おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

ボーイング777の第1号機がアメリカ・アリゾナ州で博物館入り

 大型双発ジェット旅客機として世界中の航空会社で主力機となり、結果としてB747「ジャンボ」を引退に追い込んだボーイングのB777。日本の新しい政府専用機にも、派生型のB777-300ERが採用されています。その映えある第1号機(WA001・登録記号B-HNL)が引退し、アメリカのアリゾナ州にある博物館で展示されることになりました。

  •  中型旅客機B767-300と大型旅客機B747-400の中間を埋める、400席クラスの「767-X」として計画されたB777。計画段階から多くの航空会社にアンケートをとって需要動向を探り、設計段階で日本の全日空や日本航空のほか、ユナイテッド航空、キャセイパシフィック航空、ブリティッシュ・エアウェイズ、アメリカン航空、デルタ航空、カンタス航空の各社からユーザー側の意見を採り入れる「ワーキング・トゥギャザー」という方式を初めて採用した旅客機となりました。ボーイングとしては、操縦系統が油圧式でなく電気信号で伝達される「フライ・バイ・ワイヤ」を採用した最初の旅客機。また、世界で初めて全てがコンピュータを使って設計された旅客機でもありました。

     最初に発注したローンチカスタマーは、1990年10月15日に1億1000万ドルで34機(さらに34機をオプション発注)発注したアメリカのユナイテッド航空。これは同社のDC-10を置き換える目的で発注されたものでした。設計段階で、ユナイテッド航空は「本拠地であるシカゴから、ハワイ、ヨーロッパへノンストップで行けること」や「片方のエンジンが使えなくなっても、1基だけで安全に飛行が続けられるETOPSの条件を満たすこと」、「寒いシカゴの冬でも手袋をつけたまま点検用ドアが開けられること」などをリクエスト。胴体の太さはキャセイパシフィック航空のリクエストによるもので、基本モデルとなるB777-200の客室長さと座席配列の自由度は全日空とブリティッシュ・エアウェイズのリクエストによるものでした。

     搭載するエンジンはプラット&ホイットニー(P&W)のPW4000、ロールスロイス(RR)のトレント800、ゼネラル・エレクトリック(GE)のGE90から選択することになっていましたが、製造第1号機となった製造番号WA001はRRトレント800仕様。1994年6月9日にロールアウトし、同年6月12日に初飛行しました。この機体はアメリカやヨーロッパの航空局による型式証明を取得するための試験飛行に供され、1995年4月19日にアメリカとヨーロッパの航空局から型式証明を取得しました。通常、製造1号機は試験飛行に供されて、不具合の修正などが行われるためにメーカーの手元に置かれる期間が長く、顧客に引き渡される最初の機体となることは稀です。B777も例外ではなく、ローンチカスタマーであるユナイテッド航空に引き渡されたのは、製造1号機とは違うPW4000エンジン仕様のB777(登録記号:N777UA)で、1995年11月12日に引き渡されました。

     試験飛行で使用されたRRトレント800仕様の製造1号機(WA001)は、全ての社内試験が終了した後の2000年に、香港での登録記号「B-HNL」としてキャセイパシフィック航空(出自がイギリス系の航空会社なので、使用する飛行機にはイギリスのRR製エンジンが伝統的に採用されます)へと引き渡されました。以来18年、世界中を飛び続けトータルで2万519回の飛行、4万9687時間という飛行時間を記録して退役しました。そして記念すべきB777の第1号機として、アメリカのアリゾナ州ツーソンにあるピマ航空宇宙博物館に寄贈されることが2018年9月17日(香港時間)に発表されました。ピマ航空宇宙博物館は、屋内展示場だけで1万平方メートル以上の広さがある、世界最大級の航空博物館です。

     キャセイパシフィック航空のホッグCEOは「世界最初の777、B-HNLは我が社と民間航空の歴史において重要な位置を占める機体です。このたびアリゾナに新しい住みかを得て、多くの航空ファンを楽しませてくれるであろうことを嬉しく思っています」とコメント。キャセイパシフィック航空では、2021年に次世代型となるB777-9を導入予定。まだまだB777との縁は続きます。


     9月18日、B777製造1号機(B-NHL)はキャセイパシフィック航空3492便(マイク・エバンス機長、ナイジェル・ベスト機長、ジェシー・ジスキー副操縦士、ジョシュア・チョン副操縦士)として、香港からアリゾナ州のツーソンにあるアメリカ空軍デイヴィス・モンサン基地へと最後の飛行を行い、そこからトーイングカーで道路を渡り、空港に隣接する博物館の敷地へと入りました。ここには現存唯一のB-52A(3機のみ製造の3号機)やアポロ計画のサターンロケットを空輸するために作られたNASAの巨大輸送機スーパーグッピー(5機中の2号機)、DC-10やミサイルサイロ入りのタイタンII大陸間弾道ミサイル(ICBM)まで、およそ350機以上もの収蔵品があります。B777もその収蔵品の一員として、長い余生を過ごすことになります。

