今年の漫才ナンバーワンを決める「M-1グランプリ2019」決勝が12月22日に六本木ヒルズ・テレビ朝日で開催され、直前の敗者復活戦から勝ち上がった和牛を含め10組が出場。ミルクボーイが15代目、令和初の王者となりました。
準決勝では3年連続準優勝の和牛をはじめ、ミキ、トム・ブラウン、カミナリ、マヂカルラブリーといった決勝進出経験のあるコンビが敗退。勝ち抜いた9組中7組が初の決勝という、新時代の幕開けを感じさせる2019年のM-1グランプリ。いよいよ決戦です。
……と、その前に。準決勝で敗退した16組が最後のチャンスに賭ける「敗者復活戦」が、冷え込む六本木ヒルズのヒルズアリーナで行われました。開始時の気温は9度。途中から土砂降りの雨が降るという過酷なコンディションの中、詰めかけた熱心なお笑いファンの前で熱い戦いを繰り広げます。
これまでに敗者復活戦から優勝したのは、2007年のサンドウィッチマンと2015年のトレンディエンジェルの2組。さらに2008年にはオードリーが敗者復活から準優勝しています。
敗者復活戦はスマホでの全国投票を採用。会場だけでなく、生中継やネットにアップされる当日のネタを見た全国の人が採点し、その平均点で競われます。決勝の舞台であるテレビ朝日は目の前。暖房のきいた控室でネタ合わせをしているであろう9組と戦うため、残された1枚の切符を目指しました。
最初に登場したのは茨城(鹿行)弁漫才のカミナリ。全国投票ということもあり、営業で幅広い年齢層にウケているという家族ネタで勝負します。
続いて囲碁将棋、そして今年がラストイヤーとなる天竺鼠は「思い残すことのないように」と、川原さんの不条理ボケがツカミから大爆発。
2018年まで3年連続で準優勝と、あと一歩が遠い和牛。敗者復活戦で選んだネタは、引っ越しをしたい川西さんが不動産屋の水田さんの案内で、色々いわくつきの物件を巡るというもの。
唯一のアマチュアであるラランド、注射ネタで攻めたマヂカルラブリーと続き、人気のミキは「アナ雪」ネタで勝負。
これが初のテレビ出演というくらげは、結成1年目とは思えないほどこなれたネタを披露します。トリオ漫才の四千頭身は、先生をやってみたいという後藤さんが都築さんと石橋さんを廊下に立たせようとしますが、生徒の名前がことごとくお笑いの大先輩と被るというネタ。
東京ホテイソンはリズムの良い英語ネタ。錦鯉はボケ役の長谷川さんが独特な数え歌を怪演します。
セルライトスパもディズニーネタで勝負しますが、展開はオーソドックスな面接ネタ。大須賀さんのダンスがポイントとなりました。
双子コンビのダイタクは兄弟げんかネタで勝負。ロングコートダディはエビの天ぷらたちと合コンするという展開。
アインシュタインは、稲田さんがクルーザーのオーナーとなって女性役の河合さんをクルージングデートに誘います。稲田さんの風貌を生かした、鉄板ともいえるネタでした。
最後に登場したのはトム・ブラウン。みちおさんが、4つの「ぐみ」を使って安めぐみを合成するというネタで、布川さんのダイナミックなノリツッコミのアクションが見どころとなりました。
今回は決勝が始まった後、笑御籤(えみくじ)による出演順抽選で「敗者復活」が出た瞬間に出場者が決まるというスリリングなものとなりました。ラグビー日本代表の3人による抽選で「敗者復活」が出た瞬間、指名されたのは和牛でした。
そんな和牛が決勝に登場したのは、決勝の3番目。その前に、ファーストラウンドのトップバッターとして、結成9年で初の決勝に進出したニューヨークが登場。女性にひとつも共感されないオリジナルの「ラブソング」ネタを披露し、616点。
2組目に登場したのは優勝候補、3年連続決勝進出のかまいたち。言い間違いをしているのはどっち?というネタでしたが、ボケの数や笑いの大きさは圧巻。審査員の松本人志さんが「涙が出るくらい笑ってしまった」という、かまいたちの漫才は660点を叩き出しました。
そんな状況の中で、決勝のステージに登場した敗者復活の和牛。激戦の敗者復活戦を勝ち抜いた渾身の不動産屋ネタを決勝のステージでも披露。審査員の評価は、652点と高評価でした。
ただ、最終決戦に進めるのは3組のため、ここからは必然的に脱落者が出る展開になるのですが、そんな4組目に登場したのは、コンビ結成8年で初の決勝進出を果たした、すゑひろがりず。音曲漫才の一種ともいえる、狂言と合コンを組み合わせたネタで、637点。ここで、ニューヨークの2人が脱落しました。
