お初にお目にかかります。おたくま経済新聞読者の皆様。私は、ライターの川上竜之介と申します。竜之介は、作家の芥川龍之介先生ではなくて、「うる星やつら」と「同級生2」の竜之介から拝借しました(年齢がバレますね)。
いわゆる、アニメや漫画のオタクです。「萌え」から「燃え」まで好きです。しかし、「うほっ」ではございません。
ただし、BLは嫌いではありません(ヲイ)。「男の娘」なんて大好物なジャンルです。どうぞ、よろしくお願いいたします。
さて、今回は、「アニメとファンタジー」というテーマで、一本のアニメを紹介させていただきます。
ファンタジーと申しますと、剣と魔法の世界を想像される方が多いかと思いますが、ちょっと不思議な世界も、SFも、ファンタジーの一部だと考えています(さすがにハードSFとファンタジーは違いますが)。皆様ご存知の、「魔法少女モノ」なんかもファンタジーですね。ファンタジーには、ハイ(異世界)やロー(現実世界)や時間モノなどいくつかの種類があります。
なかなか線引きが難しいジャンルではありますが、お付き合いいただけたら幸いです。
今回紹介するのは、「コンクリートロード」という、劇中に出てくるヒロインの月島雫の歌詞の言葉が当てはまる1995年公開のアニメ映画、「耳をすませば」です。
日本のバブルがはじけて数年が経過し、図書館の貸し出しカードがバーコード化されるという、そんな時代の物語です。
ヒロインは、都内の団地の公団住宅(コンクリートの塊)の中で暮らしています。そのような日常から、ある日を境にファンタジーの世界へと誘われます。
雫が電車に乗った瞬間、一匹のまんまるとした猫、ムーンが駆け込んでくるのです。
猫がファンタジーの世界への架け橋になるというのは、「長靴をはいた猫」や「不思議の国のアリス」や「夏への扉」などの小説にも見られます。児童文学やSFではよく使われている手法です。
それから、地球屋では、ドワーフやエルフの人形が出てきます。まさにファンタジーです。
しかし、「現実」という「リアリティ」を完全に放棄したわけではありません。むしろ、現実は恐ろしい程に、中学生のヒロインたちに対して急速に迫ってくるのです。
失恋や、なりたい職業などというのは、中学生には酷過ぎることなのかもしれません。しかし、人生にとっていつかは訪れる関門でもあるのです(失恋は別としても)。
フィクション作家というのは現実とファンタジーの世界を行き来します。そうなのです。雫は小説家志望なのです。そういう点では、「赤毛のアン」と少し似ているかもしれません。
さて、現実といいますと、「耳をすませば」の舞台のモデルは、聖蹟桜ヶ丘駅周辺です。現実の町が舞台になることで、より、リアリティが増します。
そんな現実の中に、ポツンとファンタジーが存在するのです。
雫と同じ学校の天沢聖司はヴァイオリン職人になるために、高校には進学しないでイタリアのヴァイオリン制作学校に行きます。
学歴社会がいまだ残る頃です。高校に進学しないというのは、当時としては、とても勇気のいる選択だと思います。
しかし、それよりも、中学生で、なりたい職業があるということ自体が珍しいことではないでしょうか。
ニートや不登校や引き篭もりという言葉が頻繁にメディアに出てくる現代です。特技や、なりたい職業が明確にあるというのは凄いことではないでしょうか。
やがて聖司に感化され、雫もやりたいこと(小説を書くこと)を見つけます。作品を完成させるということは一種の才能だと私は思うのです。
出来はともあれ、雫は小説を完成させます。
しかし、現実は厳しいです。その代償として、雫は100番も成績を落としてしまいます……。
そんな雫を叱咤しながら、「雫のしたいようにさせようか……母さん。一つしか生き方がないわけじゃないし。よしっ。雫、自分の信じるとおりやってごらん。でもな、人と違う生き方はそれなりにしんどいぞ……。何が起きても誰のせいにもできないからね」という親子の会話があります。
家族との関係が希薄になっていると叫ばれる昨今、このシーンは胸を打ちます。
最後に、監督の近藤喜文さんの言葉をお借りしますと、「勉強ができる子もいるし、できない子もいる。スポーツの得意な子もいるし、そうでない子もいる。いろんな子がいていいんだということを、子どもたちに言ってあげる必要があると思います。子どもたちを、ひとつのものさしで、はかるのはやめて、すべての子どもたちに「あなたはすばらしい」と言ってあげる必要があると思います」。
そのようなメッセージが、「耳をすませば」にはあるように思うのです。
つまり現代に必要なのは、コンクリートロードではなくカントリーロードなのだと思います。
しかしながら、現実の都会人は、コンクリートロードでたくましく生活しているのです……。
また、都会人にとっては、コンクリートロードがカントリーロードでもあるのです。
(文・写真:川上竜之介)
■川上竜之介:
筑波大学大学院博士前期課程修了(環境科学修士)。専門はまちづくり。児童文学誌でエッセイ入選。雑誌記事やゲームシナリオや漫画原作などを書いています。
アニメや漫画やゲームの町のデザインや、景観に関する雑記をHPに掲載中です。HP:(http://kawakami-ryuunosuke.jimdo.com/)