると、進行役からそれぞれへ「特にこだわった部分を教えて下さい」という質問が投げかけられました。
「和の重」を監修した橋本氏は、内容にはもちろんこだわったとしつつ、ともに監修した「洋の重」の日高氏、「中華の重」の田村氏の存在が、実は一番のプレッシャーだったと告白。2人の料理といっしょに自身の料理を口にしてもらうということに、重圧を感じていたとのことです。
日高氏はこだわりについて、自身が監修するのがおせちの伝統からは少しそれたイタリアンであることから、「遊びを入れてもいいところがある」と指摘。「お正月にたべるというよりも、12月31日にみんなが集まって、楽しんで食べるオードブル的な、そのような感じで作っています」と語りました。
田村氏は、中華料理というものは「熱々」の状態が好まれると述べ「それをやはり冷たいとか常温の状態でいかに美味しくする」というところにこだわったと話しました。くわえて今回のおせちは「冷凍して解凍する」というもう1つ別のフェーズがあるため、その部分でもさまざまに悩んだとのことです。
そんな「冷凍して解凍する」の難しさについては、橋本氏と日高氏も共感。具体的なメニューとして日高氏は、今回の「おせちランチ」にも登場している「かがみ鯛のエスカベッシュ」を挙げました。
「酸味がほどよい具合になかなかいかなかった」と苦労を語りながらも、「かなりやりとりをして調整させていただいたので、結構うまくいってると思います」と自信を滲ませました。
実際に日高氏が手掛けた「かがみ鯛のエスカベッシュ」を口に運んでみると、ビネガーとマリネ液のさっぱりとした酸味をほどよく感じることができました。
かがみ鯛自体もふんわりと柔らかく、苦労の気配を感じさせないほどの仕上がりです。
続いて田村氏は「食感」の再現に苦労したと話し、特に「海老」に難しさを感じたことを明かしました。
「おせちランチ」に登場している「海老チリ」を具体例に挙げ「海老の周りに薄い衣をつけているんですけど、冷凍して解凍すると、衣が剥がれやすくなる」とコメント。こちらもやり取りを重ね、またトップバリュ側の専門的な知見を聞きながら、どうにか完成にこぎつけたとのことでした。
こうした苦労話を耳に入れつつ、手元に用意された「海老チリ」をいただいてみると……歯を突き立てた海老の身は、冷凍とは思えないほどぷりぷり状態。旨味たっぷりのチリソースがしっかり絡み、冷凍・解凍を経て提供された商品とは思えない美味しさでした。
また、池内氏は3シェフが共通で取り組んだメニューである「ローストビーフ」に言及。
「ローストビーフ」はトップバリュのおせちのメニューの中で1番の人気メニューであることから、今回の取り組みが決まったと説明しました。
「おせちランチ」に用意されたローストビーフを口にしてみると、同じメニューでありながらも、シェフが違うだけでここまで変わってくるのかと驚かされる一品。
三者三様の美味しさがあり、家族や親戚で「どれが一番好きだった」と言い合うと、よりおせちを楽しむ事ができるのではないかと感じました。
今回3名のシェフに1つのおせちを監修してもらった狙いについて池内氏は「料理人の中での第一人者、そのプロの共演の中で、何か新しいものが生まれるのではないか」といったものがあったとコメント。シェフたちの共演により「おせちの違うステージに行けたのかなと思います」と話しました。
■ 推し活や進化系を軸にした商品も!新しい風を吹き込むインパクト抜群のおせちたち
トークセッションの後は、イオンリテール株式会社 食品本部 デリカ商品部 部長の金子聡氏が登壇。イオンリテールの2026年新春おせちについて説明しました。
イオンリテールのおせちは「多様化するニーズへの対応」「次世代・推し活ニーズへの対応」「2026年を彩る進化系おせち」の3点を軸にして展開。
「多様化するニーズへの対応」の一例としてあがったのが、健康志向ニーズに応えたおせち。
五大栄養素をバランスよく摂れるように具材を選定した、和洋一段重です。金子氏は「栄養バランスだけでなく、見た目でも楽しめる華やかなおせちとなっています」と述べました。
2つ目の「次世代・推し活ニーズへの対応」として挙がったのが、人気漫画「名探偵コナン」とコラボした「名探偵コナンおせち2026 探偵たちの饗宴」です。
おせちを食べ慣れていない人が馴染みやすいよう、ローストビーフやグラタンなど洋風の具材が多めに盛り込まれているほか、原作漫画の世界観も追求。主人公が着用する「蝶ネクタイ型変声機」を模した練り切りなどが用意され、楽しみながら食べることができるようになっています。
3つ目「2026年を彩る進化系おせち」の説明の中に登場したのが、インパクト抜群なビジュアルをした「おせちの宴杯」。
従来の重箱ではなく、「大杯」と呼ばれる大きな円形の容器が使用され、和洋の具材が豪快に盛り込まれています。ローストビーフやロブスター、花咲ガニなどを使用したメニューは華やかで、お祝い感が満載。金子氏は「五穀豊穣や平和への願いも込めて商品化しております」と、ビジュアルのみならずコンセプトも含めて“縁起のよさ”にこだわっていると話しました。
■ イオンが徹底的にこだわり抜く「お正月の価値」
最後は土谷氏、高橋氏、池内氏が再登壇し、質疑応答の時間に。
早速投げかけられたのは、トークセッションなどでたびたび挙がっていた「チルドにすることの、供給サイドとしての難しさ」についての質問。
これに関しては高橋氏が「配送日が、チルドにすることで、12月30日、31日に限られてきます」とコメント。
それによって作業が集中してしまうというデメリットがありつつも「それに勝る美味しさをご提供できるという風に考えております」としました。
「他社との競争環境についてはどのように見ているのか」という質問については、土谷氏が回答。
競合他社も伸長している事実を受け止めつつ、イオン自身も去年、一昨年と順調に伸長しつつあることに言及。
イオンとしては「お正月の価値」に徹底的にこだわり抜いておせち商戦に臨んでいるとし「お客様が『本当に美味しかった』という風に思っていただけていることが伸ばしている要因」と、自社のおせちの戦略・あり方に自信をのぞかせていました。
取材協力:イオン
(ヨシクラミク)