前半戦最後の5組目に登場したのは、からし蓮根。自動車教習所のネタで639点をマークし、すゑひろがりずが脱落。6組目は見取り図が、褒め合いから罵り合うネタを披露。言葉選びのセンスが光り、649点と高得点で暫定3位に。からし蓮根が脱落しました。
続いて7組目。ここで登場したのがミルクボーイ。今思えば、ここから2人の快進撃が始まったといえるでしょう。会場中、いや日本中を爆笑の渦に包んだ「コーンフレーク」ネタは、M-1史上最高の681点で文句無しのトップ!このコーフレークネタの面白さは噂になっていたそうで、審査員の松本さんも「これぞ漫才というのを久しぶりに見せてもらった」と大絶賛でした。
見取り図が脱落し、8組目に登場したのはオズワルド。先輩のもてなし方のネタで638点と高評価でしたが、惜しくもトップ3に入ることができず、この時点でミルクボーイの最終決戦進出が決定しました。
9組目に登場したのは、コンビ結成9年で初の決勝進出、インディアンス。おっさん女子のネタを披露し、632点。インディアンスもトップ3に入ることができず、かまいたちが最終決戦進出をものにしました。
ファーストラウンド最後の10組目は、ぺこぱ。タクシー運転手ネタですが、ボケをツッコミつつも肯定する斬新なツッコミで、654点を叩き出し、わずか2点差で和牛を抜いて最終決戦進出を決めました。
決勝ファーストラウンドの結果は以下の通り。
1位:ミルクボーイ(681点)
2位:かまいたち(660点)
3位:ぺこぱ(654点)
4位:和牛(652点)
5位:見取り図(649点)
6位:からし蓮根(639点)
7位:オズワルド(638点)
8位:すゑひろがりず(637点)
9位:インディアンス(632点)
10位:ニューヨーク(616点)
最終決戦進出が見えてくる650点以上をマークしたのが4組、5位の見取り図も649点と非常にハイレベルな争いになりました。決勝ファーストラウンドにトップバッターとして登場し、会場を十分笑わせて616点をマークしたニューヨークが10位に沈む展開になるとは、誰が予想したでしょうか。
最終決戦に進出したのは、ミルクボーイ、かまいたち、ぺこぱの3組。その中でもミルクボーイは、2位のかまいたちを21点も引き離すという異次元の得点をたたき出しました。
最終決戦のトップバッターは、決勝ファーストラウンドのラストに登場したぺこぱ。お年寄りに対する席の譲り方のネタを、松本人志さんが「ノリ突っ込まないボケ」と表現した、斬新な松陰寺太勇さんのツッコミが炸裂し、会場は爆笑。
続いてかまいたちがネタを披露。映画「となりのトトロ」を見たことがないという自慢ネタ。「トトロ」を見たことがないというだけで、いろいろなバリエーションのボケと圧倒的な笑いの数と大きさに、これはかまいたちが優勝するのでは?と思った人もいたのではないでしょうか。
しかし、ラストに登場したミルクボーイの漫才は、その予想をはるかに上回りました。最終決戦で披露した「モナカ」のネタは、ファーストラウンドの「コーンフレーク」のネタと構造は同じと思いきや、家系図というアイテムが飛び出し、ファーストラウンド以上に爆笑を引き出していたのではないでしょうか。
ミルクボーイのネタを見て思ったのですが、松本人志さんが「いったりきたり漫才」と表現したこのネタの展開は、古典落語や大喜利などで見られる「〇〇のようで〇〇でない。××のようで××でない。それは何かとたずねたら……」という言葉遊びの応用のような気がします。
この問答を繰り返すことで、観客も「これは一体なんだろう?」と、漫才の相方同様に漫才の世界に入っていき、観客に聞かせるだけでなく、観客を巻き込んで笑いを作っていったのではないでしょうか。この点で、他のコンビとは一線を画した「巧さ」が際立ち、史上最高点が出たと思うのですが、みなさんはどう思いましたか?
3組のネタが終わった瞬間の審査員たちの困った表情がとても印象的でしたが、結果はご存知の通り、ミルクボーイが6票、かまいたちが1票。ミルクボーイの優勝で幕を閉じた「M-1グランプリ2019」。
松本人志さんも「過去最高と言っても良い。数年前なら誰が出ても優勝していたんじゃないかというくらいレベルが高かった」と話した通り、本当に最初から最後まで爆笑の連続でした。
歴代のM-1王者は、優勝をきっかけに「世界が変わる」と言っていいほどの売れっ子となっています。夢を掴んだミルクボーイが、これからテレビなどの各種メディアで、どんな活躍を見せるのか楽しみですね。
※決勝の写真はオフィシャル提供です。
取材協力:(c)M-1グランプリ事務局
(取材・撮影:咲村珠樹/佐藤圭亮)