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短命に終わった「レンタル怖い人」 運営者・岡崎雄一郎さんに舞台裏を聞いた

 退職代行サービス「EXIT」や、寝坊すると課金される目覚ましアプリ「メザミー」など、独自の発想で注目を集めてきた起業家・岡崎雄一郎さん。その岡崎さんが2023年に立ち上げたのが「レンタル怖い人」です。

  •  このサービスは「怖い人」をレンタルし、いじめや近隣トラブルといった問題に立ち会うというもの。開始当初から問い合わせはあったものの、長らく依頼の成立には至りませんでした。

    レンタル怖い人公式サイト

     2025年8月、ついに初めての依頼が成立します。これを機に公式Xアカウントを開設すると、28日ごろにはインフルエンサーの目にとまり、一気に拡散。Yahoo!トレンドで当時の状況を調べると、「レンタル怖い人」は29日にピークを迎え、1日で約3800件ものポストが行われるほど話題になっていました。

     その一方で、公式サイトには特商法の記載がなく、運営実態が不透明だと指摘する声も少なくありません。

     サービスの性質については「非弁行為ではないか」「脅迫につながるのではないか」といった疑念や批判が相次ぎました。これに対し、「モラハラやストーカー対策に役立つのでは」と支持する意見も寄せられ、賛否が大きく分かれる状況となります。

     なお、表向きの運営者情報は公開されていませんでしたが、ドメインの登録情報から岡崎さんが関わっているのではと、一部では早くから指摘されていました。

     そうした中、8月31日には公式SNSで「諸事情により当サービスは終了しました」と突然の終了宣言。急激な注目の高まりから一転、わずか数日で幕を下ろすことになりました。

    レンタル怖い人公式Xより

     そして9月10日、岡崎さんは自身のXで「サービス終了の背景を話しました」と明かし、自らが運営者であることを公表。YouTubeでは約8分の動画を公開し、開始に至った経緯や実際の運営体験を語っています。

     また動画では、「問い合わせは多かったが依頼には至らなかった」「期待と提供内容にギャップがあった」「リスクに対してリターンが見合わなかった」と率直に振り返る場面も。

     そこで今回は、動画だけでは語りきれなかった点や、当時の舞台裏について、岡崎さん本人に直接話をうかがいました。

    ■ サービス開始と発想の背景

    ―― 動画で「レンタル怖い人」というサービスは、いじめ問題から発想を広げたと説明されていました。当時、具体的にはどのようなケースを想定し、レンタル怖い人としてどんな立ち会い方を考えていたのでしょうか?

    <岡崎さん>
     いじめや近所トラブルを主に想定していましたが、どんな問い合わせが来るかわからないので公式サイトには思いつく限りのことを書きました。

     立ち会い方はできる限りその場にいるだけがいいなと思っていましたが、最初はどんな問い合わせくるかわからないので様子を見ながらある程度柔軟に対応しようと思っていました。

    ―― ご自身が「怖い人」として出向くと語っていましたが、他に候補者はいなかったのでしょうか? 公式サイトには3人ほど掲載されていました。この点の実態や運営体制について教えてください。

    <岡崎さん>
     依頼が大量に来たらやってくれそうな知り合いに頼むつもりでしたが依頼はほとんどなかったので運営体制は結局自分一人です。

     最初はどんな状況でも自分で行くつもりでした、お客さんの温度感とかを知りたいので。

    ■ 実際の活動と依頼

    ―― 動画ではご自身が行くことに不安があったと振り返っていました。実際に依頼者に会ったとき、どんな心境だったのでしょうか?

    <岡崎さん>
     行くことに不安があったというかお客さんから見て自分が頼りになると思ってもらえるかが心配でした、迫力が足りないと思っていたので。お客さんに会ってすぐに「理想です」と言ってもらえたので安心しました。

    ―― 初めての依頼成立について、依頼者の反応や印象的なやり取りがあれば教えてください。依頼を遂行した後、どのようなフィードバックがありましたか?

    <岡崎さん>
     「となりにいてくれるだけでいい」と言っていたのが印象に残っています。依頼後にもらったのは「これで事が済むといいがまた何かあったらお願いします」みたいなメッセージだったと思います。

    ■ 反響とサービス終了

    ―― 動画では「問い合わせは多いが依頼に結びつかない」とも語っていました。実際にはどのような相談が多かったのでしょうか?

    <岡崎さん>
     近所トラブルや金銭トラブルが多かったと思います。

    ―― 「期待と提供内容のギャップ」を感じた具体的なやりとりがあれば教えてください。

    <岡崎さん>
     全然依頼に繋がらないからきっとそうなんだろうなという感じです。「怒鳴りつけて欲しい」みたいな相談もあることにはありましたが、、。

    ―― 法的リスクについては、「やる前からある程度わかっていた」といった内容も話されていました。問い合わせ対応を通じて、改めて実感したリスクにはどんなものがありましたか?

    <岡崎さん>
     初めて実感したというかやっぱりかなーみたいな感じでした。脅迫みたいな感じになるかなーと。

    ■ 騒動とその後

    ―― SNSで話題になった際、公式サイトに特商法や運営者情報がなく「不透明だ」という批判も広がりました。当時、裏側ではどのような状況だったのでしょうか? その時に感じていたことがあれば教えてください。

    <岡崎さん>
     サービスへの批判や不安を述べている人たちはどうせ問い合わせもしてこない人たちだと思っていたのであまり気にしていませんでした。

    ―― 今回の経験を踏まえ「形を変えて再開する可能性」についても触れていました。SNS上では復活を望む声もありますが、こうした要望をどのように受け止めていますか?

    <岡崎さん>
     同じ形で復活してもおそらくあまり依頼にはならないと思うので再開するとしたら何かしら形を変えますが、それは今復活を望む方達が欲しいものとは違うかもしれません。

    ―― コメントの中には「こうしたサービスを求める女性は多い」という声もあります。例えば離婚やモラハラの場面で「ただ同席してほしい」といった利用については想定していましたか?

    <岡崎さん>
     離婚やモラハラについて特別に想定していたわけではありません。「ただ同席してほしい」という利用方法も想定していたというよりは、「ただ同席するだけで済めばいいな」という感じでした。

    * * *

     依頼者の声に耳を傾け続け、たった一度ながらも「怖い人」として現場に立った岡崎さん。試みは短命に終わりましたが、依頼者からかけられた「となりにいてくれるだけでいい」という言葉は、このサービスの本質を象徴しているように感じられます。

     いじめや近隣トラブル、モラハラや離婚問題といった人間関係の軋轢は、法や制度だけでは解決できない領域を多く抱えています。そこに「第三者が同席する」というニーズが存在することは、今回の取り組みが浮き彫りにしました。

     「レンタル怖い人」という形はひとまず幕を下ろしましたが、社会の中で孤立した個人が安心を得る手段として、どのような仕組みが望まれるのか――。

     その問いは、今もなお残されています。

    <記事化協力>
    岡崎雄一郎さん公式X(@okazakithe
    レンタル怖い人(X:@rentalkowaihito/公式サイト:rental-kowaihito.com

    (宮崎美和子)

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    鹿児島県産。放送関連、印刷、ソフト開発会社を渡り歩きさまざまな職種を経験。ライターデビューもこの頃。その後ゲーム会社に転職しMD(主にサブライセンス管理)、マーケを経験。運営・システム関連では管理職も務める。2008年にWEBライターとして独立。得意分野はオカルト、ネットの話題、過去職の経験から著作権と雑多。趣味は読書。40才すぎてバレエを習い始めました。

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