    Image:CATHAY PACIFIC

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 宇宙・航空

    ボーイングの実験機「エコデモンストレーター」登場 秋から実験開始

  • アメリカ空軍の次期ジェット練習機ボーイング/サーブT-X(Image:Boeing)
    宇宙・航空

    アメリカ空軍の次期ジェット練習機はボーイング/サーブ製に決定

  • 宇宙・航空

    ボーイング737通算1万機生産達成・あわせてギネス世界新記録に認定

  • 宇宙・航空

    ボーイングがF/A-18E/Fスーパーホーネットの近代化改修を受注

  • 宇宙・航空

    タタとボーイングの合弁企業がインドでAH-64Eアパッチの胴体を製造開始

  • ボーイングのMQ-25候補機(Boeing photo by Eric Shindelbower)
    宇宙・航空

    ボーイングがアメリカ海軍の無人空中給油機・MQ-25スティングレイの候補公開

  • 宇宙・航空

    『週刊 航空自衛隊 F-4EJ改をつくる!』登場 ボーイング社公認の1/32スケ…

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 「ウォーキング・デッド」特化オークションが初開催 総額3億円超の落札集まる
    エンタメ, 映画

    「ウォーキング・デッド」特化オークションが初開催 総額3億円超の落札集まる

  • ヤマト運輸、「当日配送サービス」開始 同一都道府県内運賃も新設
    企業・サービス, 経済

    ヤマト運輸、「当日配送サービス」開始 同一都道府県内運賃も新設

  • 嵐・四宮社長が偽アカウント多発に注意喚起 「来年のツアー用新アカウントの予定もなし」
    エンタメ, 芸能人

    嵐・四宮社長が偽アカウント多発で注意喚起 「来年のツアー用新アカウントの予定も現…

  • カレーシチューに、フレンチサラダ、本当にまずかった脱脂粉乳他(2300円)
    イベント・キャンペーン, 経済

    昭和の“たのしい給食”が期間限定で復活 脱脂粉乳まで再現した「絶滅危惧食フェア」…

  • 新商品「うまかっちゃん<濃厚新味 あごだしとんこつ>」
    商品・物販, 経済

    焼きあごの香ばしさと細カタ麺の共演 「うまかっちゃん<濃厚新味 あごだしとんこつ…

  • 北海道産のチーズを2種類使った秋冬限定フレーバー「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」
    商品・物販, 経済

    北海道産チーズのW使い!「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」がこの秋登場

  • トピックス

    1. 汗冷え対策は「ヒートテックの下にエアリズム」 ユニクロ公式発の裏ワザが再び話題

      汗冷え対策は「ヒートテックの下にエアリズム」 ユニクロ公式発の裏ワザが再び話題

      屋内と屋外で寒暖差が大きく、着る服に悩みがちなこの季節、SNS上で「エアリズムの上にヒートテックを着…
    2. 「ドラクエ7リメイク」にキーファ再会エピソード追加 衝撃展開にSNSでは「恨み節」も

      「ドラクエ7リメイク」にキーファ再会エピソード追加 衝撃展開にSNSでは「恨み節」も

      2025年11月12日午前7時に配信された「State of Play 日本」にて、「ドラゴンクエス…
    3. アカウント1の投稿

      【前編】それでも私は、書くことを選んだ―― Temu不審アカウントに挑んだ無名記者の記録

      ある日の調査作業の過程で、SNS「X」上において、急成長中の越境EC大手「Temu」のサポート担当を…

    編集部おすすめ

    1. 床掃除はおまかせ!「モップ機能つき生ルンバ」と化すビションフリーゼがかわいい

      床掃除はおまかせ!「モップ機能つき生ルンバ」と化すビションフリーゼがかわいい

      頭をぐりぐり動かしながら、床の上を滑っていく1匹のワンちゃん。飼い主さんが「モップ機能つき生ルンバ」と呼ぶビションフリーゼ・せとくんの動画が…
    2. 工場労働者2138人、1万時間の作業映像をオープンソース化 ロボット向け学習に活用

      工場労働者2138人、1万時間の手作業映像をオープンソース化 ロボット向け学習に活用

      工場向け自動化ロボットの研究開発を行うテクノロジー企業、Build AIが、工場労働者2138人による合計1万時間の作業映像をオープンソース…
    3. お菓子の家……ならぬ「つまみの家」誕生 お酒が進むオトナの創作料理

      お菓子の家……ならぬ「つまみの家」誕生 お酒が進むオトナの創作料理

      「解体しながら飲む」が合言葉。童話でお馴染みの「お菓子の家」を、そのまま大人向けに置き換えたような、その名も「つまみの家」がXに登場しました…
    4. 作業でたき火を燃やす新感覚クリッカー「たき火と猫」登場 癒やしと集中を両立するチル系ゲーム

      作業でたき火を燃やす新感覚クリッカー「たき火と猫」登場 癒やしと集中を両立するチル系ゲーム

      作業中に「猫」と「たき火」の癒やしを感じながら集中できる……そんな新感覚のゲーム「たき火と猫」のSteamストアページが公開されました。本作…
    5. アカウント1の投稿

      【後編】それでも私は、書くことを選んだ―― Temu不審アカウントに挑んだ無名記者の記録

      ※この記事は前編からの続きです。前編では、Temuを名乗る複数のアカウントを調査する中で見えてきた構図をお伝えしました。ここからは、Temu…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト